第二章 彼女視点 第二話──二つの想い
彼を△△。彼女を〇〇。
読者様の名前や好きだった人の名前に置き換えてお読みください。
夜、自分の部屋。
机に向かっても、ページの文字は頭に入らない。
窓の外の夜空を見上げながら、ふと昼間のことを思い返す。
スマホが震えた。画面には、親友である女子マネからのメッセージ。
『ねえ、大丈夫?』
続けて送られてきた。
『今日も学校で少しだけ元気なさそうに見えたし〇〇らしくなかったよ』
『ありがとう。大丈夫だよ』
心配してくれる親友がいてくれて私は本当いろんな人に支えてもらえてる。
『先輩、卒業したら遠くに行くんでしょ? 〇〇が寂しくならないかなって思って』
胸がきゅっとなった。
たしかに、寂しい。彼がいなくなる未来を考えると、どうしようもなく心細くなる。
でも、スマホを握りしめながら、ゆっくりと文字を打った。
『……寂しいのは本当。でもね、私は応援したいんだ』
『夢を追いかける姿をずっと見てきたから。だから今は、その背中を支えたいって思うの』
少し間をおいて返事が来た。
『そっか……やっぱり〇〇はすごいね。先輩、幸せ者だよ』
読んでいるうちに、自然と笑みがこぼれる。
寂しさが消えたわけじゃない。 でも、応援したいという気持ちは確かにある。
それに気づけただけで、心が少し整理されたような気がした。
スマホをベッドの横に置いて、部屋の灯りを消す。
静かな闇の中で、天井を見つめながら深く息を吐いた。
――あとどれくらい、こうやって彼と過ごせるんだろう。
同じ校舎で、同じ制服を着て、同じ時間を共有できるのはほんの数ヶ月。
思っていた以上に短い。気づけば指の隙間からこぼれていく砂時計の砂みたいに、あっという間に過ぎてしまう。
昼間、何気なく交わした言葉。
帰り道で笑い合ったこと。 コンビニで並んでアイスを食べた時間。
――全部が、大切で愛おしい。
未来のことを考えると、やっぱり胸が締めつけられる。
でも、その未来に向かって本気で走る彼を、私は誰より応援したい。
だから今は、少しでも多く彼と同じ景色を見たい。少しでも沢山笑い合っていたい。
枕に顔を埋めると、じんわりと目頭が熱くなる。
それでも、心の奥にあるのは不思議と優しいあたたかさだった。
――明日、また彼に会える。
その約束みたいな日常が、今の私にとって何よりの宝物だった。
布団の中で目を閉じると、今日の彼の姿が鮮やかに蘇る。
『足がゾンビ状態。歩くのが奇跡』
――あのふざけたメッセージ。
夕焼けに照らされながら、笑って「いいって。大した距離じゃないし」と肩を並べてくれた声。
コンビニの前でアイスを頬張りながら、何度も何度も私を笑わせてくれた表情。
その全部が、光となって私の思い出の中に積み重なっていく。
前向きな私と、踏み出せない私が交互に顔を出してくる。
――あと何回、こんな日を過ごせるんだろう。
そう考えると、切なくて、苦しくて。穴を開けられ空洞となるようなこの想い。
でも、その空洞を埋めてくれるのは彼の笑顔だった。
ひとつひとつがかけがえのない宝物なんだと気づかされる。
夢に向かって走り続ける彼を、これからも応援したい。
どんなに寂しさが押し寄せても、その背中を笑顔で見送れるように。
そして、隣にいられる今という時間を、全力で大切にしたい。
「……明日も、笑顔で会おう」
小さく呟いて目を閉じる。
まぶたの裏に浮かぶのは、制汗スプレーの爽やかな匂いをまとった彼の笑顔。
それがあるだけで、私は明日を信じられる