88.久しぶりの合流
ニットさんから依頼の詳細と、ついでに薔薇園の報酬について教えて貰った僕は、以前と同じように王都の外を散策していた。
そんな僕の元に近付いてくる2人の人影。
「ラキア君。こんにちは」
「……というか何してるのそれ」
フォニーとコロンである。
コロンの不躾な質問は僕の持っている物に対してである。
「えっと、ダウジング?」
答えながら持っていた石を結びつけたフランの糸を見せた。
ちなみに特に何か特殊機能が付いてたりはしないし、新たなスキルを取得した訳でも無い。
「意味あるの?」
「さぁ」
僕の答えにコロンのジト目が突き刺さる。
いや僕も何か反応があったら良いな、っていう淡い期待の元で行っているのでそういう目で見られても仕方ないだろう。
「それと今は生配信中だけど大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫です、けど」
「そのダウジング?をしてる姿を延々と流してるの?」
「うん。元々は身内向けに自分の普段の活動を見せて安心してもらおうってだけのつもりだったんだけど、何故か毎回100人を超える視聴者が居るんだよね。
皆さん、前にも聞いたかもですが退屈じゃないですか?」
『お気になさらず』
『俺達のことは居ないものと思ってもらって大丈夫っす』
『というか美少女2人と友達とか裏山死す』
概ね問題ないようだ。不思議。
まあお言葉に甘えて、特別凄いこともしないし面白いトークを展開したりもせず淡々とやりたいことを続けさせてもらっている。
「それで、ふたりは何やら僕に見せたいものがあるってメールに書いてあったけど、もしかしてその子たち?」
「そうです」
「あぁ、やっぱりラキアには視えてるのね」
僕の質問に答えながらフォニーは左肩に乗っているリスの頭を撫で、コロンは右腕に巻き付いている白蛇を腕ごと持ち上げてアピールした。
多分あの子たちがふたりの従魔なのだろう。
「もしかしてフォニー達には従魔の姿が視えていない?」
「自分の従魔は視えてますが、他人のは光の玉や帯みたいに見えてます。
フランちゃんみたいにはっきりとはまだ視えないですね」
「そうなのか」
「多分何かしらの条件があるんだと思います」
そうだったのか。
フランの場合は名前を付けた時に光って視えるようになったけど、それはふたりも知っていることなので他にも条件があったのだろう。
「ちなみにその子たちの名前は?」
「この子はカートです」
(チチッ)
「うちのはカガミ」
(シャ~)
(くすくす)
名前を呼べばお辞儀をしながら挨拶してくれる。
なかなかに賢いようだ。
つられてフランもお辞儀を返している。
うん平和。
だけど平和だと思っていたのは僕達だけだった。
『あ、あのぉ。質問しても良いですか?』
「あ、はい。なんでしょう」
『先ほどの話からしてラキアさんの従魔は他の人からも視えてるんですか?』
「はい。って、今までの配信でも皆さん視えてましたよね?」
『配信者の従魔は元から視えるのです』
なるほど、それで今まで違和感を感じなかったけど、実は他の人からも視えることを知って驚いたのか。
そして僕としては「視えた方が紹介しやすくて良いな」くらいの感覚だったけど、皆はそうでは無かったらしい。
『ということはラキアさんの従魔は他の人のより1段階進化してるって事じゃないですか?』
「いや進化って言っても見ての通りまだ幼虫の姿ですよ」
『それはつまり、まだ進化を数段階残しているってことか!?』
「どうなんでしょうね」
コメント欄が盛り上がっているけど、フランの今後の成長については僕も分からない。
まあ元気に育ってくれれば何も言う事はないのだ。
そんな雑談をしながらも散歩を続けていると、おもむろに僕の手がくいっと引っ張られた。
「ん、なんだ?」
「ダウジングの石が揺れているように見えますね」
「え、まさか効果あったの??」
まるで釣り竿に魚が掛かったような反応に驚く僕達。
まさか本当に効果が出るとは。
「ここを掘ったらお宝が出てくるの?」
「さあ。あ、いや。なんかヤバそう。
ふたりともここから離れよう」
いつの間にか揺れてるのはダウジングの石だけじゃなく、地面までが振動を始め、しかもそれが段々大きくなってきた。
これはもしかして地中から何かが出てこようとして来てる?
慌てて避難した僕達は事の経過を観察していたのだけど、予想通りそれは地面を突き破って顔を出した。
『GiGiiiiii』
金切り声を上げたそれは、直径が2メートル近くある肉の棒のようなモンスターで、棒の先端が鋭い歯が並ぶ巨大な口になっていた。
大きさと言い存在感と言い、間違いなく強そうだ。
「ラキア君の狙いはこのモンスターですか?」
「いやごめん。完全に想定外」
「なら倒してしまっても良いという事ですね!」
「腕が鳴る」
その凶悪な見た目のモンスターを前に戦意を高揚させるフォニーとコロン。
実に頼もしいです。
そして3人で連携して戦うのも久しぶりだ。
僕もちょっとワクワクしつつボウガンを構えた。
「まずは僕が遠距離から攻撃してみるね」
シュシュシュッ。ぼいんっ。
僕の放った矢はモンスターの肉の弾力で弾き飛ばされてしまった。
全く刺さらないところを見ると硬さとしなやかさを併せ持った装甲のようだ。
『Gi』
お返しとばかりにモンスターがひと鳴きするとその周囲に石の弾丸が数十個形成されて僕らの方に飛ばしてきた。
「任せて」
コロンが1歩前に出つつ盾を構えた。
でもそれだけだと雨のように降り注ぐ石を受け切れないだろう。
「カガミ!」
(シャシャシャッ)
コロンの呼びかけに応えて従魔のカガミの鱗が光を放った。
すると空中に現れる複数の盾。
それらが飛んできた石を弾き返すのではなく受け流す様にして僕らを守ってくれた。
「どう? これがカガミの【鱗盾】。
表面がツルツルしてるから大抵の攻撃は御覧のとおりよ」
「うん、見事だね!」
ふふんと自慢げに胸を張るコロン。
これまでも鉄壁の守りだったけど、更に広範囲をカバー出来るようになったようだ。
「守りだけじゃなく攻撃にだって使えるのよ。見てなさい」
「あ、コロンちゃん。次は私の番です」
盾を構えて突撃しようとするコロンをフォニーが止めた。
そして代わりに突撃していくフォニー。
それを追いかけるように笛の音が響き渡る。
(これはフォニーの従魔か)
いつの間にか肩に乗っているリスが笛を取り出して軽快な音楽を奏でている。
あの小さな手足で何とも器用なものだ。
そしてその音楽は強力なバフ効果を与えるらしい。
フォニーが跳ねるように加速してモンスターに迫る。
モンスターもフォニーに気付いて攻撃を集中させるが当たる気がしない。
そして。
「【二重奏】!!」
左右の手にそれぞれ持っていたスティックを平行にして同時にモンスターの胴体を叩く。
その打撃音は完全に1つに重なりモンスターを貫いた。
グシャッと吹き飛んだのは叩いた場所の反対側。
僕の矢を容易く弾いた肉の壁が中から破裂していた。
そのあまりの破壊力に僕は棒立ちだ。
多分あの攻撃が僕に向けられたら地面に赤いシミを残して消えてしまうだろう。
更にとどめとばかりにコロンが盾で殴ればモンスターの巨体が数メートル吹き飛んで光になって消えていった。
いや二人とも強くなり過ぎでは?