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95.何でも切れる剣と何でも受け流す剣

 さて、ミッチャーさんの方はまだ余裕ありそうなので僕がまずやるべきこと。

 それは動画配信だ。


「皆さんこんにちは。

 今回はいつもののんびり配信ではなく、友達が襲撃を受けてるのでその救援になります。

 コメントは読む暇無いと思うのでご了承ください」


 カメラには僕の他、ミッチャーさんとそれを追いかける集団の姿がばっちり映っている。

 これで準備完了。じゃあ頑張りますか。

 ミッチャーさんは現在敵との距離を5メートルほど空けながらジグザグに走っている。

 あの距離なら弓矢や魔法が届くからそれをせっせと避けてる感じだ。

 そして僕の事を認識してもこっちに真っすぐ走ってこないのは流石としか言いようがない。

 お陰で僕はあの敵集団に気付かれる前に先制攻撃が出来る。

 ボウガンを取り出した僕は地面に伏せて狙いを定める。


(フラン、迷彩っぽいの作れる?)

(くすくすっ)


 敵の数は12。若干縦に伸び気味の奴らのどこを狙うか。

 もしこれがミッチャーさんを逃がす為の妨害だったら先頭を攻撃して足止めするのが良いだろう。

 でもミッチャーさんの移動速度ならとっくに敵を振り切れてるはずで、あれは反撃の機会を狙ってるんだと思う。

 だから殲滅する方向で考えよう。

 今が夜なら最後尾から順番にアサシンキルするのも良さそうなんだけど残念ながら今は日中だ。すぐ気づかれてあまり意味無いだろう。

 という訳で狙いは中央付近。


(ふっ)

シュシュシュッ


 短い吐息と共に矢が発射された。

 矢は吸い込まれるように敵の首に……弾かれた!?


「防具無しで矢を弾くって、魔法か何か?」

『装飾品で不意打ち対策アイテムがあるからそれかな』

『スキルでも遠距離攻撃を防ぐものがあります』


 突然の襲撃を受けた敵は足を止めて慌てて周囲を確認し始めた。

 だけどすぐには僕を見つけられないようだ。

 さっきから視線が僕を素通りしていくのが分かる。

 ただこの状態で第2射を放てば流石に気付かれるだろう。

 なのでじっと待機だ。


「おい、どうした」

「右側から矢で攻撃を受けた」

「誰も居ないぞ。隠密系のスナイパーか?」


 後続が止まったことに気付いて先頭メンバーも振り返ってしまった。

 困ったなぁ。

 期待通り過ぎる。


「くそっ。ミッチャーを追い詰めるのは時間が掛かる。

 先にスナイパーを落と、うおぉぉぉ」

「空から矢の雨が!『アローレイン』か」

「アーチャーがもう1人隠れてるのか??」


 立ち止まった彼らに僕が伏せる前に上空に放っておいた矢が降り注ぐ。

 なお『アローレイン』?とかいうスキルでも何でもないので威力は大したこと無い。

 あれでも1人落ちたな。あれは最初に矢を当てた人か。

 元々HP低めの人だったのか運悪く急所に矢が刺さったのか。

 ともかく彼らの意識が上に向いた。

 そこを更に狙撃していく。


「くっ、居たぞあそこだ!」


 おっと、流石に見つかったか。

 でもまだ距離があるから大丈夫。

 それに。


「私を忘れてないかしら」

シュバッ


 疾風を伴ってミッチャーさんが敵の1人を切り捨てていた。

 前と横。2方向から攻撃を受けて混乱する敵はまるで統率が取れてない烏合の衆だ。

 1人また1人と隙をついて倒していく。

 そうして順調に数が減らせて行けたけど、残り4人。

 彼らはここまでで倒した人達より1ランク強そうだ。


「お前たち2人でそっちのスナイパーを倒せ」

「うるせぇ。指図するんじゃねえよ!」


 先ほどからのやり取りを見るに、あまり仲は良くなさそう。

 そこに付け入る隙があるだろうか。

 こっちに来たのは剣を持った男が2人。

 僕もボウガンからロングソードへと持ち替えて構える。

 そんな僕を見て彼らは笑った。


「へっ。距離を詰められたスナイパーなんて敵じゃねぇ。

 しかもお前、従魔法具すら持ってねぇじゃねぇか」

「まあうん。ちなみにロングソードを持ったのは今日からだけど」

「なんだそりゃ。それなら足手まといが居なければ俺一人でも瞬殺だな」


 従魔法具って言うのは彼らの後ろに浮かんでる玉の事だろうか。


(そういえば従魔法具の効果を知らないな)


