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92.観光名所に行かなくても観光だろうか

 王都観光当日。

 僕達は中央広場で待ち合わせをして、無事に合流。

 フォニーもコロンも普段と違って華やかな服装をしていた。


(昨日ニットさんにアドバイス貰っててよかった)


 これで僕だけ普段の冒険装備だったら完全に浮いてた。

 そして今はふたりの服装を褒め終わったところなんだけど、なぜか微妙な顔をされてしまっている。

 褒めるポイント間違えたかな?


「……ちょっと意外でした」

「私も。てっきりラキアはいつもの格好だと思ってた」


 どうやら僕がちゃんとした街服で来たことに驚いていたらしい。

 いやいやこれくらい当然じゃないか。

 と知ったふりをしても良いけど絶対すぐにボロが出るから止めておこう。


「昨日別れた後にアドバイス貰って慌てて準備したんだ」

「そうだったんですね」

「まあ悪くないんじゃない?」


 僕の服装は無事にふたりから合格を貰えたようだ。

 ならここに留まっている必要はないので、いざ観光に出発!

 ただし僕は観光初心者。

 基本的にはふたりの後を付いていこうと思う。


「やっぱり観光っていうと王都の名所みたいなところを回るのかな」

「いえ。まずは裏通りをぐるっと周ります」


 言いながら早速大通りから1本ズレた道へと進んだ。

 ただ王都の中心街は碁盤の目になってるのですぐに次の通りに出てしまう。

 なので目指すは外壁近く。

 そこまで行くと道も入り組み、雑然とした街並みになってくる。

 どことなくえた臭いもするし、所謂スラム街ってところなのだろう。

 治安が悪いかは分からないけど、街の人の姿はほとんどない。


「……プレイヤーは結構多いね」

「私達と目的は同じなのかもしれません」


 イベントの特殊フラグを探すなら普通じゃない場所を調べる。

 まあ誰でも思いつくことだ。

 その証拠に誰も彼もが周囲に何か異変が無いかと目を光らせている。

 ついでにフォニー達を見て顔をほころばせ、僕が一緒に居るのを見て苦虫を嚙み潰している。

 いったいどれだけ女性に飢えてるんだろうか。


「これだけ多くのプレイヤーが探し回ってるって事は、既にフラグは回収された後なのか、もしくは外れなのか」

「う~ん、そうですねぇ」

「ラキアの眼にも特に変わったモノは視えない?」


 改めて街並みを見ても裏通りという事であまり手入れがされていない家が多いなぁという印象以外は特にない。

 街の人達も生気が無さそうなのは単純にお金が無いのかなって思う。

 後はプレイヤーだけど、やっぱり連れてる従魔は元気がなさそうで、こちらはご飯とか食べさせてもらってるのかちょっと心配になる。

 ただ、だからと言って僕が口を挟める問題でもない。


「う~ん……ん?あ、あの人」

「どれ?」

「あの金髪で長身の男性プレイヤー。

 元気そうというか、一仕事終えた後の解放感っていうのかな」

「あ、何となく分かります。それで言うと向こうの男性もですね」


 気が付いた後に見渡してみれば周囲に居る2割くらいのプレイヤーが、ここでの仕事は済んだ、もしくは大金が手に入ったから遊びに行こうぜ、みたいに足取りが軽いのだ。

 彼らに共通するもので、かつ他の8割の人達とは違う点は何か。


「従魔が居ない?」


 そう、彼らは従魔を連れていない。

 まだ従魔を見つけられていないと元気になるのか……

 いやなんで??

 と首を傾げていたらコロンに肩を叩かれた。


「大通りに戻るわよ」

「え、うん」


 どこか真剣な表情のコロンはそれだけ言うとさっさと踵を返した。

 慌てて追いかける僕とフォニー。これはここではあまり話したくないってサインかな。

 大通りに戻った後、落ち着いて話をするのならどこか入ろうかということで昨日も来た喫茶店に入った。

 奥の席に座りつつ適当に注文を済ませた後、念のため尾行や監視の目が無いか確認しておく。

 多分大丈夫そう。そういう視線は視えない。


「それでコロン。何か分かったの?」

「ええ。ラキアが言っていた、従魔を連れていない人は達成していて、連れている人は何かを探している状態。これって普通は逆よね」

「そうだね。まだ従魔に出会えていない人が躍起になって探しているというのなら分かるけど」

「でしょ? そこから導かれる答えは、その人達は従魔を売った後って事よ」

「「売った!?」」


 つまりあのスラム街のどこかに奴隷商みたいなのが居て、そいつに従魔を売ったから「良い取引が出来た」みたいに喜んでたって事!?


「売った対価が従魔法具なのかそれ以外なのかは分からないけどね」

「あぁ、そういえば従魔法具は従魔と交換する形で手に入れるものって言ってたっけ」


 先日の配信コメントでも専用の交換イベントが用意されているって話だった。

 あれ、でもそれならここまで警戒する必要もないんじゃない?


