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85.薔薇園の問題。解決編

 さて今日は遂に王宮の薔薇園の問題を解決しようと思う。

 あ、王宮内に入るしネタバレを含むかもなので配信は無しで行く予定だ。

 改めて事件を振り返ると、事件の発端は王宮の花が次々と萎れてしまったことだ。

 これは最初、庭園内の色々な花で起きていた現象だけど、今では薔薇の花でのみ起きている。

 また萎れるのは全体の2/3までで全部が一斉に萎れる訳ではない。

 萎れた花は庭師のおじいさんが植物用の回復ポーションを掛けることで回復するけれど、早ければ翌朝にはまた萎れてたりするようだ。

 そして葉っぱや茎、根などには問題なく病害虫が原因でも無いことが分かっている。

 この庭園には王宮で活動する人なら誰でも出入り出来、実際プレイヤーが調査を行っている日中にメイドから王妃に至るまで様々な人が確認されている。


「では犯人は誰で、その目的は何か。分かるかねフラン君」

(くすくす!)


 王宮の薔薇園に到着した僕は探偵風に尋ねてみれば、フランも訳知り顔でうんうんと頷いてくれる。

 ノリが良くて大変結構。

 実際には先日フランに夜通し庭園で見張りをしてもらったので犯人が誰かは分かっているのだ。


「そう、犯人はこの中に居る!」

(くすくす)


 え、それはもういいって?

 仕方ないなぁ。

 ちなみに犯人が分かった時点でその目的もおおよそ見当が付いている。

 あとはどうやって解決するかだ。

 その為に用意したのが植物の栄養剤とハチミツを使った基礎化粧品。

 それをどう使うかと言えば、まずは庭師のおじいさんだ。

 今日の薔薇園はプレイヤーが5人と庭師のおじいさん。それとメイドらしき人が2人休憩している。

 その中で手の空いたタイミングのおじいさんに話しかけた。


「こんにちは、ちょっと良いですか?」

「お前さんは調査依頼を受けて来た冒険者だね。

 済まないが質問は1日2回までにしておくれ」

「あ、いえ。今日は質問じゃなくてですね」


 完全に定型文となった言葉に対し首を振る僕。

 栄養剤の瓶を見せながら今日の用事を伝えることにした。


「こちらの栄養剤を使えば薔薇の健康状態を向上できると思うのですが見て頂けませんか」

「ふむ、どれ」


 僕から瓶を受け取ったおじいさんはじっくりとその中身を眺め、やがて首を横に振った。


「悪くはない出来だ。だがそれくらいの物なら既に使っている。

 気持ちは受け取るがこれはお前さん自身が庭を造る時に使った方が良いだろう」


 そう言って返されてしまった。

 所詮は調合初心者の僕が作ったもの。

 専門家の庭師のおじいさんならもっと良いものを持っていたか。

 ただ方向性は間違っていなかったようで、若干おじいさんの僕を見る目が優しくなった気がする。


「折角ここの為に用意してくれたのだ。お礼に簡単なお願いくらいなら聞いてやってもいいぞ?」

「あ、それなら夜の庭園を張り込みたいのですが夜になるまで物置などに待機させてもらえませんか?」

「ふむ」


 僕のお願いに少し考え込むおじいさん。

 そして顔を上げると僕に小声で問いかけてきた。


「物置に案内するのは構わん。

 だが夜の庭園で犯人と思しき者にあった時、お前さんはどうするつもりだ?」

「薔薇の花に悪戯しないようにお願いする予定です」

「ふむ……騒ぎを起こさず、出会った者を傷つけぬと約束するならお前さんの願いを聞き入れよう」

「はい、約束します」


 この言い方。おじいさんも誰が犯人なのかは薄々気付いてるようだ。

 ただ分かってはいてもその原因となる犯人を排除する訳にもいかず、何か別の解決策がないかと冒険者に期待しているって所なんだろう。

 僕の案で解決できると良いんだけど。


「では物置はこっちだ。付いてきなさい」


 庭園の奥に向かうおじいさんに付いていく。

 他のプレイヤーから見られてるけど、声を掛けてきたりはしない。

 話がややこしくならなくて良かった。

 そして案内された何の変哲も無い物置。

 中に入って扉を閉めればお目当てのものが出てきた。


【夜まで時間を進めますか?

