2 生意気なガキ
ここで目を覚ましてから7年がたった。
小さかった俺の体もかなり大きくなってきて、自分で動けるようになった。
どうやらこの世界に電気はないらしい。
電灯も、機械も何も無い。
文明の利器の力を知っている俺からすると、流石に田舎すぎると感じる。
まあ、少ししたらそれも慣れてきたんだが。
あと、喋れるようになって、呪文を唱えたりしてみたが、魔術は出なかった。
母さんに教えてほしいと言っても、「ユーちゃんにはまだ早いかなー」
といって教えてくれない。
転生者なのに...
せっかく転生したというのに、なにか特別な技能や才能があるわけでもなく、
毎日筋トレや本を読むだけの日々。
退屈ではないが、すこし平穏すぎるとも感じる。
アニメや漫画で見た世界とは違い、まあこれもいいんだけれどな。
と、まあ俺は至って順調に日々を過ごしている。
ちなみに今は物語の本を読んでいる。
この年で自分で本を読むような子はいないだろう。
意外と面白いんだこれが。
ーーーーーーーーーー
この世界の始まり、何千年も昔に四つの隕石が落ちた。
その隕石は世界に繁栄と混乱をもたらす。
隕石は魔力を秘めていたのだ。
人々は魔術を知る一方、魔物が現れるようになった。
人々はこれ以上の混乱が起きないよう、四つの隕石を封印し、
そこに四つの国を建てた。
しかしある時、一つの国の隕石が魔物の手へと渡った。
その国は一晩で滅び、世界中の魔物の力が強くなった。
残された三つの国は協力し、魔物から隕石を取り戻そうとしたが、
自分たちの国を守ることすら厳しくなっていた。
そんななか、ある英雄が姿を表した。
あらゆる魔術を使い、魔物を倒したその英雄は、
ついに隕石を取り戻すことに成功した。
三つの国はその英雄を称え、隕石のもとに国を建て英雄に褒美として与えた。
英雄は魔帝と呼ばれ、人々に尊敬された。
魔帝国家と呼ばれたその国は今後永遠に発展していくだろう...
ーーーーーーーーーー
とまあ、こんな感じだ。
正直、こんな英雄なんて、転生者なんじゃじゃないかと疑ってしまう。
しかし、本物の転生者である俺がこんなザマなので、この魔帝さんとやらは本当にすごいやつなんだろう。
「おーい」
そんな事を考えていると、遠くから声が聞こえてくる。
(今日は来るのが早くないか?)
ドタッドタッ
俺の方に走ってきている。
少しずつ呼ぶ声も大きくなってきた。
(やばいな...)
俺は本を急いで本棚の中に戻し、木刀に持ち替え外に出る。
木刀に持ち替えると、しっかりと握り込み、足を踏ん張る。
「フンッ!フンッ!」
俺は木刀の素振りを始めた。
地球の人から見るとおかしい光景かもしれないが、この世界では剣の修業をするのが騎士になるために必要らしい。
騎士というのは王国領土の治安を維持したり、重要人物の護衛をしたりする人のことで、騎士になったものは富と名声を得るらしい。
まあつまり、男の子のなりたい職業ランキングNo1ってところだ。
俺の親父は、俺を騎士にさせようとしているが、
正直こんなトレーニングなんか必要ないとは思う。
俺がしたいのは剣じゃなくて魔術なのだ。
「おっ、ちゃんとやってるな〜」
そう言って、俺の素振りを見る男。
そう、この男が俺の父親だ。名前はハスターという。
深い緑の少し長い髪、筋肉質な体に加えキラキラした笑顔。
正直、暑苦しい。
母親と同じく子にデレデレなタイプかと思いきや、スパルタ。
俺は物心ついたとき、まあ、一歳位から訓練をさせられた。
「ユーヴェンス〜腰が引けてるじゃないか!」
バンッ!!!
俺のケツを叩く親父。
普通に痛くてヒリヒリする。
「やめてよ、親父ぃ」
「何いってんだ、お前を鍛えるためだろ!
自分を守るのは他でもない、自分自身だ!」
こういう事を言うところが、暑苦しい。
子供にこういう教育していると逃げ出されそうだろ。
まあ、俺は転生者なので?全然?苦しくないですが?
この親父の仕事はこの周辺土地の統治と警備らしく、
家にいないことが多い。帰ってくる間だけでも訓練しておけば騙せる。
あんまり本気を出しすぎると辛いので、少し力をセーブいるし。
「ユーヴェンス〜、手ェ抜いてないかァ〜?」
(バレてたか)
「そんなことないけど?」
「じゃあ、俺と一回稽古するぞ!」
げ、親父と稽古か...
