90.従魔の好感度問題
(2025/10/01 修正)
従魔の見える条件の話し合いの部分が意味が通らなくなっていたので書き換えました。
光を放つフォニーとコロンの従魔。
この流れはあれだよね。
「もしかしなくても見えるようになった?」
「はい」
「そうね」
頷きながらのんびりお茶を飲むふたり。
僕もついでだからとリンゴの皮をむいて8分割して配る。
実に平和な昼下がり。
『って。ちょっと待って!!』
『なんでそんなに落ち着いてるの!?』
『今重大事件起きたよねぇ!?』
盛り上がるというか沸き立つコメント欄。
やっぱり見逃しては貰えなかったか。
それじゃあ説明を、と言っても分かってることなんてほとんどないけど。
「えっとさっきの光は従魔の子たちが他の人にも見えるようになった合図です。
それ以外の変化は……なにかある?」
「さあ」
「どうなのかしらね」
フォニー達も分からないらしい。
コロンがウィンドウを操作して何か確認しているけど、首を横に振った。
ステータス欄などにも変化は見られないらしい。
「フランの時もそうだったけど、特に進化したりした訳じゃないんですよ。
というか、他の人で従魔が見えるようになった人は居ないんですか?」
『確認してみたらトッププレイヤーは大半が見えるようになってるらしい』
「ほら。じゃあそんなに珍しい事でもないんですよ」
『そうなのか?』
『いやいや騙されるなよ』
『せめて見えるようになる条件みたいなのが分かれば教えて欲しい』
そんなこと言われてもなぁ。
フランの時は名前を決めたタイミングだったし今回とはまるでシチュエーションが違う。
モンスターと戦闘した訳でもないから経験値を稼いでレベルアップしたって訳でもない。
お茶を片手に悩む僕達。
そこでフォニーが「あっ」と短く声を上げた。
「何か分かった?」
「はい、あの。好感度じゃないかなって」
「あぁ~有り得るわね」
コロンも納得するって事は当たりかな?
フランは名前を付けて貰えて嬉しかったから。
カートとカガミは素敵なお茶の時間を共有したから。
なるほど確かにどちらも好感度が上がってる可能性はある。
だけどその考えに待ったが掛かった。
『いやそれだと他のプレイヤーには当てはまらない気がする』
『今別画面で見えるようになった人の配信を流してるんだけど、従魔法具に交換した人たちのは見えるようになってる。従魔法具に好感度は関係ないよな』
『従魔法具は従魔の上位互換って噂だから、やっぱり何かのレベルが基準値を超えたんじゃないか』
『別ゲーだけど食べ物食べてレベルアップするものもあるし』
『それなら従魔は好感度、従魔法具はレベル’(性能)で見える、でも良いんじゃね?』
『ああ確かに』
従魔法具?
また知らない単語が出て来たけど何だろう。
「あの、その従魔法具って何ですか?」
『簡単に言うと従魔の代替となるマジックアイテムです。
宝玉、人形、本など形状は様々ですが決まって無機物です。
通常の従魔よりも強力だけど手に入れるには先に通常の従魔を捕まえて、専用のクエストで交換する形になります』
「あ、なら僕らには無縁ですね」
視聴者さんのコメントを読んですぐに分かった。
僕達には間違いなく縁のないアイテムだって。
なぜなら僕は何があってもフランを売るようなことはしない。
将来的にフランと別れるとしたら、それはフランが成虫になって巣立ちを迎えた時とかそれくらいだ。
捕まえるとか交換するとか、そういうのは意思疎通の出来ないものまでにして欲しい。
フォニー達もそれは同じだろう。
そして、これは僕のエゴだけど僕の配信を観る人も同じ感覚の持ち主であってほしいと思う。
やっぱり価値観が違う人が混ざると喧嘩になるから。
「念のため確認ですが、僕の配信を観てる方で従魔法具に交換した方が良いって思ってる人居ますか?
