1 プロローグ
目を覚ますと、俺の視界には見知らぬ天井が広がっていた。
いままで、酔って記憶を失うことはあれ、
知らない場所で目を覚ますようなことはなかった。
二日酔いの影響か、まだ頭がぼんやりとしている。
起き上がろうとしてもうまく体が動かない。
(ここはどこなんだ...?昨日は、酒を飲んで、家に帰ったっけか...?)
あたりを見回すが、見覚えのあるようなものはない。
俺が寝ているベットの他に何もおいてない部屋。
周りにはドアと、窓の外に木が見える。
(知り合いの誰かの家ってわけでもなさそうだ。じゃあ、ここは誰の家なんだ?)
混乱している頭が、時間が経つにつれ少しずつ整理されていく。
俺は知らない人の家で寝ている。
そして俺がなぜ、いつからそこで寝ているのかもわからない。
酔っていたからと言え、こんなことをしては迷惑極まりないだろう。
(どうしたらいいんだ...謝って許してもらえるだろうか...)
(とりあえず、一旦起きて誰かいないか探してみよう)
そう思い、ベットから降りようとしたところで気がついた。
(俺、裸じゃないか!?)
俺の着ていた服がない。
ケータイも、財布も、身分証も、
俺のありとあらゆる貴重品がなくなっていた。
どうしたものか、
こんな状態で人に会ったら、謝るどころか更に新しい罪状が増えてしまう。
そうして混乱しているところでもう一つ、俺は気付く。
(というか、俺の腕、小さくないか!?)
驚いて自分の体を見つめようとする。
(な!?)
(お、俺の腕が短く、太く、ぷよぷよになっているじゃないか!)
やはりうまく体が動かない。
だが、これだけがはっきりと分かった。
手が、足が、体が、全く小さくなってしまっている。
(どういうことだ!?!?)
小さくなってしまった手足がボディにつっかえる。
(だからうまく動けないのか...)
理解が追いつかない。
俺は、某名探偵よろしく、体が縮んでしまったのか???
どうにか起き上がろうと手足を動かすが、バタバタとするだけでうまく動かない。
せめて、仰向けの状態から体制を変えたい。
この状態を人様に見せるなんてとてもじゃないができないだろう。
そうこうして手足を動かしていると、
(あっっっ)
俺の体はおしりを下にしてベットの外へと滑り落ちていく。
体を動かすが、うまく動かない。
重力に任せ、俺の体はズルズルとベットの中心から離れていく。
少しずつ、少しずつ。
そして...
ドテンッッッ
(痛ッッッタ!)
尻餅をついてしまった。
体の芯に響く痛み。
少したった今でも痛みは薄れるどころかじんじんと染みていく。
「ウゥー...」
喉から声にもならない息が漏れる。
「フゥーッ、フゥーッ」
(なぜだ?どうしてか体は熱くなり、涙がこらえきれない)
少しずつ、荒い息が嗚咽へと変わっていき、視界に涙が滲んでくる。
「ンナァッ、ンナァッ」
涙だけでなく声もこらえきれなくなってくる。
こんな年にもなって声を上げて泣くなんて、情けのない話だ。
しかも、誰の家かもわからない場所で。
しかし、自分で泣くわけには行かないと思っていても、
体は思うようには働かず、ついにこらえきれなくなった。
「ウワァーーーッッッ!ウワーーーン!!」
(なんてみっともないんだ...)
体は熱く、ビクビクとしながら声を上げて泣いている。
泣いているにもかかわらず驚くほどクリアな頭には、この状況は少々きつすぎる。
ドンッドンッ
そうしているとなにやら足音が聞こえてきた。
(やばいッ!こんな姿を見られてしまうわけには...)
バタンッ!
俺の目の前のドアが開いた。
その先には茶髪の美しい女性が立っている。
日本人とは思えないはっきりとした顔立ちには何か惹きつけられる物がある。
だが今の状況、そんなことを考えている場合ではない。
俺はこの人の家に、勝手に上がり込み、全裸で寝ているのだ。
(あぁ、終わった...この後の人生はどうなってしまうことやら)
そう思っていたが、
「あぁーーーーーーっ!大丈夫でちゅかぁぁーーーーー!」
俺を見て、目の前の美女は顔を崩し、急いで膝で俺を抱える。
(どういうことだ...?)
「痛かったよね?ごめんね、目を離してて、、、」
俺の背中をさすりながら、俺の顔を抱きしめる。
(ンッッッ!)
顔を覆う柔らかい壁に窒息しそうになるが、
不思議とその温かさが俺を安心させる。
彼女はなにかボソボソと喋り、俺に手を当てた。
【キュア】
光が彼女の手に集まり、俺の痛みは少しずつ引いてくる。
いつの間にか、涙は止まり、彼女の体を握りしめていた。
「強い子だねぇ、いい子だねぇ。」
そして、俺の頭を撫でながら彼女は続けた。
「でも、大事ではなさそうで良かったわ」
「ね?ユーヴェンス」
明らかに俺に向けて放たれた言葉。
しかし、俺を指すであろう名前に全く聞き覚えはない。
そして先程の痛みを治した呪文のような言葉。
俺には一つの考えが浮かんだ
(あれ、これ、俺ってもしかして、転生した?)
