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91.観光の前に

 観光とは『他の土地を視察すること、また、その風光などを見物すること』だそうだ。

 視察。見物。

 つまり何が言いたいかというと。

 これまでの僕には縁のなかった行為なのだ。

 家族旅行とかも片手で数えられるくらいしか行っていない。

 その数回もどこそこで美味しいごはんを食べた。くらいしか覚えてない。

 なので「王都を観光しよう」と言われても具体的に何をするのか、特にお作法的な所が分からない。

 分からないなら聞けばいい。

 幸いにして僕には頼りになる年上のお姉さんに知り合いがいるのだから。


『明日コロン達と王都観光をするのですが、準備するものとか気を付ける点などありますか?』

『おっ、デートかな?』

『いえいえ、デートではないです』

『そっか残念。でも基本的にはこの2つを気を付ければ大丈夫。

 それは清潔感のある格好で、一緒に楽しむこと。これだけよ』


 ミッチャーさんにメールで質問を投げた所、こんな回答を貰った。

 ミッチャーさんらしい実にシンプルな回答だと思う。

 さて、一緒に楽しむのはまぁ当然として、清潔感のある格好ってどんなのだろう。

 自分の今の格好を確認すれば、ゲームなので当然汚れてたりはしない。

 破れてたり皺になってたりもしないしこのままで良いかなと思ったんだけど。


「ラキア様。それはお勧めできません」


 ニットさんに思いっきりダメだしされてしまった。

 ここは冒険者ギルド。

 周りを見渡せば僕みたいな格好の人は割と居るのでそんなに変な恰好ではない筈なんだけど。


「周りの方々をご覧ください」

「はい見てます」


 改めて見ても軽装重装の違いはありますがそこまで違いは無いと思う。

 はっ、まさかニットさんには僕には視えていない何かが視えているのか!!

 と思ったけどそうでは無かった。


「皆さん今から街の外でモンスター討伐をしても問題ないような服装ですよね?」

「そう、ですね」

「街中を歩くときにそのような重装備は不要です。

 お洒落な服装を、と言いたいところですが、まずはもっと街に溶け込む服装に着替えてみてはいかがでしょうか」

「なるほど、そういうものですか」

「はい。極端な例を挙げれば自宅で全身鎧を纏ったまま過ごす人は居ないでしょう?」

「それはそうですね」


 そういう呪いに掛かっているので無ければ部屋着に着替えて……あぁそういうことか。

 部屋着とかパジャマまで行くと行き過ぎだけど、リアルで外出する時に着る服と同程度の格好にすればいいんだな。

 もっともリアルで着る服は大体お姉ちゃんが選んでくれたデザインなんだけど。

 なので僕に服を選ぶセンスはない。

 今身に着けてる装備は性能重視で選んだものだし。


「……ラキア様。この後お時間はありますか?」

「え?あ、はい。大丈夫です」

「では少々待っていてください」


 そう言ってニットさんはカウンターの奥へ消えていった。

 数分後。


「お待たせいたしました」

「ニットさん?」


 後ろを振り返れば私服姿のニットさんが立っていた。

 淡いイエローのワンピースで清楚系お嬢様って雰囲気を醸し出している。


「私服姿を初めてみましたが、まるでどこかのお嬢様のようですね」

「ありがとうございます」


 待ち合わせなど、お洒落をしてきた女性はきちんと褒めろ。姉ちゃんの教えだ。

 僕の言葉を聞いてニットさんも笑顔になってるし、流石お姉ちゃんだ。


「では参りましょうか」

「どこに?」

「もちろん、ラキア様の服を見立てにです」

「え、受付の仕事は良いんですか?」

「はい、お休みを頂いてきました」


 おぉ凄い行動力。

 これきっと先日のハチミツのお礼ってことなんだろうな。

 なら断るのも良くないか。

 ニットさんに手を引かれる形でギルドを出発したけど、これ他の人にはどう見えてるんだろう。

 受付嬢ってギルドに通う人達のアイドル的存在だから後で詰められるのではなかろうか。


「どうかなさいましたか?」

「ニットさんと出かけているのを見られたらどう思われるんだろうなってちょっと気になってました」

「それなら大丈夫です。

 この服は認識阻害の効果が付いていますので、こちらから話しかけなければ私だと気付く人はまず居ません」


 なるほど、それなら安心。

 というかそれが私服の基準なのかな。

 さっきも街に溶け込める服装をって言ってたし。

 え、じゃあ僕も今から迷彩服を売ってるようなお店に連れてかれるのか!?

 などという事もなく到着したのは普通の洋服店。


「いらっしゃい。

 あらニットじゃない。仕事は?というか男連れとはやるわね!」

「ふふっ。残念ながらそういうのではないです。

 今日はこの方の街歩き用の服を見繕ってほしいの」

「はいよ」


 どうやらニットさんはここの常連らしい。

 店員さん(個人店っぽいから店主さんかな)は気さくに挨拶を交わした後、僕の方を足の先から頭のてっぺんまで眺めてニッコリ。


「異界の旅人さんね。

 私は店主のサッキーよ。街歩き用ってことだけど、何かこだわりはある?」

「いえ。服の良し悪しとか正直分からないので、ニットさんお勧めの店主さんにお任せします」

「うむ、その潔さは良し。

 その肩の子はその場所が定位置?」

「そうですね」

「なるほどなるほど」


 質問をしながらサッキーさんは僕の周りをクルクル回って全方位から僕を観察している。

 かと思えばフランを正面から見つめだした。


「あの、フランが何か?」

「フランちゃんって言うのね。あなたに良く懐いてるようだし、これなら離れていく心配は無さそうね」

(くすくす)


 サッキーさんの言葉にフランも「もちろん!」と元気に返事をしていた。

 そしてイメージが固まったのかサッキーさんは衣装棚から数着持ってきて広げた。


「あなたに合いそうなのはこの辺りね。

 1つめは白を基調とした優等生イケメンスタイル。

 2つめは黒を基調としたワイルド系スタイル。

 3つめはベージュ系の落ち着いた下町スタイル。

 最後は青を基調とした爽やかスタイル」


 まさかの全く違うデザインの4着だ。

 ただイケメンとかワイルドっていうのは僕には合わない気がする。

 いや、リアルだと合わないだけで、こっちの世界の姿だと合うのか?

 でも着られてる感が凄そう。

 などと考えていたら、ひょいっとフランが飛びだして服の上に着地。


「えっと、その青いのが良いの?」

(くすくす)

「じゃあそれで」


 フランのお勧めに従って即決。

 代金を支払って受け取った後はアイテムボックスをポチポチと操作すれば一瞬で着替え完了だ。


「どうでしょう」

「はい、良いと思います」

「うんうん。王城勤めの新人文官ですって言えば通りそうね!」

(くすくすくす)


 僕の格好を見た皆からはそれなりに高評価を頂けたようだ。

 これなら明日の観光もそつなくこなすことが出来るだろう。


「ニットさん、素敵なお店を紹介して頂きありがとうございます。

 お礼になるかは分からないですがこの後甘いものでも食べに行きましょうか。

 おごりますよ」

「まぁそれは素敵ですね!」


 女性は甘いものには目が無いというのはこちらでも通じるらしく、僕の提案にニットさんは嬉しそうに頷いてくれた。

 ただ僕はそういうお店に詳しくないので、ニットさんにお勧めのお店を紹介してもらった。

 うーん、これがデートだったら事前にお店をリサーチしてスマートに案内するところなんだろうな。

 まだまだ僕は経験値不足です。



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