表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能「針治療師」は、今日もざまぁをかまします(完結済み)  作者: 新川さとし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/25

第9話 三方よし

 私の心は感謝の気持ちでいっぱいだった。


 何をどうしてくれたのかは、分からない。だけど、最悪の男が突発的な病を得て、あの日に急死してくれた。


 一人の人間が亡くなったのに「ざまぁ見ろ」なんて思うのは、人として最低だって分かってる。だけど、奴が死ななかったら、私は今ごろ地獄を見ていたはずだ。


この感情は、抑えきれない。


 ちょー 幸運(ラッキー)!!!!!!


 と言いたいところだけど、私は知ってる。これって偶然なんかじゃない。


 ハリさんのおかげだ。


 地獄に仏って言葉あるけれど、私にとっては本当にそう。神様だ。


 神社でお百度を踏んでもヤツは死んだりしなかっただろう。私はあの日、地獄の手前で戻ってこられたんだ。


 もう、何百ペン拝んでも拝みきれないよ。ただし、これは話しちゃいけないことだってことくらいはわかってる。おそらくお珠ちゃんにもダメなこと。


 だから、ヤツが急死したと聞いたあの日、治療院に行って、ただ深く頭を下げてきた。きっとそれで伝わるから。思った通り、ハリさんは何も言わなかった。


 もちろん、恩に着せるようなことだってひと言だって。ううん。その気配すら感じさせないほどに自然な感じ。

 

 もしも喜一さんがいなかったら、私もときめいていたかもしれない。さすが、お珠ちゃんの良い人だよ。


 恋心にはならないけど、海よりも深い感謝の気持ちは変わらない。そして、あたしは商売人の娘だよ。


 感謝は形にしないとダメだって、身に染みてる。


 そして、幸い私のお父っあんは商売を繁盛させてきた人だ。

 

 下町の居酒屋を受け継いだだけだったのに「娘が生まれた」という嬉しさで商売に精を出した。次々と手を広げたお陰で、このあたりの料亭、食堂、飲み屋さんは全部ウチのモノになってしまった。


 使えるモノを全部使っても、返しきれない恩だけど、せめてもの恩返し。


「父ちゃん、実は喜一さんを救ってくれたのが、お珠ちゃんの良い人なの」


 かくかくしかじか。


 寝鳥のことはさすがに話せない。でも、喜一さんの腕を西洋医学よりも早く治してくれたって話だけはできる。それだけだって奇跡みたいなことだもん。


 お陰で、悪辣な師範にもやり返せたってことも、付け加えておいた。


「そっか~ 義理の息子の未来を救ってくれたんだ。これで恩を返せなきゃ、江戸っ子の名がすたるぜ」

「おとっちゃん。あたしのやり方で恩を返させてもらっても良いでしょうか?」

「あたりきしゃりきの、車引きよ。おー おいら江戸っ子だい。お前の気の済むまですきなようにやんな。父ちゃんは一切文句を言わねぇよ」

「ありがとう!」 


 父さんは「恩返しだ」と張り切ってくれても、ハリさんは大げさなことは好まないはず。ヤツをやっつけてくれたことだって、私に一切、話さないくらいだもん。

 

 ということで、ハリさんがウチの系列のどこの店に行っても「中身」をグレードアップされるようにした。


 この先、一生だ。

 

 こんなことで恩返しできたなんて思わないけど、何もしないより全然良いもんね。


「というわけで、この兎屋でも、ハリちゃん達が来たら頼むわよ!」

「「「「「「はい」」」」」」


 店員のみなさんは元気よく返事をしてくれた。よし、この店もだいじょ……


 返事をした後、ヨタヨタと店の端でしゃがみ込んでる店員さん。


「ね? お(みっ)ちゃんだよね? どうしたの?」


 顔色が良くない。番頭さんにこっそりと聞いてみた。


「いえね。(みつ)の家は清洲橋を渡った所なんですが、なんでも、そこにセメント工場ができるんだとかで、立ち退かなんねぇだとかなんだとかで」

「わっ。セメント工場? すごいのね。代わりのお家は?」

「借家ですが、橋のこっち側に用意されるそうです」

「それなら、良かったじゃ無い。店にも近くなるし」

「ええ。そっちは良いんですよ。ただ、光の家にはジジイがいましてね。老い先短いんだから、あと一年、今の家で死なせろと聞かねぇらしいんですよ」

「わ~ 家族の問題になっちゃうんだ」


 お仕事のことや、お光ちゃん自身のことなら、いろいろと相談にも乗って上げられるけど、お祖父ちゃんのことだと、口を出すのもどうかと思う。


 難しいな。


 あれ? でも、こめかみを押さえてる。


「ね? どうしたの?」

「あ、お嬢様。何でもござ、んっ、大丈夫でございます」

「大丈夫って顔色じゃないよ。あ、そうだ! ね! チョットお光ちゃんを借りていいかしら?」


 番頭さんは、鳩が豆鉄砲を食らったみたいに目を剥いた。開店時間が迫っているのに店員を連れ出すっていうのは普通じゃないからだ。


 そのくらい、私だって分かってる。でもさ。


「いかがしましたか?」

「見てよ、頭がかなり痛いみたい。どのみち、こんな調子じゃお店の方でも困るでしょ? ハリさんのところにつれて行くわ」


 番頭さんは、お嬢さんのワガママじゃ仕方ないなと言う感じで「はぁ」というため息一つで許可してくれた。


 どのみち、これだとお客さんの前で笑顔なんて見せられそうにないものね。


 私は遠慮無く、お光ちゃんを連れ出した。


 ハリさーん、何とかしておくれよ!


 患者さんには不自由はしてないと思うけど、支払いはウチ持ちだから、たんまり払える。そして、具合の悪い店員は治してもらえる上に、治った店員は店で愛想を売るからお客さんも喜ぶことになる。


 商売人の心は「客よし、店良し、(ちまた)よし」の三方よしが最高っていうからね。


 こうして、具合の悪い子を連れて行くのも恩返しだよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