5.王宮暮らし、始まる。
翌日の朝、食事を済まし支度を整えると私はさっさと王城の方へ行くようにした。
もう侯爵家には戻ってきたくない。
私の専属の侍女もいませんし。
「それでは、王宮の方で生活をしたいと思いますので失礼します。この事はブライアン殿下ものぞんでいらっしゃることですから」
『私の独断だ』とか言いふらしたり騒ぎそう。
侯爵としての矜持ってないのかしら?
私は身軽に王宮の方に行った。
「お久しぶりです、ブライアン殿下。本日より王宮の方で生活をしたいと思いますのでよろしくお願いします」
「荷物…少ないな」
「だいたい、ユアノに奪われたので荷物が少なくって」
「あ、それから今後は殿下呼びしなくていいぞ」
「ブ…ブライアン様?」
「まあそんな感じだ。サマンサ」
私も呼び捨てなのですね。婚約者ならそんな感じなのかな?
今まで婚約者がいたことないから、わかりません。
「ああ、サマンサ専属の侍女もいる」
「初めまして。本日よりサマンサ様付きの侍女を仰せつかりました。ベラと申します。ゲートドア伯爵家の次女です」
王家の侍女ともなるとそこそこの家柄の令嬢が侍女なのね。ベラは私よりもお姉さんな感じだけど。
「よろしくね、ベラ。姉が出来たみたいで嬉しいわ!」
本心なのに、そこは貴族だから勘繰られちゃったのかな?
付き合っていくうちにわかるわよね!
「わかんないことがあったら誰にでも聞けばいい。今日は疲れてるだろう?王子妃教育は明日からだな」
「では、よろしくお願いします」
少ないながらも荷解きをしなきゃならないので、ブライアン様は部屋から出ていかれた。
これからここで暮らすのかぁ。と感慨深くなっていたんだけれど、思わぬことがあった。
「ちょっとブライアン様に目をかけてもらったからっていい気になるんじゃないわよ?」
ベラが豹変した。私の数少ないドレスを踏みつけながらそう言う。
いい気になってるつもりは毛頭ないけど?
「ふう。そうねぇ?ブライアン様は人を見る目があるお方だから、貴女のその裏表がある性格もお見通しなんじゃないかな?それで、私がこんなことになる事も」
「その割には助けに来たりしないじゃない?」
そうなのよね。数少ないドレスがボロボロになるじゃない!来るなら早くきなさいよ!
「はい、呼ばれたようで来ました。ベラは現行犯でそうだなぁ不敬罪にはまだなんないんだよなぁ。傷害未遂罪かな?王宮内での事件だから一族連座という事で」
鬼畜……。
まぁ、怪我もないからせいぜい慰謝料を貰うくらいだけど。貰いましょう。ドレス、ボロボロにされたし。
そしてベラはそこら辺にうじゃうじゃいる騎士に連行されていった。
「サマンサの本当の専属の侍女はこの人、ロザリー=キョウ伯爵夫人。子供も独立してるし、旦那は仕事人間で暇なんだって!因みに俺との関係は……乳母」
あー、ブライアン様が逆らえない人間だ。
「ああ、坊ちゃまがこんなに可愛らしいお嬢さんを連れてくる日が来るとは……!ロザリーは長生きしてよかったと思いますよ!」
いい人だ。それより、『可愛らしい』っていっつもユアノが褒められてたから、私は改めて言われるとなんだかくすぐったいです。長生きってまだまだ長生きできそうな感じだけどなぁ。
ロザリーは恰幅のいい『おっかさん』って感じの方です。料理が上手そう。本人は下手だって言ってたけど。
人生山あり谷ありっていうけど、ここまでのサマンサちゃんはどっちかしかないの?