第8話-2 お顔に凶相が
もはや、怪しげな男に関心だとない。
「占い師だと? 占いの売り込みなぞ聞いたこともない。帰れ帰れ帰れ。 お前のような下賤な者に用などない。帰れ!」
「いや~ でも、占って参ったのですが、予想以上にお悪いご様子ですね。お顔に凶相が浮かんでいらっしゃいますが、ご体調はいかがでしょう?」
「ん? なんだと? 言うに事欠いて、オレの調子が悪いとでも言うのか!」
「そうですね~ あ、ひょっとして、この数日で何か嬉しいことでもありました?」
「ん?」
「人間って不思議なもんでして。好事魔多しって昔から言うんでさ」
男は占い師特有の扮装なのか、片目に眼帯を付け、前髪がそれを半ば隠すという奇妙ないでたちで「ヒッ、ヒッ、ヒッ」と引っ詰めた笑いを見せる。
あまりにも怪しすぎる。
「貴様、舐めたことをするんなら詰め所にしょっ引くぞ」
「おぉ、怖い怖い。私はその、チョットだけご忠告をいたしに参っただけでして」
「ふん。いい加減なことを言いおって。早く帰れ。私は忙しいのだ」
この後すぐお花が来るのでなければ、その場で逮捕してしまいたいほどに不愉快な男だった。
「二度と来るな。今だけは見逃してやる」
腹立たしさに紛れて蹴り飛ばしてから、乱暴にドアを閉めたのであった。
そのやりとりを奥の部屋で聞いていた下っ端達は、ここが出番とゾロゾロと出てきた。しかし、今、騒ぎを起こすのはマズい。
「なんかヘンなヤツが来たが、もう、いい。追い払ったからな。それにしてもお花はまだ来ぬ。お花にならんな…… うっ」
「寝鳥様!」
「副指令、どうしました!」
「副司令殿!」
・・・・・・・・・・
まあ、時限信管みたいなものだな。
5秒後に心臓を止めるには、心房と心室の連動を電気的に狂わせるだけで良い。血液を送り出す最初の拍動では気付かなくても、すぐに心臓全体がケイレンを始めるのだから。
窓から室内を覗くと、男達が倒れた男を囲んでいる。
「えっと、アイツが異能持ちだろ?」
異能「針治療」発動!
肩関節の周りの筋肉全体に「置き針」を仕込んでおく。短い針を完全に身体の中に埋め込むやり方だ。
「これで、ヤツの腕は肩より上で速い動きができなくなると」
いくら異能があっても、身体が満足な速度で動かなければ、どうにもならない。日常生活では気付かないはずだ。
『剣を握ったときに気付くだろうよ。その時がお前の終わりだよ』
武装警察官の師範が、満足に剣を振れるずにボコボコにされるしかないとなれば、コイツにはもう未来がない。いや、惨めな未来だけが待ってるはずだ。
『異能で偉そうにしてきたお前には、死ぬより辛いだろ?』
殺しちゃった方が手っ取り早いが「ざまぁ」は必要なのだ。ちなみに、現代医学ならレントゲンで簡単に見つけるだろう。だけど、今の西洋医術の水準で肩の皮膚を開いても、あんな細い針を見つけられるわけがない。
しかも、筋肉の中の5ミリにも満たない針を取り出す方法なんて存在しない。
「おっと、手下どもと一緒に、こっちのお仕置きも受けてもらわないとね」
異能「針治療」発動!
前立腺の根本に、同じように置き針を打ち込んでおいた。
「前立腺を手術すると、たいてい、そのあとはEDだからね。オマエらは、ずっとそれでいろ」
手下どもの剣は普通なら喜一に敵わないと聞いている。
だから、これで十分なはずだ。
『やっぱり「痛み」は消しちゃわないとダメだよね』
オレは眼帯を外して背筋を伸ばす。
今日も青空が綺麗だねぇ。
お珠とお花が待ってくれる診療所に、 オレは胸を張って帰ったんだ。
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急死した副司令官の葬儀などでバタバタと二週間ほど経った。
再開された訓練において、喜一は「特訓の権利」を行使したらしい。
腕が完全に治った喜一と、腕が満足に動かぬ異能持ち。
喜一が圧勝したのも当然のことだった。