ーーーーーーーーーー
どうやら俺は転生してしまったらしい。
ここで目を覚ましてから数ヶ月がたった。
俺の寝床は相変わらず。目覚めたこのベットである。
まだ体が思うように動かないので退屈な日々だ。
寝るか、起きて部屋を眺めるかぐらいしかすることがない。
しかし、寝る子は育つというのは本当だったのだ。
寝ていると時間はあっという間に過ぎる。
いつも本当に眠いし、寝て起きたと思ったら一日経っている。
退屈な日々だが好きなだけ寝れるということは嫌いじゃない。
いくつかのこともわかった。
まず、この世界は俺が元いた地球の世界とは違うらしい。
この世界には、月が二つ存在する。
あと、俺の名前。
この世界では俺はユーヴェンスと呼ばれている。
どこかのゲームで聞いたことがあるような名前だが、特に関係はないだろう。
まあ、勇者みたいな名前でかっこいいけどな!
そして、言葉。
この世界に来てから、今のところ言葉や文字でわからないものがほぼない。
というより、理解はできないが意味は伝わるというのが正しい。
転生特典と言うやつだろうか。
やったぜヒャッフー!言語チートで無双!
と思っていたが、意味がうまくわからない言葉もあるし、
もちろん、動物の声が聞こえるポ◯モンのニャ◯スのような力もない。
現実はそうはうまくいかないようだ。
あと...
バタンッ
部屋のドアが急に開く。
「ユーちゃーん!!!」
この女。
彼女は俺の母親らしい。
サラサラとした短い茶髪に淡麗な顔立ち。
はっきり言って一児の母とは思えないほど美しい。
こんな人が地球にいたら、アナウンサーかモデルか、はたまた女優か。
どちらにしろこの美しさで食べていけるであろう。
「元気にちてましたかぁーーーー???お母さんが帰ってきまちたよ!」
「ンベロベロバァーッ!」
まあ、この行動さえなければだろうが。
彼女は、かなりの子バカだ。
心配性で、いつも俺のことを気にかけている。
正直はじめのうちは役得とも思っていたが、子としての本能だろうか、
少しづつ鬱陶しく感じることも増えた。
早めの第一次反抗期だ。
しかしおれは良識ある彼女の子供。
彼女が俺を思ってしてくれた行動に、俺は報いないわけにはいかない。
決して、俺がこの行動を制御できないとか、
彼女を面白いと思っているとかではない。
「ァヒャヒャヒャヒャッ!チャーイチャーッ!」
手をたたきながら、笑う俺。
そう、これは彼女が悲しまないための演技なのだ。
「フフフ!ホント、これ好きなのねぇ」
「あ、これもしてあげようか?」
【ライト】
彼女がそう唱えた瞬間、彼女の周りに光の玉が浮かび上がる。
「ンヤァー!フゥー!」
これには思わず歓声だ。
どうやら、この世界には魔術というものがあるらしい。
彼女のように、特定の呪文を唱えることで傷が治ったり、光ったりする。
それ以外の魔術を使っているのを見たことはないが、おそらくある。
つまり、この世界は地球の漫画やアニメと同じ、魔術があるのだ。
魔術があるのだ!
大事なことだから二回言ったぞ。
(うわっ!)
「アゥー...」
そんな事を考えていると、彼女が俺に手を伸ばし、持ち上げた。
最初の頃は持ち上げられる感覚が不思議で、落ち着かなかったが、
少しずつ慣れてきて、いまではこれをされるとすぐに眠たくなってくる。
まあ、今のところわかっていることはこれくらいだ。
地球に戻りたくないのかと聞かれると、戻りたくないわけではないが、
俺はこの世界をもう少し楽しみたい。
地球に戻るのは、この世界の魔術を知り尽くして、地球でもチートできるようになってからで十分だろう。
前の家族が恋しくないわけではないが、どういうわけか、俺にとっての今の家族は彼女なのだ。
俺の魂がこの世界に結びついてしまったのかは知らないが、前の世界の記憶はあるが、執着は特にない。
「でもあんまり起きてたらだめよ?子供は寝るのが仕事なんだから」
彼女が俺に語りかける。
「ユーちゃん、あなたはお父さんみたいに、たくましい子になるのよ、、、」
(あぁ、やっぱり、抱っこされると、すぐに眠くなる...)
「しっかり寝て、食べて、大きくなってね」
「おやすみ、ユーヴェンス、、、」
(あぁ、おやすみなさい...)
こうして、俺は再び眠りについた。
是非続きを読んでください!
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