 従魔の代わりになるとか、女神の祝福を強化してくれる、みたいな話は聞いたけどそれ以上の事は知らない。

 今から実際に受けて学ぶしかないか。

 僕は集中して敵と従魔法具の動きを観察した。


「じゃあ死んどけ!」


 雑な大振りだ。

 こんなの僕でも簡単に受けられる。

 剣を構える僕に。

 ニヤリと笑う男。

 鈍く光る従魔法具。

 剣に青白い光が纏わりつく。

 それを視て僕は咄嗟に後ろにジャンプした。


「っ」

キンッ


 男の剣は僕のロングソードを紙切れのように切り裂いていた。

 あのまま受け止めようとしていたら僕ごと真っ二つになっていたかもしれない。

 驚き息を吐く僕に男はまたニヤリと笑って言った。


「おお、良く避けたな」

「鉄製の剣を切るとか凄いね」

「おうよ。俺様の祝福は『斬鉄』。まあ将来的には鉄以外も切れるようになる予定だが。

 従魔法具のバフのお陰でレベル差があればほぼ確定で相手の武器も防具も切り飛ばせるんだ」


 つまりは防御不可の必殺剣ってことか。

 いや強すぎじゃない?

 レベル差っていうのが冒険者レベルなのか武器スキルのレベルなのかは分からないけど、近づかれたら負け確定ってのは恐ろしい。


「おらおら、避けないと死んじまうぜ」


 ブンブンと振り回す剣をぎりぎりのところで避け続ける。

 ちらりとミッチャーさんの方を見れば、まだ2人を相手に戦っているところだしフランは伏兵として離れた所に居る。

 だからこいつは僕が何とかしないといけないんだけど。


「これで終わりだ!」

「なんの!」

パシッ


 振り下ろされた剣を両手で挟む。

 いわゆる真剣白刃取りだ。

 いくら切れる剣だからって刃の部分以外は切れることはない。

 問題は僕の力で止められるかだったけど、何とかなったようだ。

 でもここで安心してはいけない。


「ふんっ」

「ぐふ」


 剣を掴んだまま驚く男の腹を僕は思いっきり蹴り飛ばした。

 すると男は剣を手放して吹っ飛んでいくではないか。


(剣士なら死んでも剣を手放しちゃいけないらしいよ?)


 劇のセリフだけど。

 ともかく敵の剣が手に入ってしまった。

 こういうの略奪だって怒られない? システム的にOKなら気にしないけど。

 改めてグリップを握って持ってみれば、長さとかは最初のロングソードと同じくらい。

 重さもちょっと重くなったかなって位だから振るのに支障はなさそう。

 じゃあ反撃だ。

 しかし踏み込もうとしたところに割り込んでくる男が居た。


「おっと俺を忘れてないか?」

「大丈夫、視えてるから」


 僕の方に来たのは2人だというのは分かっている。

 そして僕の狙いも最初からそっちだ。


(居合い)

「『パリィ』」

スルッ


 え、受け流された?

 入るとは思って無かったけど、ほとんど手ごたえ無く流された。

 とにかく次だ。


(袈裟切り)

「よっと。『パリィ』」

(横薙ぎ。切り上げ。振り下ろし。突き)

「『パリィ』『パリィ』『パリィ』『パリィ』。

 たっは~。やっぱこうして敵の攻撃を全部パリィするのは最高に気持ちいいな!」


 まさか全部余裕で受け流されるとは。

 さしずめ『受け流し(パリィ)』の祝福持ちってところかな。

 僕は慌てて一歩後ろに飛んで剣を構えなおした。


「ふっ。何度やっても同じだぜ。

 俺は全てをパリィする男だからな!

 次は流した隙に反撃してやるから楽しみにしてな」

「出来るものならやってみろよ」


 敢えて相手の挑発に乗ることにした。

 そして構えはさっきと同じ居合いから。


「ふっ」

「け、馬鹿の一つ覚えかよ。『パ(ぷすっ)あ”?」


 突然の背中の痛みに硬直する男。

 その隙を逃さず僕は踏み込んだ。


(居合い!)

「ぐっ、ちょ、まて……」

(横薙ぎ。切り上げ。振り下ろし。突き)

「ぐはーーっ」


 若干オーバーキルだったらしく、最後の突きは空を切った。

 僕は息を吐きつつロングソードの剣先を拾った。

 実は踏み込みのタイミングでフランの糸を使って男の背中に投げつけたのだ。

 最強の防御スキルも視えない位置からの攻撃には対処出来なかったか。


「そして剣を奪ったもう1人はというと」

(くすくすくす)

「うん、ご苦労様」


 既にフランによって処理されていたらしい。

 後はミッチャーさんの方だけど、そっちも無事に勝てたみたいだ。



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― 新着の感想 ―
自分の読解力不足だと思いますが、 >> 実は踏み込みのタイミングでフランの糸を使って男の背中に投げつけたのだ。 とありますが、何を投げつけたのですか?
・・・どんな祝福でも無敵なんてないんだなぁ・・・ (全てをパリィできようがアクティブスキルだから認識できなきゃ無意味と。
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