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89.枯れ地に花を咲かせましょう

 さて。

 巨大なモンスターの討伐に成功したのは良いのだけど。

 そのモンスターは地中から飛び出してきたので、地面が盛大に掘り返されている。


「これどうしよう」

「ゲームの世界ですから時間が経てば元通りに戻る気もしますが」

「だからと言って見なかったことにするのはちょっと後味が良くないよね」


 試しにダウジングをしてみても反応が無いことから、さっきのはあのモンスターに反応してたらしい。

 ということはこの土地は僕にとって特に価値のある場所ではないのだけど。


「まあ仕方ないか」

「何をするんですか?」

「本当は龍脈みたいなのが流れてる場所を見つけられたらって思ってたんだけどね」


 言いながら取り出したのは1本のスクロール。

 これが薔薇園のクエスト報酬で貰ったアイテムだ。


「それってもしかして『土地の権利書』?」

「おっ正解!」


 適当な空き地でこのスクロールを使う事で自分の私有地に設定出来るというもの。

 一般的にはチーム共用の別荘を建てたり農場を作る際に使うものらしい。

 僕は別にどっちも必要ないんだけど。

 スクロールを広げると確認ウィンドウが出てきて、どの範囲で使用するのかを指定できるようになっていた。


(じゃあモンスターに荒らされた土地を含めるようにして、って広いな)


 スクロールには使用できる地域の情報と面積についての記載があるんだけど、地域は王都近郊。そして面積はなんと1haヘクタールだ。

 範囲の指定が完了したら次は各種設定が待っている。

 初期状態で更地にするのかどうか。

 他のプレイヤーの立ち入りは許可するのかどうか。

 などなど。

 以前テントで作った仮拠点と違ってプレイヤーに対して制限を掛けられるところが大きな差だ。

 まぁ後から変更できる項目は後回しで良いだろう。


「ひとまずモンスターが空けた穴だけ埋めて貰ってっと」

「ラキア君。こんな場所を手に入れてどうするんですか?」

「王都からも微妙に離れてるし不便よね」

「まぁちょっとした実験?

 ここからは二人にも手伝って貰っても良いかな」


 僕の言葉に快く頷いてくれた二人に、花の種が詰まった袋を渡して敷地内に適当にばら蒔いてもらうようにお願いした。

 本当はきちんと耕して、蒔く間隔も考えた方が良いのだろうけど、1haはちょっと広すぎる。

 そして僕は僕で植物の栄養剤をこれまた適当に撒いていく。


『本来なら肥料や栄養剤は植物に直に掛けるのは良くないんだけど』

「あ、そうなんですね」


 コメント欄に農業か家庭菜園に詳しい人からツッコミが入った。

 まあダメだったらその時改めて考えよう。

 そもそも普通に育てても花が育つかは分からない状態だから。

 蒔いた種はすぐに地面と同化して消えていった。

 これなら鳥に食べられる心配はないかな。

 流石にゲームと言っても種を蒔いてすぐに芽が出て花が咲くって事は無いだろうし後は数日放置だ。

 っとそうだ。1つ忘れていることがあった。


「今観てくれているかは分からないけど、王宮の薔薇園のクエストは無事に解決しました。

 情報を集めてくれた皆さん、ありがとうございました」

『おぉおめでとさん』

『俺達の情報が役に立ったんだな』

『ちなみにどのルートだったか聞いてもいい?』


 どのルート?

 僕の場合は王妃様を説得するルートだったけど、まさか捕縛して警備隊とかに突き出すルートとかもあったんだろうか。

 王妃様を脅迫して「秘密をばらされたくなければ○○しろ」みたいに何かを要求したり?

