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不自由な僕らのアナザーライフ  作者: たてみん


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83/128

83.女王様の気苦労

<妖精の女王視点>


 妖精の国で不法侵入した少年(ラキア)が衛兵に連れていかれた後。

 少し前に異界の冒険者のひとりが女王である私に会いたいという連絡を受けたので招き入れることにしたのだけど。

 連絡をしてきたのはたしか人間たちの住む地に派遣した子のひとりだ。

 あの子はまだ外に出て日が浅いのだけど、一体どんな人間と出会ったのか。


「私の名はフィーディア。精霊の力を操る精霊魔術師よ」

「精霊……」


 フィーディアと名乗った人間は勝気というかプライドが高く自分の欲望に正直な人間らしい人間だった。

 こういう人間と私達は決して相性は良くないと思っていたのだけど。

 恐らく女神の祝福の影響ね。

 あの子も仲良くしているというより連れ回されているように見える。

 それにしても精霊とは一体……


「あなたにとって精霊とはどのような存在かしら」

「この世界の全ての自然エネルギーを統べる者ね」


 それは神と呼ぶべきなのでは?

 少なくとも私の知る限りそのような存在は神やその使徒くらいなものだ。

 私達も自然の力を使って生活しているけど、それは『使わせて頂いている』と言った方が正確だ。

 間違っても『使ってやってる』などと考えれば手痛いしっぺ返しが待っている。

 女神の祝福を受けた異界の冒険者なら何とかなるのか。いや無理な気がするが。

 まあいい。それこそ女神が何とかするだろう。


「なるほど。それでここに来た目的は何でしょう」

「これに聞いたのよ。

 あなたに会えば私の能力は1段階上がるって」

「……あぁ」


 何が言いたいのかと考えて、なるほどこの人間のいう精霊魔術なるものを強化したいのかと納得した。

 確かに私達の力で今のこの人間の能力をパワーアップさせることは出来るだろう。

 それにしても私達の仲間をこれ呼ばわりとは。


「あなたの望みは分かりました。

 ちなみに将来の夢や目標はあるのかしら」

「もちろん。最終的には精霊王を従える最強の精霊術師になってみせるわ!」

「それはまた壮大な野望ね」


 従える、ですか。

 上位存在をまるで道具か下僕のように言うのはどうかと思うけど。

 ただそれが人間というもの。

 幸い破滅願望とかはなさそうなので仮にその望みが叶ったとしても世界が滅んだりはしないでしょう。


「ではその資格があるか試させてもらいましょう」

「クエストね。何をすればいいのかしら」

「あなた達が廃都と呼んでいる場所の近くの森でちょっと困った問題が起こっているようなのです。

 それを解決してきてください。行き先はその子が示してくれます」

「分かったわ」


 私の言葉を聞いてすぐに出発していった。

 人間ってどうして試練とかクエストとかいう言葉が好きなんだろう。

 嬉々として去っていった姿にため息をつきつつ私は遠見の魔道具を起動して経過を観察することにした。


「さて」


 急いでいた割には向かうのは日を改めてにしたらしい。

 準備を整えてようやく出発。まぁ慎重なのは悪いことでは無いわね。

 しばらくして無事に森に辿り着いたあの人間は奥に進みそして。


「あら、あの少年はこの前の?」


 先日相談を伝えてきた蜂の一族の元には少年の姿があった。

 どうやら独自の情報網であの場所に辿り着いたらしい。

 いや先に私の元に来るのが筋ってものでしょうに。

 それとも来れない理由があるのか。


「だれか」

「はっ!」

「先日ここに迷い込んだ少年ですが、送り出した後ちゃんと正式に訪問するように伝えた?」

「え、いえ、それは」


 警備の者に確認するとどうやら追放に近い形で少年をここから出したらしい。

 本来なら出入り口から出すものを一方通行の出口を使ったと。

 つまり少年は入口が分からないから来なかったという事?

 でもあの芋虫の子が居れば道も簡単に見つけられるのではないかな。


「え、まさかここや私達に興味が無い?」


 いやそんなことある?

 人間にとって私達を始めとした自分とは違う存在というのはそれだけで会う価値があるはず。

 無欲な人間が居るはずがない。

 それとも欲の方向性が全然違うのか?