「公式の交換所がスラムにあると思う?」

「あっ」

「仮に裏組織の運営する交換所だったとして、交換して手に入れた従魔を一体どうするのか。

 絶対碌なことにはならないでしょうね」

「じゃあ今からもう一回行ってその交換所を見つけて摘発する?」

「それも難しいわ。

 今はまだ犯罪を行っている証拠もないし、それで襲撃したら逆に私達が捕まるわよ」

「それに1か所だけとは限りませんし、1か所襲撃したら他が警戒して逃げられるかもしれません」


 やるならちゃんと証拠を揃えて仲間を集めて一斉検挙すべきか。

 なかなかに難しいな。

 これは僕達だけでは解決は出来なさそう。

 まずは協力者を募ろうという事でこの場はとどめた。

 話し合いを終えて喫茶店を出た僕達が次に向かったのは市場。

 こちらは街の人もプレイヤーも大勢居て賑やかだ。


「さっきとは真逆の所に来たけど、ここからどうするの?」

「聞き込みよ。

 適当に出店で買い物しながらお店の人と仲良くなって、最近何か変わったことが無いか聞いて周るの。

 ラキアそういうの得意でしょ? 頼んだわよ」

「まあうん。了解」


 別に得意って程ではないけど、この3人の中ではそうかな。

 フォニーは大分流暢に話せるようになったけど機転を利かせた会話はまだ難しいだろうし。

 コロンに至っては僕達には慣れて普通に話してくれるけど、初対面の人にはまだ壁を作ってしまう。

 まぁ女性はそれくらいの方が犯罪に巻き込まれなくて良いのかもしれない。

 それでは早速そこの果物屋さんから当たってみよう。


(うーん、果物の種類は最初の街と同じかな。ただし値段は3割増し)

(続いて隣の八百屋は5割増しだ。王都価格ってことかな)

(香辛料に至っては倍だし)


 前からこの値段なのかと思って訊ねてみたらここ数年で徐々に値上がりしているらしい。

 王都周辺の畑の生産力が下がって、少し遠い村から仕入れてる分なのだとか。

 あれ、これは秋イベントではなく王妃様のクエスト関連では?


(流石ラキア君です。流れるように食料品の露店ばかりを周ってますよ)

(しっ。あれがフラグを拾う秘訣なのかもしれないわ)


 後ろで何か言ってるけど気にしない。

 会話を盛り上げるには自分の興味のある内容じゃないとどうしても白々しくなってしまうから行く店が偏るのは仕方ないのだ。

 さて次の食べ物のお店は、と思ったところで焼き鳥の屋台の店の前で涎垂らしてる少年を発見。


「買わないの?」

「買い物する時はお金が必要でしょ? 僕持ってなくて」


 少年の格好は無地の布の服で、裕福な家の子供では無さそう。

 かといって孤児っていう程みすぼらしい感じではない。

 なら単純に財布を家に忘れて来たのか小遣いに厳しい家庭なのか。

 ま、お金が無くても焼き鳥を食べるくらいなら不可能ではないということを教えてあげよう。


「よしなら僕と取引しよう」

「取引?」

「そう。僕の知らない事を何か教えてくれたら、その対価に焼き鳥を買ってあげるってのはどうだろう」

「う~ん、知らない大人の言う事を聞いちゃいけないんだよ?」

「それは大丈夫。だって僕はまだ大人じゃないから!」

「なるほど!」


 こんな口車に乗せて良いんだろうか。

 まぁ騙す気はないからいっか。

 僕は前払いということで焼き鳥を買って少年に渡しつつ、知ってることを教えて貰った。


「う~んどういうのが良いのかなぁ。あ、そうだ。

 『強い魔力を持った生き物は栄養満点』らしいよ」

「え、そうなの?」

「うん、僕も聞いた話だけどね。でも僕はこうして美味しく料理されたものの方が好き」

「あぁ生きたまま丸呑みとかはちょっと嫌だね」

「これで情報料になった?」

「ああ十分だよ」


 答えながら僕の背中に冷たい汗が流れた。

 少年の言う生き物が従魔の事だとしたらかなりマズいかもしれない。

 交換された従魔が高級食材として貴族に売られているのだとしたら……

 そんな僕の焦りに気付かず、焼き鳥を食べ終えた少年は笑顔でお礼を言ってきた。


「ごちそうさまでした。

 お兄ちゃん、良かったら今度うちに遊びに来てよ。

 大したもてなしは出来ないけどさ」

「あ、うん。分かった」

「じゃあね~」


 手を振って走り去っていく少年。

 って、家の場所とか教えてくれないと遊びに行けないんだけど。

 参ったなぁと頭を掻いていると、ちょんちょんと肩を叩かれた。


「ん?」

「ラキア君はさっきから誰とお話してるんですか?」

「おや?」


 どうやらさっきの少年は普通の人では無かったらしい。

 一体何者だったのか。は、後回しで良いだろう。

 それより今聞いた話を急いで共有した方が良い。

 そうして僕達は再び喫茶店へと移動するのだった。



メールやチャットで内緒話は出来ますが、街中で棒立ちになると通行の邪魔ですし、驚いた時につい大声を出したりしてしまうので落ち着いた場所に移動してます。

もっとも、喫茶店で向かい合ってお互い無言って周りから見たらちょっと怖いですが。

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