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第2話 目覚めの檻と奴隷市場

 ——硬い。


 まず最初に感じたのは、背中に押しつけられる冷たく硬い鉄の感触だった。

 意識がぼんやりと浮上する中、頭がズキズキと痛む。まるで高熱を出したときのような感覚。まぶたが重く、体が異様にだるい。


(……なんだ、これ……?)


 ゆっくりと目を開くと、最初に視界に入ったのは鉄格子。


「……え?」


 混乱する頭で周囲を見回す。そこは狭い檻の中だった。鉄の格子が四方を囲み、手を伸ばせばすぐに冷たい鉄の棒に触れる。


(冗談だろ……?)


 天井を見上げると、木製の梁がむき出しになっており、隙間から差し込む薄暗い光がかろうじて視界を確保している。周囲には無造作に置かれた檻がいくつも並び、それぞれの中に——。


 獣人たちがいた。


「……なんだこれ……夢か?」


 そう呟いた瞬間、現実を確かめるように腕をつねってみる。


 ——痛い。


「いってぇ……」


 痛みがリアルすぎる。夢じゃない。


(マジかよ……異世界に来たと思ったらコレ?)


 頭の中はパニックだった。だが、鉄格子を掴みながら、悠斗は荒い息をつきつつも外の様子をうかがった。


 ここはどこなのか? なぜ檻に入れられているのか? そして、周囲の獣人たちは——?


 疑問が次々と浮かぶが、答えはまだ見えない。


 ただ一つだけ確かなことがあった。


 悠斗は自由ではない。囚われの身だった。




「こいつ、妙な奴だな」


 男たちの低い声が、悠斗の意識を引き戻した。

 檻の前に立っているのは二人の男。粗野な服装に、腰には短剣をぶら下げている。無精髭の顔には薄汚れた笑みが浮かび、こちらを見下ろしている。


(……なんだコイツら)


 悠斗は警戒しながら、無意識に体を少し後退させた。しかし、背中はすぐに鉄格子にぶつかる。逃げ場はない。


「見た目は完全に人間だが……獣の気配がある」

「獣?」


 悠斗は思わず眉をひそめる。


(俺が……獣? 何言ってんだコイツら)


 奴隷商人の一人が、愉快そうに笑いながら肩をすくめる。


「ほう、人間のふりか。珍しいな……」

「おいおい、冗談じゃないぞ! 俺は人間だっての!」


 悠斗は鉄格子を強く掴み、怒りを込めて声を張り上げた。しかし、男たちはまるで聞く耳を持たない。


「いや、こいつはただの獣人じゃない」


 もう一人の奴隷商人が、ニヤリと笑いながら悠斗を指さした。


「精霊獣の血が混じってる……」

「はぁ!? 俺が精霊獣……?」


 思わず声をあげた瞬間、背中に冷たい汗が流れた。


(まさか……ミオスの契約のせいか!?)


 悠斗は息を呑む。


 奴隷商人たちは尚も談笑しながら悠斗を観察していた。彼らの目は、まるで珍しい獲物を見つけた狩人のように鋭く光っていた——。




 鉄格子の向こうから、小さなすすり泣きが聞こえた。


 悠斗は反射的に顔を上げ、隣の檻を見やる。


 そこにいたのは、小さな兎獣人の少女だった。

 彼女はボロボロの布切れのような服を身にまとい、体を縮こませていた。長い兎の耳は怯えたように震え、涙に濡れた大きな瞳が悠斗を警戒するように見つめている。


(……まだ子供じゃないか)


 その姿に、悠斗の胸が締めつけられる。


「おい、大丈夫か?」


 できるだけ穏やかな声で問いかけるが、少女はビクッと肩をすくませた。


「……っ……こ、こっち見ないで……」


 小さな手で顔を隠し、怯えた声を震わせる。

 悠斗は拳を握りしめた。


「俺は敵じゃない。……お前、こんなところに閉じ込められて怖くないのか?」


 少女は少しの間、言葉を詰まらせた後、小さく呟いた。


「……人間は怖い……私、売られる……」


 その言葉を聞いた瞬間、悠斗の中で怒りが込み上げる。


(くそ……この世界はそういう場所なのか……)


 手も足も縛られたまま、ただ怯えることしかできない少女。その姿は、悠斗に「ここがどんな世界なのか」を突きつけるようだった。




 だが——。


「ハハッ、面白いな」


 背後から響いた嘲笑に、悠斗はゆっくりと振り向いた。

 奴隷商人たちが、ニヤついた顔でこちらを見下ろしていた。


「おいおい、そこの人間もどき。お前、妙に優しいじゃねぇか?」


 奴隷商人が、鉄格子をコンコンと叩きながら、面白がるように言う。


「ははは! そりゃ高く売れるわけだ!」


 別の奴隷商人が腹を抱えて笑う。その表情には一切の罪悪感がない。まるで、自分たちが当然のことをしているかのように。

 悠斗の拳が、無意識のうちに強く握りしめられた。


「……ふざけんな」


 低い声で呟くように言う。


「人を売り買いするなんて、正気かよ」


 だが、奴隷商人たちはまるで意に介した様子もなく、肩をすくめる。


「正気だとも。ここではそれが当たり前なんでな」


 そう言いながら、奴隷商人は悠斗を値踏みするように眺めた。


「ま、獣人どもと違って扱いづらいかもしれねぇが……珍しい希少種ってことになりゃ、どこかの貴族様が喜んで買うだろうよ」


 悠斗は歯を食いしばる。


(クソ……このままじゃ、本当に売られる……!)


 悠斗の心臓が激しく脈打つ。自由を奪われ、家畜のように扱われる。このまま何もできずにいるわけにはいかない——。


 悠斗はゆっくりと、冷たい鉄格子を握りしめた。その胸の奥深くで、何かが静かに蠢いているような感覚がした——。


 悠斗はこのまま奴隷として売られてしまうのか!? それとも……!

ご一読くださり、ありがとうございました。

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