第1話-1 流行の針治療院
短期連載になります。
最終話まで執筆済みですので、安心してお読みください。
江戸が東京と改められて10年の月日が流れた
東京にあった大藩のお屋敷も主を次々に変え、時に豪商の邸宅となり、時に政府の役所として使われている。
元号は「明冶」と定められ、江戸は東京と名を改められた。
世が移ろい、華やかなおサムライ達がどうなろうと庶民の暮らしに変わりはない。
いや、むしろ、新時代に適応しようとした庶民達は、今日もワイワイとたくましかった。
ここは、商店の建ち並んだ銀座の裏通りにある小さな針治療院である。
まだまだ西洋医学は高価な技術である。お役所のお偉い様や、豪商達の独占するものだと認識されていた。
庶民が頼るのは昔ながらの漢方や針灸であった。これらの開業に免許はいらない。代わりに、腕の良し悪しの見極めはシビアだ。
特に、下町の女将さん達はお互いの情報交換が盛んなだけに、いったん高評価を得ると客はいくらでもやってきた。
今も治療台でうつ伏せになっているのは、下町で一番の店を構える女将さんの
さんだ。年頃の娘がいるとは思えない美貌とスタイルの持ち主でもある。
「あ~ 楽になったぁ。ハリちゃんの治療はホントに良く効くよねぇ。あっと言う間だよ」
「ははは。効いたんなら良かった」
実は頭に浮かぶ所に、自動的に針を打てる異能のおかげだ。
お開化以来、日本人が12歳になると希に発現すると言われている。
なぜか、武士の血筋に授かることが多く、数千人に一人の割合。もっともっと稀だが庶民にも授かることがあった。
とは言え、これは公式に認められているモノではないし、人に吹聴するものでもないとされていた。
いろいろな異能が存在するが、戦いに使える異能はお武家様の専売特許。戦闘系の異能を持っている人間に、異能無しの人間は絶対に勝てない差が付くものだ。
かつての江戸三大道場の目録以上を持っているのは全員がなんらかの異能持ちであったといわれている。また、各藩の指南役の家系以外が師範に経つ場合、ほぼ必ず、剣術の異能を持っていたと言われている。
一方で庶民に授かるのは「生活」異能だ。農業で使える「緑の手」だとか、商売に便利な「計算」の異能、各種の薬草に特化した「薬局」などの異能などがポピュラーである。
オレが授かった「針治療師」は超希少な異能だった。存在すら知られてなかったが「使い方」は問題ない。ほら、歩く時の足の使い方。茶碗を持つ時の掴む力や持ち上げ方は身体が勝手にやってくれるだろ?
異能を使うのも同じこと。
針治療師の異能の場合「何を治療するのか」を決めた瞬間、針を打つべき場所が分かる。しかも患者さんの体内に針を生成できるんだ。
針治療師の異能はツボを絶対に外さない。上手く言えないけど、治したい症状を頭に浮かべただけで、ピカッと光る場所が頭に浮かぶ。後は「治療開始」で針を生成してあげれば良い。
基本的にツボって痛点とはズレているからちっとも痛くない。まあ、支払いの悪い奴の場合は、一本くらい、ワザと痛いところに打ってやっても良い。ま、めったにやらないけどさ。
物理的な刺激で直接神経を刺激・遮断することまで可能な針治療師の異能は万能に近い。特に肩こりみたいな痛みには劇的な効果があるんだ。
おマサさんも、ひどい肩こりと頭痛を治療しにくる常連のひとりだった。
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