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94.殺陣の練習

 少しずつ秋イベントの詳細が明らかになってきて、やりたい事は色々あるんだけどリアルの方も学園祭準備が着々と進んでいて演者に抜擢された僕も忙しくなっていた。

 今日遂に台本が完成し、今後は読み合わせの時間も増えていく。

 ただし僕は台本が読めないので内容をスマートデバイスで読み込んで音声変換して暗記する必要がある。

 まあ今日は監督役の生徒から全体の流れの説明をしてもらうのがメインだ。


「照元のセリフは少なくなるように調整したから頑張ってくれ」

「うん、ありがとう。

 にしても良くこの短期間で台本書けたね」

「8割がた自動生成AIの賜物だ」


 なるほど。

 基本設定と大まかな話の流れを設定して自動生成AIで台本を作ったのか。

 なお一昔前だと『自動生成AIに頼るな』みたいなことを言う教師も居たけど、今はむしろ如何に自動生成AIを活用するかを考えるのも立派な教育だ、ということでむしろ推奨されている。

 ま、素人に台本を書けっていう方が無茶なんだけど。


「あと主人公3人は基本的に一緒に行動するんだけど、それぞれ魅せ場のソロパートがあるんだけど行けそうか?」

「えっと……」

「これだな。照元は盲目剣士ってことでギャグシーンはこれで、本気シーンはこれだな」


 その内容を教えて貰ってちょっと考える。

 難しそうではあるけど一応どちらも練習すれば行ける、かな。

 でも周りの反応は違った。


「このギャグシーン、危なくないか? 一歩間違えたら大怪我するぞ」

「もちろん安全対策は考えるさ」

「そうはいってもなぁ」

「照元的にはどうだ? 無理だと思ったら正直に言ってくれて良いからな!」

「え、うーん。

 これくらいなら日常的によくあることだし、あると分かってる危険だからむしろ普段より安心って気もする」

((よくある事なのか))

「照元、お前よく無事に生きていられてるな」

「まぁ慣れだよ慣れ」


 呆れるのか心配するのかどっちかにして欲しい。

 ただ問題はちゃんとギャグとして成立するかどうか、じゃないかな。


「これ観てる人達に『危ない』って思われたら負けだよね」

「「確かに」」

「もっと言うと教師にそう思われたら上演を止められる可能性もあるな」

「つまり照元にはお笑い芸人ばりにオーバーリアクションで立ち回ってもらう必要があるんだな!」

「う、うん。頑張ってみるよ」


 大分ハードルが高い気がするけど仕方ない。

 そして本気シーンと呼ばれる立ち回りの方はこれ、ちょっとあっちで練習しておいた方が良さそうだ。


 学校から帰宅して究極幻想譚にログインした僕は王都の武器屋へと向かった。

 買ったのは1本のロングソード。

 演劇で僕が扱うのは仕込み杖の長剣なのでこれで剣を振るう動きを練習しようと思う。

 最近は走るのにもだいぶ慣れて来たし、しっかりと踏み込みながら剣を振り下ろすっていう動作も出来ると思うんだ。

 街の外に出れば広大な荒野が広がってるし剣を振り回しても誰かに迷惑をかけることも無いだろう。

 それでもより安全なところで、ということで先日花の種を植えた僕の私有地の隣にやってきた。

 私有地の中は無事に色とりどりの花が咲き誇っている。

 ヒマワリみたいな大きい花からシロツメクサみたいな小さい花、更にミントや竹まで生えてるんだけど、蒔いたの花の種だったよね?