親父は、この一帯の警備を任されているだけあって、めちゃくちゃ強い。
俺が木刀で殴りかかっても、目隠ししたまま小指で吹っ飛ばせるくらいだ。
(正直、全然したくない...)
「じゃあ行くぞ!」
そう言って親父は近くにかけてある木刀を取り、構えを取る
(ガチじゃねえか!)
親父は思いっきり足を踏み込み、俺に向かって走り出す。
手加減とか知らないんだろうかこの人。
俺も負けじと木刀で親父の攻撃を受ける姿勢を取る。
上から振りかぶっているので、足を踏ん張り、正面から受けようとする。
すると次の瞬間
(え?)
俺の天地がひっくり返る。
(何が起こったんだ?)
ガンッ!!!
全く理解ができないまま、俺は地面に頭をぶつけた。
「イテテ...」
「お、すぐ起き上がれたな〜」
親父が俺に向かって喋る。
どの口が言ってるんだ、鬼畜め。
おそらく親父は俺が剣を受ける姿勢を見て、俺の足を払ったんだろう。
あまりの速さに俺は頭から地面にぶつかってしまった...。
5歳の子供に何してんだこの人。
「ユーヴェンス!やるじゃないか。
正直ここまでやれると思ってなかったぞ」
「何言ってるんだよ、一瞬で転ばされたぞ」
本当に、一瞬で俺は敗北した。
「正直、最初の一振りに反応できるだけすごいぞ?
お前はやっぱり俺の息子だ、剣の才能がある!」
親父が俺の頭を撫でる。
正直まだ痛いんだが。
「ちょっと!何やってるの?また稽古!?」
お、母さんが来た。
「ほんっと、怪我だけはさせないでって言ってるでしょ!!」
ガンッッッ!!!
鈍い音が親父の頭に響いた。
やはり、親父も母さんには勝てないらしい
「イッテ〜!いやぁ、ユーヴェンスが訓練してるか確認してるんだよ、
わかってくれよ、モノ」
そういえば、俺の母さんの名前はモノというらしい。
「じゃあ、見てるだけでいいでしょう、わざわざこんなことして、、、」
母さんは俺の方へと歩いてきて、頭を抱える。
【キュア】
そう唱えると、母さんの手に光が集まる。
やはり、みるみるうちに痛みが引いていく。
「どう?良くなった?」
「うん、ありがと!」
母さんの魔術は偉大だ。いつも怪我したときや痛いときに直してくれる。
おかげで産まれてこの方大事になったことがない。
五年たった今でも母さんの美貌は、衰えないどころか輝きを増している。
「もぉー!ユーちゃんのためだったら何でもするんだから!
いつでも言ってね?」
まあ、この子バカも治ってないが。
「そういえばあなた、今日は早いのね?」
「あぁ、そのことについてなんだけどな...」
親父が何かを喋ろうとしたときに、家の門からなにか声が聞こえてくる。
「すいません、こちらアルバロイ宅でしょうか?」
(なんの人だろうか)
何やら凄みのある男の人と、その従者であろう男が
うちの門前に並んで立っていて、従者が声をかけている。
ちなみに、アルバロイ家というのはうちの家名だ。
俺の名前は、アルバロイ=ユーヴェンスということになる。
門へと行こうとすると親父が俺の肩を持って止める。
「俺の客だ。ユーヴェンス、今日は稽古は終いだ。また続きをしよう」
(えぇー。正直続きしたくないぞ?)
「わかった!じゃあ遊んできていい?」
「いいが、日が落ちるまでには帰ってこいよ?」
「はーい」
(やった!自由時間だ!)
俺が一日の中で、外で自由に遊べる時間は少ない。
昼までは母さんの相手をしなくちゃならないし、そこから稽古。
遊びに行けても、日が落ちるまでには帰らなくちゃならない。
最近は家の裏の森を探検するのがもっぱら楽しみだ。
俺はすぐに秘密の通路、
まあただの垣根に空いた穴だが、を通り裏の森に進む。
(さっきの男達は誰なんだろう?親父を尋ねる人はそんなに少ない訳では無いが、家を確認するなんてこと、ここらに住む人じゃしないしな?)
(まあ、特に気にしないでいいか)
そう思っていると、俺のお気に入りスポットに着きそうだ。
少し開けたこの場所は、丸太に光が差し込んで、かなり、エモい感じなんだ。
ここにいるだけで異世界の中でもなにか特別な場所にいる感じがする。
そう思っていると、
(ん?なんかいるな?)
