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不自由な僕らのアナザーライフ  作者: たてみん


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80.女王蜂の依頼

 数千匹の蜂の大合唱は、唐突に終わりを迎えた。

 現れたのは他より2周り大きな女王蜂。


『話は聞いた。芋虫の子を連れた冒険者よ』

「女王様は喋れるんですね。凄いです」

『ふふん、当然じゃ』


 胸を張る女王蜂。

 僕の目線の高さまで降りてきてじっとこちらを覗き込んできた後、フランの上にふわりと降り立った。


『しかしてっきりファーの依頼で来たのかと思えば全くの別件とはのぉ』

「ファー?」

『こっちの話じゃ。

 してハチミツじゃが、多少分けるくらいは問題ない。

 ただし皆が集めてくれたものじゃ。無料と言う訳には行かぬであろう?』

「そうでしょうね」


 答えながらひとまずいつもの果物盛合せはあるだけ全部出しておく。

 だけど市場価値で考えるなら全然釣り合わない。

 多分今の10倍出しても小瓶1つ分になるかどうか。


『ほむ、ほれはほれれ貰っておくが』

「あ、食べてからでいいですよ」

『うむうむ。あ、これお前たち。ブドウは残しておくのじゃ』


 見る見る果物の山が消えていくのは圧巻だ。これが数の暴力。

 というかお腹空いてるの?