 想像したら色々ありそうだったけど、実はもっと違うパターンもあったらしい。


『ネタバレありの攻略サイトによると犯人はメイドA、メイドB、王女様、王妃様のどれかで、それぞれ動機やその後の流れが違うらしい』

「あ、そんなに色々あったんですね。

 それで言うと僕は王妃様ルートでした」


 まさかの実は全員が犯人だった説か。

 きっと調査の仕方や遭遇するタイミングによってルート分岐してたんだろうな。

 ただ薔薇園の様子からして本当に全員が薔薇園を荒らしていたのだとしたらとっくに枯れ果てていたと思う。

 もしくは全員がちょっとずつ手を出していた結果、全体の2/3もの花が萎れていた状態になっていたのか。

 それなら「自分がやったあの程度でここまで酷くなるはずがないから変だ」みたいに考えてお互いに疑心暗鬼になってたのかも。

 どちらにしても僕はもう解決扱いなので再び薔薇園のクエストを受けることは出来ない。


「ちなみに今やってるこれは、薔薇園のクエストをクリアしたら追加で出されたクエストに効果があるかもと思ってやってる行動です」

『おけおけ。チェーンクエストってことね』

『いや全然オッケーじゃない。連鎖クエとは初耳ですけど!?』

『クエストの具体的な内容を聞いても大丈夫ですか?』

「うん、もちろん」


 依頼内容は秘密だとは言われてないし、フォニー達にはこうして手伝って貰っているのだからちゃんと伝えるのが誠意というものだろう。

 それに多分だけど僕以外にも同じ依頼を受けてる人は居ると思う。

 王妃様からの指名依頼は一言でいうと「王都の危機を救ってほしい」になるんだけど、内容をちゃんと聞いてみたら今日明日どころか年内に何かが起きるかも怪しい内容だった。


「みんな王都近郊で薬草が採取できないのは知ってるよね。

 今は他の街から輸入して賄ってるから特に問題はないんだけど。

 でも王妃様はこの状況に危機感を覚えているらしい。

 このままでは王都が薬草どころか草木1本生えない不毛の廃墟になるんじゃないかって。

 そこで僕に薬草が生えない原因の調査と改善を求めたって訳」

「なるほど。でもそれとここに花畑を作ることに何か関係があるんですか?」

「あったらいいなって思って」

「つまり根拠はないんですね」

「まぁ、うん」


 そもそも今はノーヒントな状態なのだ。

 範囲も広いし原因がどこにあるのかもサッパリだ。

 だから関係のありそうなことを片っ端からやっていくしかないだろう。

 ちなみにここはその薬草が生えなくなった領域の端に当たる場所だ。

 ここで花は育つけど薬草は育たないって状況なのか、はたまた花すら咲かないのかで話は変わってくる、と思う。

 無事に種を蒔き終えたのでひと休憩、と行きたいところなんだけど当然座れるところなんて無い。

 無いのならそう、作ってしまえば良いじゃないか。


「ラキア君。今度は何を始めたんですか?」


 突然アイテムボックスから木材や石を取り出したのをみてフォニーが首を傾げた。


「折角の私有地だし、東屋までは行かなくても椅子とテーブルを作って休憩スペースを用意しようかなって思って」

「なるほど」

「相変わらず突拍子も無いわね」


 呆れたような言葉を並べつつも僕のやろうとしていることを理解して手伝ってくれる辺り、ふたりの優しさを実感してしまう。

 ちなみに作ると言っても椅子は丸太を適当な長さに輪切りにしたもの。テーブルは石を積み上げて柱にしてその上に木の板を並べただけの簡素なものだ。

 変に立派な物を作るよりも、こういった素朴な物の方が自然に溶け込んで良い感じでしょう。

 モンスターに襲撃されて壊されてもすぐに直せるし。


「よし、これであとはお茶とお菓子があれば、って果物の盛り合わせしかない」

「あ、私クルミのパウンドケーキ作って来てますよ」

「ならお茶は私が」


 フォニーとコロンのお陰で無事にお茶会になりそうだ。

 なお用意したのは6人分。僕達3人と従魔3体分だ。


「フラン達もお茶飲めるの?」

(くすくす)


 余裕だそうだ。

 フランとカガミは舌を伸ばしてチロチロとお茶を飲んでるし、カートに至ってはカップを両手で持って飲んでいる。

 器用だなぁ。


(シャー)

「え、もっと甘い方が良い? 贅沢ね」


 カガミは甘党らしい。いや蛇に甘党とか辛党ってあるの?

 でも甘味料か。それならあれを出してしまおう。


「ハチミツがあるから良かったら使って。

 パウンドケーキにも合いそうだし」


 例のハチミツを取り出して回す。

 この世界の人にとっては幻の希少品でも僕にとっては取り扱いが難しいだけの食品だ。

 仲間内で使う分には何の問題も無いだろう。

 ハチミツを見たフォニーとコロンは笑顔になってる。やっぱり女の子は甘いもの好きなようだ。

 何気にコロンが一番多くケーキに掛けてるんだけど指摘したら怒られるかな。

 そして改めてケーキを口に入れればハチミツの甘さとクルミの食感が実に合う。


(シャシャシャっ)

「あぁもう、もうちょっと味わって食べなさい」

(チチチッ)

「頬袋が凄いことになってますよ」

(くすくすくす)


 フラン達にもハチミツ掛けは好評だったようでカガミなんて丸呑みしてしまった。

 お茶を飲んで、このまままったりするのも良いかな~って思ったところで光を放つカガミとカート。

 残念ながらまったりはお預けらしい。



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