表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不自由な僕らのアナザーライフ  作者: たてみん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/129

82.天敵

 主の居なくなった蜘蛛の巣要塞は見る影もなく崩壊していた。

 地面を見渡してみても多少蜘蛛の糸が残っているだけで、それ以外はごく普通の森の広場って感じだ。

 このゲームではボスが居たからと言って宝箱が落ちてたりはしない。

 その代わりアイテムボックスの中には『蜘蛛の糸』とかドロップアイテムが大量に放り込まれているのだけど。


「さてと」


 改めて確認してみると、白い蜘蛛の糸は軒並み消滅している。

 だけど消えていない糸もあるのだ。

 それが気になって僕はここに残ることにした。


「この透明な糸はなんだろう」


 思えばここに来るまでの道にもちょいちょい張られていた。

 しかし戦闘中に飛んできていたのは白い糸だけ。

 つまりその主は戦闘には参加していなかったと考えられる。

 今もそれらしい蜘蛛は近くには居ない。

 もしかしたら長距離徘徊型のモンスターでここを通ったのも偶然でかなり前という可能性もある。

 それならそれでいい。

 だけどそうじゃなかったら?

 実はさっき倒したのは中ボスで、透明な糸を吐くラスボスを倒さないと完全勝利にならないのだとしたら。

 そこでふと思い出した。

 フィーディアさんの身体には何本も透明な糸が絡みついていたなと。

 あれだけ沢山糸が付いてたのに動きにくそうな感じは無かった。

 じゃああの糸は特に意味のないものだったのか。


「そんな訳が無い」


 思わず口に出してしまう程、それは確信に満ちていた。

 では何のためか。

 攻撃用ではない。陣地防衛用でもない。それでいて時間が経ってもくっつき続けている。

 くっつき続けている?


「まさかそういうことか!」


 この透明な糸を吐いたモンスターの意図に気付いた僕は急いで女王蜂たちの住処へと走った。

 そして。

 僕が戻って来た時には全てが手遅れだった。

 激しい戦闘があったのだろう、そこら中に飛び散っている透明な蜘蛛の糸。地面に横たわる夥しい数の蜂の骸。

 しかしその中で微かに動く羽が見えた。


「大丈夫!?」

『ブブ……ブブブ……』


 声を掛ければギリギリ意識があったらしく、弱弱しい声で何が起きたのかを教えてくれた。

 突然半透明な巨大蜘蛛が現れ、蜂達に襲い掛かって来たらしい。

 頑張って応戦したものの力及ばず全滅してしまったと。

 隠ぺい結界に守られていたはずなのにどうして、というのはきっとフィーディアさんに付けられた透明な糸を辿って突破されたのだろう。

 そのフィーディアさんは恐らく女王蜂に報告した後、襲撃が起きる前に帰っていったのだろう。

 今頃はきっと、この事件のことなど全く気付かず妖精の国に向かっている頃かな。


『ブブ……』

「女王蜂は連れ去られた? 分かった。じゃあ今から助けに行ってくるよ」

『ブ……』


 その蜂は僕の言葉を聞いて安心したのか、静かに眠りについた。

 僕は目を閉じて黙祷を捧げた後、顔を上げて周囲を見渡した。

 本当は埋葬してあげた方が良いのかもだけど、それよりもいち早く女王蜂を救うことが彼らの願いだろう。


「女王蜂が連れ去られたのは……あっちだな!」


 ほんのわずかにだけど透明な液体が木の枝に付着していた。

 恐らくは襲撃してきたという蜘蛛の体液。蜂達の攻撃を受けて傷を負ったのだろう。

 つまりみんなの頑張りは無駄じゃなかったって事だ。

 その痕跡を追って森の奥へと向かった僕は無事にその背中を見つけた。


「逃がさないぞ!」

『!!』


 僕の呼びかけにビクッと驚いたようだけど、そいつはすかさず横にジャンプして草陰に隠れた。

 多分普通なら半透明の姿と相まって見失うところなのだろう。

 だけど残念。僕の目にはばっちり見えている。


「そこっ」

シュッ

『ギギッ!』


 僕の放ったボウガンの矢が潜伏していた奴の足に突き刺さった。

 まさかそんなはっきり見つかってるとは思ってなかったのだろう。

 押し殺してたはずの声が漏れてしまっている。


「それとここだな。フラン」

(くすくす!)


 奴から少し離れた位置に矢を放ち、同時にフランも一見何もないその場所に粘液を飛ばした。

 その粘液の糸を引き戻してみれば見事、透明な糸に包まった女王蜂の回収に成功。

 糸の中の女王蜂はどうやら意識を失っているようだけど怪我とかはしてなさそうだ。


『ギヂギヂ!!』


 獲物を横取りされて怒ったようだ。

 だけど怒っているのはこっちだって同じ。


「フランは女王蜂を連れて下がってて」

(くすくす?)