 いや、ミントも竹も花は咲くけどさ。

 それとミントと竹はその繁殖力の強さで庭を埋め尽くしたり家の床を突き抜けて生えてくる、みたいな問題がリアルだとあるけど、こちらではその心配は無さそう。

 竹は1か所に纏まってるし、ミントは私有地の外周にぐるっと生えてて虎視眈々と私有地の外を狙ってる気がする。

 ……来月になったら私有地の面積倍になってたりして。

 そんな花畑を横目に僕はロングソードの素振りを始めた。


(ゲーム始めた最初は思いっきり地面を叩いたっけ)


 今はレベルアップしたお陰かそれなりに振れている。

 それでも本職の人が見たら鼻で笑われそうなレベルだろうけど。

 まあ女神の祝福も無ければスキルもないのでこんなものだろう。

 学園祭の舞台ではステージ全体を使っての大立ち回りをすることになる。


(一番気を付けないといけないのは現在位置を見失わない事)


 間違っても観客席に突撃するようなことはあってはいけないし、ステージ横の壁を殴ってもいけない。

 ステージの上に点字ブロックがある訳無いのでステージに上がった位置を基準に自分がどのあたりに立っているのかを把握し続ける必要がある。


(いや、無いなら作れば良いんじゃないか?)


 背景の大道具があるように、ステージ上の床に石が置いてあっても良いだろうし端を示す出っ張りを作っても良いだろう。

 それがあればかなり楽になる。みんなの負担も減らせるだろう。

 明日学校に行ったら提案してみよう。

 よし、剣も大分手に馴染んできた。

 じゃあ台本にあった殺陣のシーンをなぞって。


「まずは居合い抜きから。って無理だった」


 今持ってるのは直剣のロングソード。しかもゲームだから鞘もない。

 これじゃあ居合いなんて出来るはずがない。

 仕方ないから脇から後ろに剣を流した状態から前に振りぬくことで代用しよう。


「大きく踏み込んで一閃んん(ずしゃあっ)」

(くすくすくす)


 踏み込んで振りぬくところまでは良かったんだけど、その後で剣の重みで引っ張られて前に倒れこんでしまった。

 前に行くエネルギーが強すぎて止まれなかったのか。

 なら適当に力を抜く?

 いやいや、折角ゲームの世界で転んでも大丈夫なんだからもうちょっと頑張ってみよう。

 試行すること1時間。コツが掴めてきた。

 これ剣を手で振っちゃダメなんだ。

 もっと回転の中心を自分の中心に合わせて、腰で振るイメージ。


ヒュンッ

「出来た!」


 なら続けてその場で8の字を描くように袈裟切り2連。からの横薙ぎで反転。飛び上がりながら切り上げて、大上段から一気に振り下ろす!


ズバシュッ!

「ってなんか出た!?」


 ゲーム判定的にスキルと認定されたらしく衝撃波で地面に5メートルくらい切れ込みが入った。

 まぁいいや。とにかく最後までやっちゃおう。

 えっと振り下ろしで着地したところから止めの一突き。

 時間にすると1分にも満たないんだけど、これが僕の魅せ場の全てだ。

 終わった後は疲労困憊で残りは2人に託して退場し、最後の締めにだけ再登場することになる。


「あとはひたすら反復練習だな。折角だから全部スキル認定されるくらいまで続けよう」


 居合い。袈裟切り。横薙ぎ。切り上げ。振り下ろし。突き。

 居合い。袈裟切り。横薙ぎ。切り上げ。振り下ろし。突き。


 本番ではステージ上を駆け抜けるような大胆な動きが求められるので、もっと歩幅を大きく手の振りも見せつけるように。

 更に迫真の演技をするなら実際に戦ってる時の臨場感も加えた方が良いだろう。

 とすると適当に相手をしてくれるモンスターを探そう。

 って、あれはミッチャーさん?

 何やら後ろから複数人のプレイヤーに追いかけられているように見えるけど。

 あれは熱烈なファンって感じじゃないな。


『ミッチャーさん。手助け必要ですか?』

『え、ラキア君!? 凄く助かるけど今どこに居るの?』

『ミッチャーさんから見て右手側の花畑のそばです』


 ちらりとミッチャーさんの視線がこちらを向いたので頷き返す。

 さて、モンスター相手に試し切りをと思ったけど、どうやらプレイヤー相手になったようだ。



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