俺のお気に入りスポットに誰かいる。
大人じゃない。子供だ。それも俺と同じくらいの。
「おい!そこにいるのは誰だ!」
相手の方から声をかけてきた。
「えーっと、俺に言ってる?」
「そうだ、そこの腑抜けた面をしているお前だ」
ん?俺、いまバカにされた?
いや、聞き間違いかもしれないな
「俺は、ユーヴェンスっていうんだ、よろしくね」
「フン、お前ごときが私と仲良く慣れるとでも?
勘違いはやめてほしい。ユーヴェンスという名前も馬鹿そうだ」
俺、このガキ生意気で嫌いだ。
俺は初対面の礼儀を何よりも重んじる男なんだ。
自分が世界の中心と思ってるガキには世界の広さを教えてやらねば。
「へ、へぇ...でも、そこ俺の気に入ってる場所なんだ
ちょっと譲ってよ」
「嫌だな。私もちょうどここを気に入ったところだ
もし譲ってほしければ力付くでやってみるがいい」
そう言うと彼は腰から短い剣を取り出す
(マジモンの剣!?こいつ何者なんだ?
子供に与えるにしては過ぎたもんだろ)
「ふーん、そんな相応しくない武器なんか持っちゃって、
俺なんかそんな武器なくてもお前に勝てるね」
何挑発してるんだ俺、やられたらどうかんがえてもやばい。
こんな事せず謝って大人の対応をするべきだ。
「フン、ハッタリしか言えないやつは可哀想だな」
「はぁーーー!?じゃあやったりますわ。三つ数えたらはじめな!?」
あ、こらえきれず反応してしまった。
(もう、始まってしまうから仕方がない。お互い無傷で
終わらせることだけ考えよう)
「3」「2」「1」
そう言うと俺は地面を蹴って突撃する
「キャッ!」
ブンッ!!
彼は突撃に驚いたのか、少し叫び、剣を力任せに振り回す。
(大した事ないのか?いや、油断させて剣におびき寄せる
作戦なのかもしれない)
俺は慎重に後ろに回り、彼の足を払う。
ガン!!!
(あ...)
親父のように足払いをすると、彼は頭を逆さにしながら地面にぶつけてしまう。
彼は目を回しながら、しばらく動かない。
(やばいな...もしこのまま目を覚まさなかったら...)
多分、剣を持っているだけあって、いいとこのお坊ちゃんだろう。
でも正直、ここまで弱いとは思ってなかった。
構えも甘かったし、今まで甘やかされてたんだろうなぁ。
お灸を据えてやらねばと思っていたが、少しやりすぎたか。
大人げないと思い、申し訳なく感じてきた。
(まあ、このままにするのも悪いし、目覚めるまでは一緒にいるか。
俺がキュアって魔術を使うことができたら目も覚めるんだろうか?)
俺はお気に入りスポットに座りながら、彼を膝枕してあげた。
ーーーーーーーーーー
「ん...?」
少しすると彼が目を覚ました
「おはよう、よく眠れたかい?」
「んー、もうちょっとねるぅ...」
なんだコイツ、子供っぽいところもあるじゃないか
意外とかわいいな
「馬鹿にしてたやつの膝は気持ちいいですかい?」
「ッッッ!!!」
現状が理解できたんだろう。
彼は急いで起き上がり、俺を睨む。
なんだよ、お前も初膝枕だったのか?ごめんなこんな奴で!
やりすぎた感はあるので正直少し申し訳ないと思っている俺。
なんと声をかけようか考えていると、彼は下を向きながらプルプルと震える。
「...り...とぅ」
(なんて言ったんだ?)
「?」
服の端をつかみながら、顔がどんどん赤くなる。
「面倒見てくれてありがとうって言ってるんだ!」
「まあ、俺が気絶させちゃったし」
「そうかもしれないけど...」
なんか顔赤くしながらずっとゴニョゴニョ言ってる
そんな膝枕嫌だったのかな...ちょいショック。
まあ、そろそろ家に帰らなきゃだし、そろそろ帰るか。
「俺、もう帰るから。
ころばしたのはゴメンな、怪我してないか?」
「あ、う、うん...」
「じゃあなー、意外と楽しかったよ。
これに懲りたらもう生意気するなよ」
「別に生意気じゃないし!?
じゃ、じゃあね?」
あれ?意外と素直でこいつかわいい?
まあ、また今度遊んでやらんこともないな。
遊び相手にはちょうどいい。
そんなことを思いながら家に帰った。
「ただいまー!」
「じゃあ、ユーちゃんはどうするのよ!」
家に着くと、母さんの怒った様な声が耳に入ってきた。
是非続きを読んでください!
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