「うん、多分大丈夫」


ピシュッ!

スパッ! 


 透明な糸を飛ばしてきたから炎属性の短剣で切り飛ばす。

 蜘蛛の糸は燃えないってどこかで聞いたことがあるけど、この世界でもそうらしい。

 それでもくっつくのは防げるみたいなので十分だ。

 続いて2発3発と放ってくるも同様に僕までは届かない。


『!?』


 あぁ驚いてるな。

 きっと不可視の攻撃に絶対の自信があったんだろう。

 ところが残念。

 僕には全て視えている。


『シィ!』


 糸が効かないとみると近接戦に切り替えてきたようだ。

 こいつらは毒を持たないみたいだし攻撃手段が糸と爪しかないっぽいな。

 枝から枝へと左右に飛び跳ねながらこっちに近付いてくるのは見えて無ければ相当厄介だ。


「それも本来なら必殺の暗殺術なんだろう。でも」


 残念全部視えてる。

 しかも足の力の入れ具合を見れば次にどっちに飛ぶかも丸わかりだ。


「そこ。次そっち」

シュッシュッシュッ


 寸分違わず矢が突き刺さっていく。

 最初の1矢から思ってたけど、奴はさっきのボス蜘蛛より外皮が柔らかいみたいだ。

 人で言うところの隠密回避特化って奴かな。

 そしてその隠密も回避も僕には全く通用しない。


「蜂にとってお前は天敵なのだろうけど、僕はお前の天敵だ」

『!!』


 10本近い矢を受けて半死半生。

 これは勝てないと悟ったのだろう。

 さっと僕に背を向けて逃げようとする。

 が。


「逃がさないよ」

シュルルル


 糸付きのボウガンの矢が僕の意思に従って不規則な軌道を描き奴を縛り上げた。

 それをグイっと引っ張れば見事、透明蜘蛛の一本釣りだ。


「普段縛る側の蜘蛛が縛られるのはどんな気持ちかな。

 まあ考える余裕はあげないけど」

ズンッ


 放物線を描いて飛んできた奴の背中に短剣を深々と突き刺せば無事に討伐できた。

 奴の身体と一緒に周囲の透明の糸も消えていく。

 これで蜘蛛討伐の依頼は完了で良いだろう。

 問題は依頼主の蜂に被害が出てしまったことだけど。


「フラン。女王蜂の様子はどう?」

(くすくす)

『大丈夫じゃ。助けて頂き感謝するのじゃ』


 フラン達の所に戻ればちょうど女王蜂が起き上がるところだった。

 自力で羽を動かして飛べてるし目立った怪我はないようだ。


「女王は助けられましたが蜂たちに多くの被害が出てしまいました」

『そこはあまり気に病まないで欲しいのじゃ』

「しかし」

『まぁ戻って見れば分かる』


 言われた通り蜂達の住処に戻った僕は、驚きの光景を目にすることになった。


「これはいったい……」


 忙しそうに飛び回る数百体の蜂達。

 そこに先ほどの惨状は見当たらず、代わりに綺麗な花畑が出来上がっていた。

 蜂達もまるで何事もなかったかのように女王蜂を迎える。


『ブブブ』

『うむ、みなご苦労なのじゃ。

 見ての通り私は無事じゃ。すべてここにいるラキア殿のお陰なのじゃ』


 女王蜂の宣言を聞いて蜂達は喜びの八の字ダンスを披露したり空中に「大感謝」と人文字ならぬ蜂文字を描いて歓迎してくれた。

 でもその前にちょっと説明をして欲しいのだけど。


「どうなってるんですか?

 襲撃が無かったことになった訳じゃないですよね」

『もちろんじゃ。

 私達の種族は全体で1つであり、中心となる王が無事であれば何度でもやり直せる。

 今ここにいる者たちは遠くに蜜を集めに行っていた者たちじゃな。

 巣作りには向いておらぬ者たちじゃがすぐに適応する。

 そして仲間がやられたことは悲しいことじゃが自然の摂理と割り切っておる。

 私達に出来る彼らへのはなむけに花畑で眠らせるくらいなものじゃ』

「逞しいですね」

『そうでなくては生きては行けぬからな!』


 モンスター蔓延るこの世界で特別な力を持たない虫や動物は独自の進化を遂げて生き抜いているのか。

 僕達人間はむしろ便利で快適な暮らしに慣れ過ぎて弱くなっているって言うし見習わないとな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