97.光の速さで学園祭
それからは演劇の練習に従魔救出作戦の準備にと奔走していたらあっという間に時間が過ぎていった。
先に本番を迎えたのは演劇の方。
「皆緊張してない?」
「大勢の観客を前にしたら頭が真っ白になるって言うから気を付けて!」
「僕はそれ大丈夫そう」
「いや照元は視えてないだけじゃん」
「バレたか」
「「あはははっ」」
僕のボケに若干緊張がほぐれた笑い声が響いた。
これなら大丈夫かな。
『お待たせいたしました。ただ今より……』
開始のアナウンスが流れた後、オープニングのナレーションが語られる。
その終わりと同時に幕が上がっていく。
(よし、行こう)
僕達は手を取り合ってステージの上手側から入場した。
最初は若干の説明口調を交えながら、自分たちは町から町へと世直しの旅をする3人組で、次の町ではどんな事が待ち受けてるか楽しみだねぇ。みたいな会話をする。
すると反対側から町人と暴漢が登場。
もちろん僕達はその騒動を鎮めるために介入するのだけど。
まずはガリ勉風少年が啖呵を切る。
「おいお前たち。僕達の前での狼藉は許さん。
早々に立ち去れ!」
「何だお前ら。
邪魔しようってんならお前らからぶっ殺してやるぞ」
「ひぃぃ」
少年は威勢は良いけど腕っぷしはそこまで強くない設定だ。
だから暴漢に怒鳴られて慌てて僕の後ろに隠れた。
「先生、お願いします!」
「いや別に先生ではないんだが」
なにやら様式美というものらしく、お願いされる時は「先生」と呼ばれるらしい。
ともかく僕は1歩前に出ながら名乗りを上げる。
「やあやあやあ。我こそは無明の大剣豪。土佐の……」
言いながら更に1歩2歩と歩けばステージ端に設置した出っ張りを踏んだ。
しかし止まらずもう1歩。もちろんそこに足場は無く僕はステージから落ちた。
「ぎゃ~~~」
「せんせぇ~~!」
派手な叫び声と共に落ちた僕を見て観客も一瞬騒然とする。
まさか初っ端から事故かと。
次の瞬間、僕は「とうっ」と掛け声を出しながらステージの上に飛び乗った。
「くっ。このようなところに落とし穴を用意しておくとはなんと卑劣な奴らだ!」
「いや先生。そこただの崖です」
「しかも落ちた先にマットを敷いて怪我をしないようにする配慮。
私は怒れば良いのかお礼を言うべきか、実に悩ましいではないかっ」
声を大にして言う事で、ステージ下が見えてない後ろの人達にもちゃんと想定通りのシーンなんだと伝える。
分かってしまえば観客も安心して笑えるというものだ。
「だがしかし、狼藉はゆるせぬわぎゃぁ~~、とうっ。
はぁっはぁっ。許せぬからして、だからなんだっけ。えっと」
「もう、ここは私が何とかするからちょっと下がってて」
「う、うむ。すまぬわっちゃぁ~~」
3度ステージから落ちつつ、呆れた様子のくのいち少女と交代。
これで僕の魅せ場(お笑いパート)は終了だ。
無事に暴漢を追い払った後は、最近この町で起きてる事件について説明を受けたり、ガリ勉風少年が自慢の頭脳を活かして町の問題を解決しようとして失敗。爆発してアフロになったり、くのいち少女が情報収集のためにと酒場の給仕をしてたら失敗してポロリシーンを披露したり。あ、もちろん本当にポロリはしてないよ。
そんなこんなで敵のアジトに突入する僕達。
そこに待ち受けていたのは実に危険な罠だった。
「お前たちが来るのを待っていたぞ。やれ!」
ステージの反対側に居た敵の掛け声で全ての照明が消された。
突然の暗闇に翻弄される中、敵の声が響き渡る。
「どうだこの完全なる闇の世界は」
「くそ。しかしこれではお前たちだって何も見えないだろ」
「ところが残念。俺達はこの特殊な眼鏡のお陰で暗闇でも見えるのさ」
「なんだって!」
一方的に見えているという圧倒的に不利な状況。
本来なら蹂躙されるだけの罠だけど、ここにはそれを意に介さない男が居た。
「ふたりとも下がっていなさい」
「「先生!」」
「私に闇は通じぬ」
「ほう心眼という奴か? だがそれがどこまで通じるかな。
やれ!お前たち!」
その掛け声と共にステージ上から僕以外が離れた。
それを確認してから手元の剣に付いているスイッチを押すと白く光るケミカルライトの剣身。
「往くぞ!」
言いながら鋭くそして大きく踏み込んで、居合い!
キンッ
『おぉ~~』
タイミングを合わせて響く効果音と観客の歓声。
客席からはステージ端から中央付近まで一直線に光が走ったように見えたことだろう。
しかしまだまだこれからだ。
(袈裟切り2連。からの振り向きながら横薙ぎ)
キキンッ
「この暗闇の中で何という速さと正確さ。奴は化け物か!」
「まだまだ!」
切り上げからジャンプに繋げてぐるぐるっと大きく剣を回転させる。
演出監督曰くオタ芸をイメージしろって話らしいけど、僕は観たことない。
でもこんな感じだろう。
ズバシュッ
「ぐおおぉ」
「止めだ!」
スパッ
最後は元々突きの予定だったんだけど、見栄え的に駆け抜けながらの振り下ろしになった。
客席からは光の波が流れるように見えるらしい。
それが終わると同時に照明復活。
後には倒れ伏した敵役数人と膝を突いて息を荒げる僕がいた。
そこに駆け付ける仲間のふたり。
「お見事でした先生」
「後は任せて休んでて」
「かたじけない」
これで僕の魅せ場は全て終了。
後はくのいち少女がお色気と忍術で敵の首魁を倒し、ガリ勉風少年が怪しい装置を停止させて、最後は自爆装置が起動したアジトから脱出する。
「飛び降りろ」
「きゃ~~」
と3人揃ってステージから飛び降りて脱出完了。
背後でアジト爆発の演出がされている間に袖に下がる。
ラストは町に戻って大団円。
拍手の中、幕が下り切ったのを確認して僕達も撤収した。
教室まで戻ってきた僕達はジュース片手にプチお疲れ様会だ。
明日もあるし何より30分休憩後には別クラスの発表があるので戻らないといけない。
「お疲れ様~。いやぁ大成功だったんじゃないか?」
「うんうん。お客さんの反応も良かったと思うよ」
「暗闇の中で光の軌跡を描く殺陣シーン。あれ考えた俺天才だろ」
「馬鹿。実際に演じた照元を褒めろよ」
「いやでもホントあの大立ち回りは凄かったよな。
練習の時にも見てたけどステージの端から端まで全部使って、あれで目が見えてないとか嘘だろって思ったもん」
「秋塚なんて、いつかステージから落ちるんじゃないかとずっとオロオロしてたもんな」
……
「っと、そろそろ時間か。
照元はこの後どうするんだ?」
「僕も一緒に行くよ。視えなくても楽しめるのは自分でやってて分かったし」
そうして他クラスの演劇や合唱を聞いて1日目が終了し、2日目のお祭りメインの学園祭は特にどこを周るでもなくのんびり過ごした。
よし、これで後は究極幻想譚の秋イベントを完遂すれば憂いなく食欲の秋を堪能できそうだ。