 注意:

 時間進行後、イベント終了まで王宮外への移動およびログアウトが出来なくなります。

 物置内であれば再び時間を日中に進めることで通常状態に戻れます】


 イベント進行のウィンドウが出てきたので【はい】を押せば窓の外が暗くなった。

 これで薔薇園に向かえば何かが起きるはず。


 夜の薔薇園は幻想的だ。

 月の光が薔薇の花びらに反射してキラリと光る。


(あぁこれで全ての薔薇の花が満開だったらもっと綺麗だったんだろうなぁ)


 そう思うと少しだけ残念だ。


 ふと薔薇園の入口を見ると黒づくめの3人組が入ってくるところだった。

 顔も分からず実に怪しい。

 だけど僕は臆さず近づいた。


「こんばんは。()()()

「「!!」」


 僕の言葉を聞いて後ろの2人が剣を構えた。

 しかし残りの1人が手を上げて制止した。


「よい。

 そこの冒険者。なぜ私だと分かった」


 ぱさりとフードを外し顔を出しながら王妃様が尋ねてきた。

 あ、流石に夜中は厚化粧してないのか。


「実は以前密偵をここに放ってまして、その時に王妃様が護衛2人を連れて来ることは確認していました」

「ふむ……では私の目的も既に分かっているのか?」

「ええまぁ」

「そうか。ではこのタイミングで声を掛けてきた理由を問おう」


 なぜこのタイミングか、か。

 確かに現行犯逮捕をしたいのであれば王妃様が薔薇の花を枯らしたタイミングで声を掛けるべきだろう。

 だけど今はその前。ただ夜の散歩をしていただけと言われたらそれ以上切り込むのは難しい。

 それくらいはちょっと考えれば分かる事なので王妃様は問いかけてきた訳だ。


「実は昼間に会えたら良かったんですけど会えなかったので確実に会えるこの時間に待たせて貰いました。

 これを渡したいなと思いまして」


 言いながら準備していた基礎化粧品を差し出す。


「本当の美しさは内側から輝くものだと姉に教わりました。

 外側に張り付けてもそれはただのハリボテだそうです」

「ふむ、言いたいことは分かるが」


 護衛の手を経由して受け取った化粧品を月明りにかざす王妃様。

 その表情が驚きに変わった。


「こ、これは!! ミスティックビーのハチミツを使った美容液じゃない!」

「ミスティックビー?」

「あら知らずに渡したの。だけど今更返したりしないわよ」


 言葉遣いが素になってるけどそれくらい驚いたってことかな。

 言いながら僕の渡した化粧品をそそくさと懐にしまい込む王妃様。

 まぁ元からプレゼントするために持ってきたのでレア素材を使ってたとしても返せなんて言う訳が無い。

 それにちょっと口元がニマニマして喜んでる姿を見ると、それだけで上げて良かったと思える。


「こほん。なかなかに良い献上品であった。褒めて遣わす」

「ありがとうございます」

「先ほどあなたが言った言葉も確かにその通り。

 仮初の美しさで誤魔化すのも限界がありますね。

 ……今後は夜にここに来るのも控えるようにしましょう」


 つまり今回の事件が今後は起きないようにするってことか。

 ならこれで一件落着かな。

 でもその前にまだ気になることがあった。


「あの、質問よろしいでしょうか」

「なんでしょう」

「なぜ王妃様が自らここへ?

 適当なメイドなりにやらせる訳にはいかなかったのですか?」

「それは無理なのよ。

 これでも私は王家に嫁ぐ前は『花の錬金術師』と呼ばれていてね。

 花を摘み取ることなく潤いのみを抽出するのは私にしか出来ないの。

 それと花の潤いは美容液にするには刺激が強すぎてダメだったわ」


 あ、ということは最初は自分でも基礎化粧品を作ろうと試行錯誤してたのか。

 でも相性が悪くて断念して代わりに外側に塗る方の化粧品になってしまったと。

 それだと洗えば落ちてしまうので消費が激しいのだろう。


「あなた名前は?」

「ラキアです」

「そう。ではラキア。冒険者ギルドにあなた宛てに指名依頼を1つ出しておきます。

 急ぎの案件ではありませんが、ぜひ受けて貰えると助かります」

「分かりました」


 王族からの依頼って、それはお願いと見せかけて強制って奴なんだろうな、本来は。

 ただプレイヤーの場合はリアルが忙しくなってどうしても受けられないって事もあるし、そこまで強制力は無いと思う。

 まぁ変な内容じゃなければ受けるんだけど。


「では私は早速部屋に戻ってこれの使い心地を試すとしましょう」

「はい、おやすみなさい」


 ルンルンな雰囲気を頑張って隠しながら去っていく王妃を見送り僕も物置へと戻った。

 すると【イベント終了】の表示と共に時間帯は通常の昼間になったので外に出てみた。

 薔薇園は、流石にまだ復活はしてないし他のプレイヤーがせっせと調査を続けていた。

 ただ去り際に庭師のおじいさんが僕にそっと頭を下げてくれていた。



王妃様が厚化粧の為に薔薇の花から美容成分を抽出していたのが花が萎れていた原因でした。

(実際には薔薇の美容液とか存在しますので刺激が強くて云々というのはこの世界での話です)

なお現行犯逮捕しようとしたり討伐しようとすると、護衛の2人に切り捨てられます。

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― 新着の感想 ―
しはらく使ってから使い心地を聞いてみたいですね!
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