第6話-2 不幸せの青い屋根
『なんてやり口なの。悪賢すぎるわ! 計算尽くで喋ってるんだ』
言葉だけで見れば何も悪いことを言ってないのだと理解するのは、お花ならではの頭の良さだ。
正義感の強いお花だが、寝鳥のあくどいやり口が腹立たしいが怖くもある。
『あいつ、マジで手慣れている脅し方よね。しかも実行しても心を痛めずに、相手が音を上げるまで追い詰めてくるタイプよ』
言葉をいくら反芻しても、寝鳥は「たまたま道で会った部下の許嫁に、心配事があれば相談に乗ると言っただけ」と言い逃れられるセリフだった。
一つひとつの言葉は脅迫でもなんでもない。しかし前後の言葉とニュアンスは許嫁を人質にとって「月に2回、貞操を差し出せ」と伝えていた。
なんて男!
しかし、どうしたらいいのか分からない。
『喜一!』
しかし、今はともかく喜一だ。ケガをしたと言っていた。
カバンを抱えて、お花は全力で武装警察官の寮に向かって走ったのだった。
街の中心にある武装警察の建物は下町と官庁街との間にあるからすぐだ。
治安組織のため、建物の一部はそのまま寮になっている。
基本的に独身者はここで暮らすのが義務。妻帯者であっても当番の日は、ここに泊まることになっていた。
警察の寮は、妻以外の女性は入れないことになっている。しかし「婚約者」はちょうど中間の存在なので、門番を務める当番の警察官の機嫌次第では入れてもらえることになっていた。
喜一は若手のリーダー格で人気者。普段、差し入れなどを持って顔を売っているお花が正式な婚約者であることも知られている。
おかげで顔パスで中に入れてもらえた。
部屋に突入すると、濡らしたタオルで懸命に腕を冷やしている喜一がいた。鍛えあげた男性の身体を見たのは数えるほどだが、恥ずかしがっている余裕はない。
「もう~ 喜一さんったら! こんなに酷いケガをして!」
「いや、面目ない」
左手がぶらりとしていた。まるで力が入らないらしい。
「見せて」
「あ、いや、ヤバいって。いくら婚約者でも部屋に二人っきりだしっツッ!」
痛みで顔をしかめた。
『我慢強い喜一さんが、こんなに痛がるなんて』
お花の手が触れただけで、この反応だ。尋常ではないケガということ。
タオルを絞って冷やしながら、ケガをした時の話を聞いた。
やはり、である。
いつになく、木剣による稽古を命じられた。相手は「剣術」の異能を持っている指南役だ。
もちろん異能持ちに敵うわけがない。胸を借りるつもりで挑んだが、何度も何度もしたたかに打ち据えられた。しかも、同じ場所を何度もだ。
さんざんに腕を打たれた後「乱取り」が命じられた。これは仲間内で組み合っての互角の稽古だ。
いつもなら、自分から逃げ回る男達が次々とかかってきたらしい。
普段ならかすらせもしないはずの相手だが、左腕が満足に動かないのでは厳しい。しかも、連中は左腕ばかりを狙ってきたのだという。
結果として、腕が上がらなくなったのが今日の訓練だった。
「ほら、警視庁には西洋医術の医者もいるからさ。この後、診てもらう約束なんだ」
心配させないように喜一は気を使っているのだろう。
しかし、どう見ても左腕は骨に影響が出てるレベルだし、二の腕は全面的に紫色になっている。
『こんなことを、またされたら、喜一の身体が壊れちゃう』
心配が顔に出ていたが、恋人のケガを見た時の表情としては当然のこと。
「お花? 心配しないで。ボクたち武装警察官はケガをするのが仕事みたいなものだからさ。この程度のケガなんてすぐに治してみせるから」
違うの! とお花は心の中で泣きたかった。




