第12話 針で解決、ハリは怪傑
念のため、裏参道に入った時に兵児帯を顔にグルグルッと巻いておいた。目だけ出てる状態だ。(持参しました)
何しろ決意を決めてるオレだ。
『やっぱり「痛み」は消しちゃわないとダメだよね』
オレは針治療師なんだから。
人の身体も世の中も、痛いところは丸ごと取っちまうのが天から与えられた使命に違いない。
『でもさ、どうせ人助けをするなら楽しんだ方が良いよね』
この日のために考えておいたネタを使うことにした。
『やっぱり、正義の味方の登場シーンには派手なポーズか、決めセリフが欲しいところだよ』
そして、目の前では女の頬を引っぱたいて、乱暴しようとするゴミがいる。
こういうのには容赦はしなくていい。
異能を発動させてから、ゆっくりと木立の闇から登場したんだ。
『あ~ 何だよ。気付かねぇのかよ』
脇目も振らずに女の脚を無理やり広げようと躍起になってる男。
でも、いきなり、暴れる女の足蹴で後ろにひっくり返ったんだ。
『そりゃ、下半身から力が抜けたんじゃ、女性のキックでも踏ん張れないよね』
唖然とした顔でひっくり返った男と、ようやく目が合った。
ここで出番だ!
「ひと~つ、人に憎まれ、嫌われまくる~「な、何だお前は!」」
あ、くそ、登場の時のセリフは、ちゃんと三つまで言わせるのが基本だろうが!
せっかく考えてきたんだぞ! 黙れよ!
「顔まで隠しやがって。そんなに憎まれている泥棒みてぇなヤツが、何でこんなところにいやがるんだ!」
「いや、ち、ちがっ「怪しい奴め!」いや、それは違くて」
ていうか、怪しいのは女を襲ってるお前達じゃね? あらら、お光ちゃんまでポカンとしてるよ。
「怪しくないなら何でこんなところにいやがる! 顔を隠しやがってよ」
「あ、す、すみません、出来ごこr…… 違うわ! 最後まで聞きやがれ! いいか、ふた~つ、不出来な「あ、何だお前は! 怪しい奴め!」だ、か、ら!」
こっちの声が聞こえたんだろう。お社《》の影で「順番待ち」していた連中が、慌てて出てきやがった。
「なんだか嫌われていて、不出来らしいぞ、こいつ」
「ん? 嫌われ者だ? オレらと一緒じゃねぇか」
「なんだなんだ? 仲間に入れてほしいなら、それなりのモンを出すんだな」
あー もう、面倒。
異能発動!
「あらら?」
「おい! なんだこりゃ?」
「力が、力が入らねぇ」
全員がヘナヘナと崩れ落ちる。異変を感じて走り込んでくるヤツも含めて、目に入ったヤツは片っ端から「腰麻」のツボだよ。
全員に腰椎の神経を遮断するツボに打ち込んでやった。
ハリによる腰麻だぜ。虫垂炎でも、痔でも、このまま手術できるほど効果抜群。
下半身に力が入らなきゃ、立つことだってできないわけだ。
「あ、ついでにな。オマエらヘナヘナとしてるけど、二度と立ち上がれないから」
なにしろ、普通の針じゃなくて「置き針」だから、一生覚めない麻酔なんだよ。
「テメェ、何しやがったんだ」
「いや、オレじゃないぞ。神聖な境内で不埒なことをしようとした憎まれモンだ。おおかた、神様がバチを当てたんだろ。オレができるのは女を助けることぐらいだ」
「何だと、この野郎」
「おいおい、罰が当たったのに、境内で悪態をついていると、次は命じゃねぇか?」
「なっ」
「馬鹿な」
「そんなワケが」
一斉に口を押さえてやんの。
何だかんだで「罰が当たる」っていうのは、こういう男達の大元の部分にすり込まれた概念だからね。
そこでオレは脱がされていた女性ものの着物を拾うと、ふわりとお光さんに後ろ向きで投げてから、男達を見回したんだ。
「聞けよ最後まで。聞かないと後悔するぜ」
何しろ、下半身に力が入らないどころか、感覚まで無くなっているのが分かってきたんだ。
摩訶不思議な危機をどうにかしようとしたら、オレの話を聞くしかない。
「み~っつ、醜いこの世の悪を、消してあげましょ根本から」
やった! 全部言えた!
ちょっと喜んだのに、全員がポカンと口を開けていた。
くっ、このままだと、なんかオレが痛い人みたいじゃん。
異能発動! 天突に置き針してやる!
鎖骨の端を結んだ線のど真ん中。本来は自律神経を活発化させるツボだ。
「ん? なんか、汗が急に」
「何だよ、オレ、この後どうなっちまうんだろ?」
「クソクソクソクソ 何でこんなことになっちまうんだよ!」
はい、普通なら心を安定化させるツボだけど、普通の人がこのツボを刺激過ぎると逆の現象が起きるんだ。
叫んだ連中は「発汗」「不安亢進」「イライラ」の症状ってことに違いない。
まあ、置き針にしてあげたから、一生そうして不安に生きろ。
「さて、そろそろ、着終わったかな?」
そう言って振り向くと、お光ちゃんは着物がはだけたまま逃げ出すところだった。
「ひぃ~ お助け~」
「え? あのぉ~ オレ、助けに、あの! ホントだよ?」
一目散に逃げていくお光さん。
オレの立場がメチャクチャ「なかった」件について。
へ~んだ。正義が勝つのは時間がかかるんだもんね。とはいえ、兵児帯だけに帯は締めたけど全然締まらない話になっちまったぜ。
家に帰って、ことの成り行きを飛ばして「お光ちゃんは無事だったよ」と報告したら、2人は詳細を聞こうともせず、ただひたすらねぎらってくれたんで助かった。
喜一さん達は無事「誘拐犯」を捕まえたらしいけど、全員が「腰を抜かしていた」というのは、東京の新聞で書き立てられたことである。
明冶の世に、神罰下るってね。
うん、うん。人知れず良いことをするのは気持ち良いよね。
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後日、お花ちゃんがお光ちゃんを連れてお礼に来てくれた。
もちろん知らんぷりをしたんだよ。正義の味方は正体不明じゃなきゃいけないからね。
お光ちゃんが「これは差し出がましいですが」と風呂敷包を取り出した。
「ん? 何?」
「私が縫ったものでございます」
「へぇ~ 何、これ?」
「どうぞ。よろしければ、次にお使いください」
巾着袋かな? ん? 違う……
「これって」
手渡されたのは、目出し帽のような頭巾だった。
やはり兵児帯を巻き付けたのがいけなかったんだろうなぁ。
※「兵児帯」:大幅(約74センチ)もしくは中幅(約50センチ)の縮緬地などをしごいて締める帯。薩摩の風俗であったが、維新によって上京した兵士達によって流行した。
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作者より
くどいようですが、たびたびクレクレをしてしまって申し訳ないのですが、ハリ君も頭巾を手に入れたことですし、作者のモチベーションのため、ポイントの応援をお願いします!
どうか、よろしくお願いします。
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