居たら即刻ブロックしますから教えてくださ~い」
『まさかの激おこ』
『何故に!?』
『これはもう運営にクレーム入れちゃうレベル?』
「いえ別に運営には怒ってないですよ。むしろグッジョブです」
運営にまで飛躍するのは流石自由奔放なコメント欄と言うべきか。
もちろん僕は運営を批判する気はサラサラない。
だって従魔を大事にしない人は早々に手放すシステムって事でしょ。
ただただ強さを求める人にとっても利点があるし良いこと尽くめだ。
(そっか。それであんなに元気のない従魔が多かったんだ)
折角従魔と出会えたのに何で大事にしないんだろうって疑問だったんだよね。
最初から手放す前提だったらわざわざ大事にしようなんて考えないか。
しかも次イベントまでもう1か月切ってる。
まるで決断を促すように。
「次の秋イベント。武闘大会の個人戦は従魔の有無で差が大きく出るって話だけど、従魔か従魔法具かでも差が出るんだろうか」
『まさにそうだろうっていうのが大方の予想だね』
『ラキアさん達も大会出るんですか?』
「僕は出ないけどフォニー達は……あ、フォニー達も出ないんだ」
僕がちらっとフォニー達に視線送れば思った通り首を横に振っていた。
その後でコロンがさっと手を上げた。
「私は団体戦には出るかも」
「そっか。【電光石火】チーム」
つい忘れそうになるけどコロンはミッチャーさんも所属している【電光石火】の一員だった。
団体戦ともなればさっきの広範囲防御技とかすごく重宝されるだろう。
これはフォニーと一緒に応援に行くべきか。
「そのことで1つ相談してもいいかしら」
「なんだろう」
「今回のイベントの裏の目的は何だと思う?」
「え?」
コロンからの質問に顔を見合わせる僕達。
闘技大会の裏?
あ、もしかしてあの僕が落ちた穴の向こうの空間の話?
でもあの穴は塞いだって言ってたし明らかに本来はたどり着けない場所だったんだけど。
ひとまずもうちょっと詳しく聞こう。
「夏のイベントの時もそうだったけど、ここの運営って1つの出来事に幾つも隠し要素を盛り込んでくるでしょ。
当然、秋のイベントも『バトルしてオレ最強良かったね』では終わらないんじゃないかって思うの」
「なるほど、それで裏か」
先日のイベントでは最初こそ肝試しチックに廃都でアンデッド討伐と見せかけて、誘拐事件やら魔神復活やら色々あった。
だから今回もってことか。
ただ今のところノーヒント。僕が王妃様から受けた指名依頼だって関係してるか分からない。というかしてないだろう。
こういう時は運営ないし敵側の視点で考えると良いって前に聞いたな。
「僕が打倒女神を掲げる悪の組織だったら……人々の目が闘技場に向かってる間に裏でコソコソ作業を進めるかな」
「誰にも気付かれずに進めるのであればイベントに結びつける必要は無いと思います」
「普段から運営がどんなネタを仕込んでいるかは分からない訳だしね」
「じゃあ違うか」
もしかしたら冬に向けての準備が既に始まってるかもだけど、プレイヤーである僕らが知るところではない。
ならもっと大会に関連した何かがある?
「逆にみんなが闘技場に居るので一網打尽にするとかどうですか?」
「王侯貴族も多数観覧に来るだろうから貴賓室に爆弾を仕掛けて木っ端微塵」
「いや物騒すぎでしょ。せめて銃で暗殺とかにしておいて」
それもどうなんだろうとは思うけど。
ちなみにこの世界に銃は存在しない。
代わりに魔法がある訳だしね。
う~ん。
こうして話し合っても案は出ても「それだ!」と確信に至ることはない。
どうしても情報が足りないのだ。
「前回みたいな特殊フラグが発生するのを期待して王都を散策する?」
「王都観光ですね」
「まぁそれも良いかもね」
こうして僕らの明日の予定は決まった。
え、すぐ行かないのかって?
フォニー達は少し準備が必要なんだって。
ところで観光って何をするものなんだろう。




