96.紛争禁止区域
無事に襲撃者たちを撃退した僕達は僕の私有地で休憩することにした。
中に入るときょろきょろし出すミッチャーさん。
別に珍しいものなんて無いですよ?
「ラキア君。ここって最近噂になってる『秘密じゃない花園』よね?」
「……何ですかそのネーミング」
「いや『秘密の花園』っていうと高い壁に囲まれて外からでは中を窺い知ることが出来ない場所を指すんだけど、ここは外から丸見えでしょ?」
「壁無いですしね。
あぁ、だから『秘密じゃない』ですか」
まあ確かに外から丸見えだ。
だけどここは私有地。
システム設定で僕のフレンド以外は立ち入り禁止にしてある。
その所為で見えているのに入れない謎な場所として話題になってるのか。
「問題なく入れたって事はラキア君の私有地だったのね」
「はい。先日『土地の権利書』を手に入れたので」
「それにしてもチューリップと向日葵と秋桜が並んで咲いてるって季節感どうなってるのかしら」
「まあゲーム世界ですから」
「手入れはしないの?」
「最近忙しくて。植物達から要望が上がってきた時だけ植え替えようかと考えてます」
「要望……?」
おっと、ミッチャーさんの頭の上に?マークが飛び交ってる。
植物の声を聞くってどこのベテランだよって話だけど僕にはフランが居るから。
フランは植物の気持ちをそれとなく聞き取ることが出来るらしい。
その能力を使って今も花畑の中をひょこひょこと走り回って問題ないか聞いてくれている。
一見すると走り回ってるわんこだけど。
「それと虫も沢山出入りしてるんですが、中には賢い子も居て自主的に剪定みたいなこともしてくれてます」
植物の中には大きくなったら日当たりの関係で摘み取った方が良い葉っぱなどがあるのだけど、それを見つけて食べてくれたり、実った花の種を良い感じの場所に植えたりしてくれているらしい。
お陰で僕があれこれ手を出さなくても良い感じの空間が出来上がりつつあるのだ。
「って、ラキア君。後ろにモンスター!」
「ああ、大丈夫ですよ。ここは一切の戦闘行為を禁止してるので。
モンスターは出入り自由にしてますが攻撃はしてきません。
逆に僕らも攻撃できませんけど」
近づいてきたのは人間サイズの巨大カマキリのモンスター。
外では問答無用の見敵必殺だけど、ここでは近所の野良猫よろしく見かけても基本放置だ。
むしろ時々フレンドリーに挨拶してくるモンスターが居て外で戦いにくくなるなぁと思う程。
サファリパーク?ふれあいランド?まぁそんな感じだ。
なお外で出会ったら普通に攻撃してくる。別の個体なだけかもだけど。
って花畑の話は良くて。
「それよりさっきの襲撃者たちは何だったんですか?」
「彼らは半分は『電光石火』チームのメンバーだった人達よ。
色々あってチームから追い出したのだけど、それで逆恨みしてきたの」
「色々……。じゃあ残りの半分は?」
「秋イベント関連。と言えばラキア君には伝わるかしら」
秋イベントと言われると闘技大会ではなく従魔に関することだろう。
先日の焼き鳥少年から教えて貰った内容はミッチャーさんに伝えてある。
でもそれとミッチャーさんを襲撃するのに一体どんな関係が?
「話しても大丈夫?」
「あ、はい。僕は大丈夫です」
横の配信用カメラを指しながら聞いてきたので頷く。
そういえばさっきの戦闘から配信しっぱなしだった。
「すみません、結局放置したままになってました」
『派手さはないが、なかなかに良い戦いであった。褒めて遣わす』
『いや誰目線だよw』
『配信主が疾風のミッチャーと仲良さげなのが驚き』
『ともかくこちらは気にせずどうぞ続けてください』
『話の続きに正座待機中(わくわく)』
僕の配信を観てくれている人は実に寛大な人が多い。
問題は無さそうなのでミッチャーさんに続きをお願いした。
「ラキア君から教えて貰った情報から、私達は従魔が生贄にされるという仮説を立てたの。
目的は新たな魔神の復活か、廃都の魔神を活性化させることか、いずれにしろ碌なことにはならないでしょう。
信頼できる他チームとも連携を取って従魔を集めている組織の調査を進めると同時に、闇市で従魔を交換するのは危険だと触れ回ったんだけど、それが良くも悪くも成功してしまったみたいなのよ。
従魔が集まらなくなった奴らは方針を変更して他人の従魔でも買い取ると言い出したの」
「それって」
強奪OKってこと?
話の流れからして奴らはミッチャーさんの従魔を奪おうとしてたのか。
でもその為には1つ問題がある。
「他人の従魔が視える人がいるって事ですか?」
「いいえ。従魔は成長すると他の人でも視えるようになるの。
私の『風切』みたいにね」
(チチッ)
ミッチャーさんの背中からひょっこり顔を出したのは真っ白なイタチ(?)
毛がモフモフしてて実に触り心地が良さそうだ。
その姿が掻き消えるような速度で飛び上がり僕の肩に飛び乗った。
僕の思いが通じたのかな?
「おぉ~やっぱりふわふわ」
(チィ~)
「あれガッカリされた?」
背中を撫でたら何故か気落ちされてしまった。
撫でる手が雑だっただろうか。
イタチはトンっと地面に飛び降りてとことことミッチャーさんの元に戻っていった。
う~ん、嫌われてしまったか。
「ふふっ。いたずら失敗しちゃったわね」
(チィ~)
「いたずら?」
「ラキア君に気付かれずに背後に回ろうとしたの。
ラキア君には全然通じなかったみたいだけど」
それで意気消沈してしまったのか。
撫で方が悪かった訳ではなくて良かった。
そして話の流れからしてこの子は他の人からも視えるようだ。
「話を戻して、奴らは他人の従魔を狙っていると」
「えぇ」
「それって暴動に発展しませんか?」
「既に戦争覚悟で動いてる人がいるわ。
主に従魔を奪われた人が中心になって」
「ですよね」
従魔が他人に視える人って、それだけ従魔を大事にしてた人だろうし。
それを攫って売る。売られた後は最悪、生贄として殺される。
許せるはずが無いだろう、そんな事。
僕なら攫った相手と攫わせた組織を皆殺しにするまで戦い続ける。
運営に対してもクレームを入れるかもしれない。
「幸い攫われた従魔は数日で帰ってくるわ。
ただし相当疲弊した状態で」
「なら半殺しで済ませておきましょう」
「ラキア君も過激ね。
でもそう。他の人も大体同じ感じよ」
現在は襲撃に加担するプレイヤーの名簿を複数の大手チームが協力して作成しているところだという。
加えて従魔を買い漁っている組織のアジトの割り出しも進めている、と。
「残る課題は救出した従魔を避難させる安全地帯の確保だったんだけど(ちらっ)」
「……もしかしてここを使いたいってことですか?」
「どこかのチームのアジトだと、そのチームだけ従魔からの好感度が上がるんじゃないかって懸念があってね。
共同作戦なんだから出来るだけ公平にってなると、第3者で信用出来てソロ活してる人の所が適任なのよ」
「なるほど。まあいいですよ。
僕の友達に犯罪に手を染めてる人は居ないと思いますし」
しかしそうなるとここももうちょっと整備すべき?
でも折角の花畑を潰すのもなぁ。
せめて雨が凌げる屋根付きの場所を用意するくらいか。