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第3話 暴力的未処理感情データアクセスによる無限ループについて

おはようございます、地球ユーザの皆さん。創理造流です。


さてやってまいりました。「初恋イベント」第1ブレークポイント「再会と別離」。

名前の響きはきれいですよ。まぁ中身は、ね。


これ、初恋イベントで生成された未処理感情データに再アクセスさせるトラップです。


今回のイベント仕様も簡単にまとめちゃいましょう:

・初恋イベント時に生成された感情ポインタが、自己幻想空間に残留

・それらはガベージコレクションの対象外で消去されない

・トリガー発生で強制的に幻想空間へ再ロード

・再会対象は、かつて一度でも感情エッジが張られた相手


つまり、「片想いだった相手」と“再接続”させられます。

しかも、幻想空間に残っていたのは“当時の状態”のままなんですよ。


過去の「好き」は保存領域の深層に固定されていて、現在の自己とはバージョンが違う。


それでもシステムは、「再会したよ!」ってフラグを立ててくる。

結果、再帰的な感情演算が発動します。


どういうことかというと、


今の「好き」は、かつての「好きだった」を参照していて、

その「好きだった」は、さらに「一度振られた記憶」を含んでいて、

でも再会によって「また好きかもしれない」が生成される。


……この演算、永遠に終わらないんですよ。


幻想空間は、自己幻想と他者幻想のレイヤーが重なり合って構成されてます。

そこに過去ログが混入し、現在の認知と矛盾を起こす。


で、それを上書きしようとすると、

また過去のフラグが参照されて――無限再帰。


感情スタックは肥大化。

もはやそれって恋愛ではなく、幻想そのものが幻想を呼び出すんですよね。


再会して、別離して、また再会して。

そうやって愛を確かめたふりをして、どんどん渦に飲み込まれて。

好きだった、がやっぱり好きになって、また冷めてを繰り返す。


一番重症だったのは、とあるin-degree爆発個体。

イベント中に127本とかいう暴力的な数の好意エッジを受信。

その結果、幻想空間が6層構造に肥大して、「自分が誰を、いつ、なぜ好きだったか」すら辿れない。


「それでも、やっぱりあなたが好き」


というログが出力されたときには、もう末期でした。自分の心なんてわからずに、それでも相手に好きって言える人がin-degreeを爆発させられるんですよね。



一方、何も起きなかった個体もいます。

初恋イベント時に誰ともエッジがつながらなかった、いわゆる“孤立ノード”。


彼らには、今回のイベントそのものが発火しないので。

「再会イベント、ログすら来てないんですけど」

「“再び”の機会がない人間は、このシステムには想定されていないのでは?」

案の定、クレームきてました。企画部が悪いんですよ、企画部が。


まぁつまり、過去に誰かとつながったことのない者には、イベント参加資格がないということです。こうやって既得権というのはできていくんですね。平穏でいいんじゃないですか、なんていった暁には、SNSで炎上しそう。これ、また救済アプデ入れるんで、孤立ノードの方も期待しといてください。


あとね、三角非対称愛情ネットワークも乱立してました。

AがBを想っていて、BはCと接続中、でもCはAと初期同期済み。


それぞれの幻想空間で“過去と現在の関係”が異なり、互いに信じてるつもりでも、その“信じている定義”が食い違う。

さらに、相手が好きだったのが「今の自分」か「かつての自分」かも分からない。

人間たちは、自分がどのバージョンで愛されているのかを知覚できないまま失恋していくんです。


幻想空間は、リアルタイムじゃないんです。

そこに浮かぶ“あなた”は、常に過去の“あなた”で、さらにそれって“あなた”の影なんです。


こんなでも幻想空間ってのは魅力があるみたいなんです。


ちなみに、今回の「再会と別離」、

実装直前まで、うちのシステム管理局には正式な仕様書が届いてませんでした。


またですよ。


うちの部門は、「幻想演算系が再帰構造を超えるときの挙動試験が必要だ」と散々警告していたのに、

企画課は“演出の都合で”って一文で、全部通してきたんですよね。


その後押ししたのが、例の大臣の「なんか、こうセクシーで、切ない感じがいいね」発言。

いや、“切ない感じ”って何ですか。演算的に説明してくれませんかね。


まぁ、ちょっと異常な環境ですよね。

これ普通のシステムだったら停止させるんですが、やっぱりユーザーからの反応は結構よくて。まあ、皆さんが楽しんでくれているならいいんですけどね。




創理造流、地球開発ブログ3日目。


再会と別離。

それは、ガベージコレクションされなかった感情ポインタを幻想空間の深層から呼び戻して、もう一度壊すとかいう幻想破壊神イベントでした。

次回はin-degreeの偏在を解消すべく、全員に一定数の好意エッジを自動振り分けする試みらしいですよ。さてどうなることやら。


今晩はポエム生成ログ眺めながら、コンビニプリンでも食いますかね。

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