 ちょっと気になる。


「あぁ女王蜂も競争を提案して煽ってるわね。少年には全く効いてないけど」


 そしてさっさと先に行ってすぐに罠に引っかかる人間。

 本来ならここで人生終了のお知らせなのだけど、少年が居てくれたから助かっている。

 というかあの少年は流れるように糸のトラップを回避していた。

 熟練のレンジャーなのだろうか。

 順調に先に進み蜘蛛の巣要塞に到着したのは良いけれど、たった2人で勝てる?

 仲間を集めて挑戦しても全然構わないのだけど。

 どう攻略するのかと期待してたらまさかの囮戦法である。


「少年を囮にして自分は安全な場所からひたすら攻撃。

 まぁ魔法使いとしては正しい戦法なのだろうけど、ね」


 即席パーティーで打ち合わせも無しに危険な役回りを押し付けるのはどうなんだろう。

 幸い少年は怒ってはいないようだけど。

 そして力押しでボスモンスターの討伐に成功。

 そこまでは良かった。


(あ、これはまさか)

「急ぎ救援部隊の編成を!」

「はっ!!」


 人間に結びつけられた透明な糸が隠ぺい結界を通り抜けてしまう。

 これではあの糸を辿られて結界がその効果を失う。

 あぁ人間も蜂達も透明な糸に気付けていない。

 そのまま依頼完了とみなして撤収してしまった。

 恐らくあの糸の主は人間が立ち去ったタイミングで襲撃してくるはず。

 なら今から救援を送っても間に合わない。


「あの少年が何とかしてくれるのを祈るしかないわね」


 遠見の魔道具は印をつけたもの(今でいうあの人間)の周囲しか確認できないので少年と蜂達がどうなったのかは分からない。

 神ではないこの身ではすべてを思い通りにすることなどできないのだ。

 忸怩たる思いで待ち続けていると2つの報告が送られてきた。


「女王様。あの人間が戻ってきました」

「そう。ここに通して」


 戻ってきた人間は、得意満面やり切ったぞという顔をしていた。

 こちらの気も知らないで。まったく。

 だけど流石にそれを表情に出したりはしない。


「依頼を達成してきたわよ」

「ええ、ご苦労様です」

「それじゃあ報酬を貰えるかしら」

「分かりました」


 報酬として考えていた候補は3つ。

 その内のどれを渡すかはこの人間の行動を見て決める予定だった。

 まあこれで良いだろう。

 私が取り出したのは拳大の宝玉。


「あなたにはこの妖精珠を授けます。

 これはその子になり替わり、あなたの魔法を増強してくれます」

「なり替わり、ということは上位互換という事?」

「えぇそうです(完全ではないけれど)」


 私の手からふわりと浮かび上がった宝玉は人間の元へと飛んでいき、代わりにあの子はすっと離れていった。

 人間は、恐らく自分のステータスを確認しているのだろう。中空にある何かを見てはにやにやと満足そうに頷いている。


「私からあなたに渡せるものは以上になります。

 これからもあなたの旅路に幸多くありますように」

「ありがとう」


 私の言葉に短く礼を言うと人間は去っていった。

 その姿が見えなくなったところであの子が私の元に飛んできた。


「助かりました女王様」

「えぇ。大変だったでしょう。しばらくはここで逗留していきなさい」

「ありがとうございます。

 それであの人間はこの後どうなるのでしょう」

「さぁ。興味ないわ」


 先ほど渡した妖精珠は確かに現在の能力としてはこの子の上位互換。

 だけど所詮は道具。成長することも無ければここに導くこともない。

 長い目で見ればこの子が成長し進化した方が強力なパートナーに成りえたのだけど、名前すら憶えられていない時点でその未来はありえないか。


「それよりもあの少年、ラキアさんには何かお礼をしなければいけませんね」


 先ほど届いたもう1件の報告では彼が無事に変異種のモンスターを撃退し蜂の女王の救出にも成功したという。

 もし彼が居なかったら色々大変なことになっていた。

 ただ問題は、彼は何を貰ったら喜んでくれるのかが分からないことか。

 直接聞けたら良いのだけど、彼がここに来るのはいつになるか。



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― 新着の感想 ―
ラキアとはあまりにも雰囲気が違う彼女が妖精に好かれるの?と思っていたけど… 女神の祝福は素質が無くてもなんとかなっちゃうからね〜。
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