「皆さんにとって果物ってどういう位置づけ何ですか?花の蜜が主食ですよね」

『そうじゃな。人で言う肉みたいなものじゃ。

 ほとんど食べなくても生きてはいけるが、定期的に食べれば強靭な体になり易くなる』

「なるほど。フラン達はそれでこんなに大きくなったのか」

『いや芋虫がここまで大きくなるというのは初めて見たがの』


 フランの周りを飛び回りながらしげしげと眺めては首を傾げる。ちょんちょんと背中を押してはうむうむと頷く。

 何かを調べているのか。いや、あの表情はきっと面白がっているだけだな。

 などとちょっと呆れていたら後ろから誰かが近づいてきた。


「おや、もしかして先客かな?」

「この声はどこかで」


 振り返ってみればそこに居たのは先日、妖精の国ですれ違った人がいた。

 羽の生えた小人も一緒なので間違いない。


「こんにちは」

「あ、君は先日の」

「はい。ラキアです。よろしくお願いします」

「私はフィーディアよ」


 お互いに名乗って握手を交わす。

 この人は妖精の国で賓客扱いだったから悪い人ではなさそうだし。

 ただフィーディアと名乗ったその人はちょっと困ったように頭を掻いた。


「さて。実は妖精の女王にこの森で起きてる問題を解決してこいって言われてきたんですが。

 この宴会騒ぎ。もしかしてラキアさんが先に解決してしまってたりするのかしら?」

「問題?いえ、僕は別の用事で来ただけです」

「あら、そうなのね」


 僕の返事を聞いてほっと息を吐くフィーディアさん。

 しかし問題かぁ。

 ここまで見てきた感じでは特に無かった気がするしここも平和な様子だ。

 そんな妖精の女王が気に病むほどの問題が起きてるのだろうか。


「実際の所どうなんですか?」

『うむ。問題は起きてるのじゃ』

「うひっ、蜂が喋った!?」


 女王蜂が喋ったのを見て驚くフィーディアさん。

 いやビックリしたのは分かるけど、ちょっと驚き方が悲鳴に近い。

 まあしかたないか。

 見た目はちょっと大きい蜂だし。


「それでどんな問題が起きてるんですか?」

『この森の奥で蜘蛛型モンスターの特殊個体が発生してな。

 周囲の蜘蛛を従えて暴れまわっておるのじゃ。

 そのモンスターの討伐を頼みたい。

 少年1人ではどうかと思ったがお前たち2人なら大丈夫じゃろう』


 なるほど蜘蛛か。

 それは蜂にとっては天敵の様なものだろう。

 そして僕1人では厳しいってことは討伐推奨レベルが50を超えるってことか。

 はたまたパーティーじゃないと勝てないギミックが用意されているのか。


『ところで人間は競争が好きな種族であったな。

 どちらがより成果を上げて戻ってくるか楽しみにしていよう』

「??」

「!!」


 女王蜂からのまさかの発言。

 それを聞いて驚いた後にフフリと笑うフィーディアさん。


「そう言う事ならここでのんびりしてる必要はないわね。

 先に行かせてもらうわ!」


 フィーディアさんは言うが早いかさっさと奥へと行ってしまった。

 その背中を見送る僕達。


「行っちゃいましたね」

『少年は行かぬのか?』

「行きますけど、その前に確認を2つほど。

 この依頼が達成出来たら報酬にハチミツを貰えると思っていいですか?」

『うむ、良いぞ。小瓶で5,6本はくれてやろう。

 それでもう1つはなんじゃ』

「実は切羽詰まったという程、困ってはいないですよね。

 じゃなかったら僕らを競わせるような事は言わない筈です。

 仮に僕らが失敗しても次に来た冒険者にやらせればいいや、くらいの気持ちなのでは?」

『ふっ、ばれてしまったか。

 この場所は隠ぺい結界で守られているから奴らがここまで来ることは無いのじゃ』

 

 森を荒らされて困ってはいるけど、自分たちに直接的な被害はないから急がなくていいやって事らしい。

 もしくは自分たちが代表して助けを求めなくても他の森に生きる種族、例えば鳥とか蝶とか蟻とかが代わってくれれば報酬を支払わなくて済むかも、とか考えてるのかも。

 まあそれらが人と話す能力を持ってるかは知らないけど。

 そう考えると危険を冒してまで助けたい気持ちがちょっと薄れてしまう。

 まぁ報酬のハチミツは欲しいし女王蜂の後ろでそわそわと成り行きを見守ってる蜜蜂たちは助けたいので依頼を放棄する気はないんだけど。


「じゃあ僕も行ってきます」

『うむ、気を付けて行ってくるのじゃ』


 フィーディアさんが通った道を辿って僕も森の中を走る。

 ま、走ると言っても僕の足だから早歩きくらいのものだ。

 もしかしたら現場に到着する頃にはフィーディアさんが全部倒してしまってるかも、なんて思ったけど杞憂だったようだ。


「えっと……フィーディアさん?」

「すまない。油断した」


 しばらく進んだ所でミノムシ状態で枝に吊るされたフィーディアさんを発見。

 相手は蜘蛛だからね。

 自分たちの巣に近付く敵を排除するために罠くらい張ってるでしょう。

 そしてそれにまんまと引っかかってしまったようだ。

 さてここで問題。

 こちらを出し抜いて先に行こうとした人を助ける必要があるか。

 まぁ助けるんだけど。


「よっと。ととっ」


 ジャンプして吊っていた糸を短剣で切り離し、フィーディアさんが頭から落ちないように支える。

 ついで体に巻き付いてる分も切ったところでフィーディアさんは自力で立ち上がった。

 どうやら怪我や毒の心配はなさそう?


「無事でよかったです」

「助かったよ。まさかあんな古典的なトラップに引っかかるとは思わなかった」


 足元を見ればなるほど、地面から20センチくらいの高さで糸が張られている。

 あれに触れると先ほどのフィーディアさんみたいに宙づりになってしまうのだろう。


「慎重に行きましょう」

「そうだね。あ、それと少し離れて進もう。

 ふたり同時に罠にかかっては助からないからね」

「はい」


 フィーディアさんの提案に従ってお互いに5メートルくらい離れて先に進んでいく。

 それにしても静かだ。

 さっきから動物どころかモンスターの1体も出てこない。

 蜘蛛の糸トラップは徐々に増えているので確実に奴らのテリトリーの中だと思うのだけど、蜘蛛型モンスターすら出てこないのは変だ。

 もしかして何か異変が起きているのだろうか。



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