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異能「針治療師」は、今日もざまぁをかまします(完結済み)  作者: 新川さとし


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第11話 小さな神社

「喜一さんが、教えてくれたの」


 開口一番、お花ちゃんは心配顔でそう言った。


 事情を聞いてみると、まさに「警邏をお願いした」のが当たった感じだった。


 見回り中に怪しげな老人を橋の上で見かけた。名前くらいは聞く。不審者尋問というヤツだ。明冶(めいや)の世では警察官の不審者尋問にちゃんと答えないと,その場でボコボコにされても仕方がないとされている。


 老人は泣きじゃくっている上に、枯れ木のように痩せている。しかも、その身体で小さいとは言えお社を抱えているのでふらふらだ。


 とにかくお社を下ろさせて、名前を聞くところから始めたらしいが、涙と動揺で何しろ受け答えに要領を得ない。


 辛うじて聞き出した名前は、お花ちゃんがお願いしたときの名前と一致してピーンと来たらしい。


『お光さんという人が危ない』


 とりあえず、お爺さんを保護した上で、事情が飲み込めない同僚に預けて来た。


 喜一さんは,真っ直ぐにお花さんを呼び出すと、一緒にオレのところに来たわけだ。


 あ~ 実はついさっきまで、ふたりっきりの良い雰囲気だった。


 でも、お花ちゃん達が血相を変えての登場で、珠もカラリと雰囲気を変えた。素知らぬ顔で、いそいそと茶などを出してくれるところが「ホンモノ(おくさん)」っぽいとチラッと思ってしまった。


「よく分からないのですが、抱えているお社をコーラ様のところに持っていかないと、孫が危ないのだとか」


 喜一さんが首を捻る。


「それって、髙良神社のことでは?」


 と言ってみると、喜一さんがすかさず「え? あれは山城(京都)でしょ?」と怪訝な顔。


 すぐに珠とお花ちゃんが「あるよ」と声を揃えた。


「え?」

「あのね、喜一っあん。あるの。コーラ様が。浜町に入ってすぐのところに、ちーさな神社だけど」


 さすがに2人とも下町でやってる商家の娘だ。町の隅々まで知り尽くしてる。


 一方で、警察の人間は違う。祭りをするような大社なら別なんだろうけど、街角の小さなところなんて覚えてないんだよね。


 珠が「橋(清洲橋)からなら、ジイちゃんの脚でも20分もあれば着くよ」と柱時計をチラリ。


 こればっかりは実家からのオゴリをありがたく頂戴したものだ。イタリア製の柱時計は超便利。


 あと15分で9時を指そうとしてた。この世界の夜は暗いし、寝るのも早い。吉原でもなければ、8時を回ると外を歩く人間などいなくなるのが常だ。


 まして小さいとは言え、神社の中だ。どんな偶然でも人がいるはずもない


「ちょっとヤバいかも。喜一さん達がおじいさんを見つけたのは?」

「小半時(約1時間)ほど前になる」

「となると、連中がお光さんをさらって、お社を神社に持って来いって時間はたぶん、9時までってとこだろ」


 全員が、時計の針を見て、マジマジと目を見開いてる。


「どう…… どうします?」


 喜一さんが聞いてくるけど、いや、君は警察官だろ。オレに聞いてどうするんだよと、心の中で突っ込みつつ、ここが悩みの思案()ってね。


「これは誘拐事件として警察に出動してもらいましょう。私は一足先に行ってお光さんの様子を見ておきます」   

 

 何とも言えない顔をした喜一さんはチラッとお花ちゃんを見た後で「分かりました」と言った。


「できる限り急いで部隊を出動させます。それまでくれぐれも、ご無理をなさらないように」


 なんだか、喜一さんの目が「どうせなんかやるんですよね」的な感じなんだけど、オレは民間人だからね?


 ともかく、2人には留守番を頼んでおいてオレ達は同時に飛び出したんだ。


 ここから、距離だけなら走って15分ほど。だけど夜道はヤバい。灯りのない夜の街。暗過ぎるから「げんどう」を使っても、しょせん中身はロウソクなのだ。


 頼りないほどにボンヤリした灯りだ。こいつで走るなんて厳しい。っていうか、走って当たる風のせいで下手をしたらロウソクの炎が消えてしまうんだよ。


 一方で、喜一さんだって隊舎に戻らなきゃだ。事情を説明して、他の人をまとめて出動するのに1時間というところだろう。


 電話なんて存在しないし、街灯もない夜道だ。神社に到着するのに二時間弱は見ておかないとダメだろう。


 ともかく駆けるしかない。


『あ~ なんでこうなる!』


 ざん切り頭を掻きむしりたくなるけど、ともかく、走る、走る、走る。


 いや~ 真っ暗な道を走るのは、独特の疲れ方をする。肉体よりも精神をガリガリとヤスリで削られる感覚だ。


 そして遠くに、提灯が見えた瞬間、おれはげんどうのロウソクを吹き消したんだ。


 並木と家とでできる物陰の暗闇を選んで忍び寄る。その気でこっちを見つめていない限り、発見されるわけがない。


 そして直前の家の裏手を通って神社の裏参道へと回り込む。といっても、コンビニの駐車場ほどの広さの境内だ。小さなお社がそびえ立つ、ちょうど裏側に出ることになった。


『連中、なんてことを!』


 お光さんの白い身体が、裏の木につながれているのが見えた。もう肌寒いと言うのに、こんなマネを! って、怒るポイントが違うよね。


 可哀想に。恥ずかしさだろう、というか、恥ずかしくて逃げられないようにということなのかも。


 一糸まとわぬ姿のお光さんをなるべく見ないようにして様子をうかがった。


 10人ほどがゴチャゴチャとしている。暗すぎてどれが誰やら分からない。  


 突然、低い声が響いた。


「ジジイのヤツ、きやがらねぇな。えぇい! もう、いただいちまおうぜ。来たら来たで待たせておきゃ、いいんだ」


『え? マジ? オマエら、いくらなんでも神社でそれはないんじゃね?』


 自分に迫り来る男の影に、お光さんは引っ詰めた悲鳴を上げたんだ。


 途端に、男が動いた。


「黙れよ」

 

 パン 「きゃ」 

 パン 「いたっ」

 パン 「いやっ」


 引っぱたく音と交錯する悲鳴。


 うーん、ダウト。



※「思案橋」:長崎にある有名な遊郭街の手前にあった橋の名前。男達は遊郭に行こうかどうしようかと、ここで最後に悩んだ。ということから名付けられたと言われている。「ここが悩みの思案橋」というのは江戸末期に使われた有名な洒落(しゃれ)句。維新の志士たちが長崎と江戸を行き来するうちに「長崎ネタ」として芸妓達が三味線の囃子(はやし)言葉として使い、流行ったらしい。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

くどいようですが、作中の悪いことをしてない主な女性キャラは「危険な目」にはあいますが、寝取られはありません。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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