98.蚊帳の外
リアル側の重要案件が終わったので今日からは究極幻想譚の方に本腰が入れられる。
とは言っても、今回の作戦で僕自身は実動部隊からは外れることになった。
避難所の提供だけでも十分な貢献なのと、避難所の主は中立を保っていた方が良いそうなので。
代わりにフランにお願いして薬草園を花畑に誘致してもらった。
これで怪我をして避難してきた子が居ても治療できるだろう。
(くすくす)
((くすくすくすくす))
フランも家族(友達?)がやって来て嬉しそうだ。
ただ、うっすらと聞こえてくる音声が何故か
『兄貴、やっちゃっていいんですよね?』
『お前ら根性入れろ!』
『来週はカチコミだぜ』
みたいにちょっと不穏当なんだけど大丈夫かな。
元気なのは良いことだけど。
それと花畑の外は現在、王都側の一面にテントが複数建てられている。
理由はここを避難所にするにあたって、逃げ込む直前を狙う輩が絶対に現れると予想しているからだ。
「今回、従魔の密売組織を一斉検挙するにあたって大勢のプレイヤーの協力を得ることが出来たが、逆に言えば情報漏洩のリスクも高くなっている。
これは裏切りとは関係なく起きることだ。
例えば配信中にぽろっと口を滑らせたり、直接的にでなくてもSNSに『明日○○時から忙しいから』みたいに書き込んだだけでも推察される可能性があるから、今後の活動は全て敵に筒抜けになっていると仮定して各自、身の安全を確保してほしい」
事前の会議でそういう話があった。
そして決行当日。
「じゃあラキア君。行ってきますね」
「吉報を期待してて」
「二人とも気を付けて」
みんなと一緒に作戦に参加するフォニーとコロンを見送った僕は改めて花畑の様子を確認した。
1haという広大な土地に作成された人工物は、丸太で作った椅子とテーブルの休憩スペースと、柱と屋根だけの雨宿り場。これだけだ。
というのも、家などの住居施設や畑などの生産施設を作ろうとするとシステムから警告が出てしまったのだ。
『その施設は他者からの攻撃対象になります。
現在の安全基準が1段階下がりますがよろしいですか?』
だそうだ。
安全基準というのはあれだ。今はモンスターすら攻撃してこないという奴。
なんだ無敵じゃないかと思ったけど強力な分、制約も厳しかったらしい。
あれこれ調べてみたら自然公園にありそうなものはぎりセーフって感じだ。
それ以上の人工物はアウト。
その条件で他に何があったら良いだろうかと相談した結果、従魔の中には水棲生物をモチーフにした子も居るそうなのでため池を作ることになった。
結果。花畑を上から見ると、北西側に竹林、北東側に薬草園、東側に池、中央やや南寄りに休憩スペースがあり、外周の幅1メートルほどにミントが生えている。空いてる所は全部色とりどりの花が咲いてる。
自然豊かで良い事なんだけど。
「これ以上することないんだよなぁ」
敵組織に捕らわれている従魔を救出してここに連れて来るまで、まだ30分以上先になる予定だし、救助されてきた従魔が来ても僕に出来ることはほとんどない。
仮に従魔が怪我をしていたとしても薬草園の子たちで手が足りるようなのだ。
あと治療にかこつけて僕への好感度だけ上がるのも宜しくないだろう。
だからぶっちゃけ僕はここに居ない方が良いまである。
なので皆が頑張ってる所を悪いんだけど、ちょっと席を外して全く別の事をしようと思う。
何をするかというと、以前途中になっていたことの続きだ。
「フランはここに残って薬草園の子たちの指揮をお願い」
(くすくす)
フランを花畑に残して出発した僕の手には木の枝(先端にフランの糸と石付き)があった。
そう、先日巨大モンスターが出てきて中断してたダウジングだ。
王都の周りを1周しようと思ってたのに1/10も出来てなかったからその続きをしようと思う。
(何か見つかれば良いけど)
なお今回は配信はしていない。
僕のマイナーなチャンネルから情報が洩れる可能性は低いとは思うけど念には念を入れた方が良いだろうという配慮だ。
フランも残してきたので久しぶりに完全にソロ活だ。
(花畑だと虫の羽音とかでそれなりに賑やかなんだけど、この辺りはそれもないんだよな)
代わりにモンスターが居るけど。
そのモンスターもレベル差があるので余裕だ。
つまりちょっと退屈かもしれない。
ピクッ
「おっ」
僕の懸念を感じ取った訳じゃないだろうけど、ダウジングの石が引っ張られた。
という事はこの下に何かある?
