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第4話-2 花と喜一

 お花のお相手は喜一と言う。


 高等小学校をとっくに卒業した年上だ。平民出身だけど「人品卑しからぬ」という言葉がピッタリくる好男子で、今は警視庁で武装警察官となるほど優秀なのだ。


 武装警察官の仕事は治安の維持だが、これに関係しているのは、日本中で噂になっている「西の元大藩で謀反の動きがある」という話。


 もはや日の本で公然の秘密だろう。


 御維新の英雄が大奸物となったという、庶民からはわけの分からない状態だ。しかし、このままでは戦になるというのは誰しもが疑えない事実である。


 警視庁の武装警察官は、政府が用意した切り札と言っても良い存在。そして、喜一は武装警察官の若手でも人柄と武術が抜きんでているという評判らしい。


「警察様もいろいろと大変なんでしょ?」


 お珠の言葉に「訓練もあるし勉強も必要みたい」と答えるお花。


 武力一辺倒に思われるが、武装警察官になるのにも教養が必要だった。警察官でもある以上、法律を駆使するのも役目である。


 その仕事ぶりが認められれば名家の養子に選ばれることもなるし、部隊長クラスは華族の家を立てることもありうるらしい。


 よって、高等小学校で学ぶ内容は多岐にわたるし、社会に出るため実践的な授業が多かった。


 高等小学校には入れるのは選ばれた子弟であっても、通うとなると学費はそれなりに高い。通えない子どもが大勢いるのだ。


 お金と引き換えに大事な知識を受け取る場所だ。学校での学びを疎かにする者などいない。


 2人はそれなりの商家の娘だけに学ぶことができるのだという、自分の幸せを知っていたが、同時に、大人になる前の貴重な時間だと言うことも知っていた。


 いつの時代も、どこの世界でも「学校」時代の仲間は利害関係を越えた友情や愛がふわふわと花開く場所である。


『やっとお珠にも春がやってきたんだもん、ぜ~んぶ喋ってもらわないと』 


 お花は親友にやってきた「春」に興味津々であるが、お珠は自分のことを喋らないタイプだ。


「ね、私のことはいっつも話しているのにさ」

「うん。喜一さん、ステキよね。みんなの憧れる許嫁だもの」


 あからさまに話を誤魔化しにかかるお珠だが、そうは問屋が下ろさない。


「そろそろ、お珠も少しは教えなさいよ」

「え~ なんにもないよ?」

「そのケガの後のこと」

「あ、これ? でも、前に話したよね」

「私が聞いたのは治してもらったときの話だけよ。その後はどうなの?」


 女子第二高等小学校の二大美女と言われるお珠が幸せな顔をしている。


 足のケガを治療したときの「秘密」は聞いていた。


『ここで聞かないと、絶対に喋らないよね』


 男子も女子も、気にしているのは「二大美女で、お相手のいない方」だ。


「だって、気になるじゃん。その後、ハリさんとどうなの? 私にだけは白状してくれてもいいでしょ」


 2人が通りかかったのは、相変わらず混雑しているハリの治療院の前だった。


 なにしろ、治療院を見るだけでお珠の頬が赤だから本当は聞くまでもない。けれども親友の口から「幸せ」と聞きたいのが女心というものだ。


「う~ん。嫌われてはないと思うんだけど」

「あれ? でも、ハリさんが責任を取るって言ったんでしょ?」

「そうだけど。でも、まさか治療のために…… えっと、あの全部見ちゃったんだからお嫁さんにしろだなんて、さすがにお母さんのやり方って強引でしょ?」


 一通りの治療が終わり、骨さえしっかりくっつけば後遺症もなく元通りになるはずだと、ハリさんが保証してくれた。


 母のおマサが熱烈な感謝と莫大なお礼を渡したのは言うまでもないが、そのついでのように「乙女の柔肌を見てしまった以上、責任は取ってもらうよ」と持ちかけた話だ。


 お珠がずっとハリさんのことが好きだったのは事実だったが、その好きな相手に全部を見られた後だ。


 足が治る・治らないというよりも、心の余裕がなかったから、ただオロオロと見ているしかなかった。


 ハリさんは顔を赤くしながらも「責任を取る」と受け入れてくれた。


 いきさつはどうであれお珠は心から幸せだった。


 以来、ハリさんとは「婚約者」扱いとなった。毎日、母親に付き添われて婚約者のところに行っている。


 一緒に晩ご飯を食べる毎日であった。

 


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