いや、何か覚えのある振動が足を伝わってくる。
これは……
『Giii』
「あぁやっぱり」
地面から飛び出してきたのは以前と同じ、ただし直径30センチの小型のモンスターだ。
このサイズなら。
「振り下ろし!」
スパンッ
長剣から衝撃波が発生してモンスターを両断した。
よしよし、演劇の練習が役に立ってる。
ステータスを確認すれば長剣スキルも生えていて、基本技と思われるこの衝撃波も安定して出せるようになった。
威力はスキルレベルが低いものの職業レベルのお陰で使えなくはないって感じ。
ともかくダウジングを続けよう。
と思ったんだけど。
「……また?」
1分と経たずに再びの反応と飛びだしてくるモンスター。
その後も何度も何度も。
僕はダウジングじゃなくて釣りをしてたんだろうか。
それと王都周辺の地中はこの巨大なミミズの様なモンスターだらけなんだろうか。
もしそうだとしたら王都の地盤は大丈夫なのか?
巨大な施設を建てたら地盤沈下して崩壊しましたとか洒落にならないよ。
いや先日出会ったの以外は小型のモンスターだったからそこまで影響力はない?
でも『蟻の一穴』とも言うし油断は禁物だ。
後でミッチャーさん達に相談しておこう。
「そろそろ作戦開始から40分。早い人たちなら戻って来てるかな」
極力手を出さないようにとは言われてるけど、遠くから眺めるくらいは問題ないよね。
そう思って花畑の方に戻ってみたんだけど、なにやら凄く取り込み中だった。
あ、花畑の中は平和そのもので、従魔と思われる生き物の姿もちらほら見える。
問題は花畑の外。
テントが張ってあったはずの場所では多数のプレイヤーが乱戦状態でスキルを撃ち合っていた。
あれ敵味方の判別出来てるのかな。
あ、あっちのお揃いの鎧着てる人達は分かりやすいな。
向こうの鉢巻きを頭に巻いてる人達も。
他に判断する材料としては従魔を連れているかどうかくらい?
でもこちら側のプレイヤーの中にも従魔法具に交換した人は居たしなぁ。
それにここで僕が参戦しても劇的に戦況が変わるかと聞かれたらそうでもないと思う。
というか僕は戦闘職でも無ければトッププレイヤーでもないので、あの中に突撃したら流れ弾でも大ダメージを受けそうだ。
(やっぱりしばらくは様子見かな)
離れて見てた方が気付ける事も多いだろうし。
敵の首魁は……あれかな。高そうなローブ着てる男が居た。
左手で抱えてる箱はなんだろう。
え、花畑の中に投げ込んだ? ごみの不法投棄とかやめて欲しいんだけど。
後でフランに回収しておいてもらおう。
などと言ってる間に拠点襲撃に行ってたメンバーも何人か戻って来てそろそろ決着が付きそうだ。
「お、煙幕。逃げる気か」
突然広がった黒い煙に紛れて敵と思われる何人かが離脱していく。
その内の1人と目が合ったけど、あれはプレイヤー? 肩の所に居るのは従魔の蝙蝠か。
ちょっと気になったけど、それより今は首魁を追うべきだな。