8.レベルアップとフレンド
そしてそれは3匹目のモンスターにボウガンの照準を合わせている時に起こった。
<祝福レベルがアップしました>
突然何処からともなく聞こえてきた声は、恐らくシステム通知というものだ。
どうやら女神の祝福がレベルアップしたらしい。
僕は一度構えを解いて自分のステータスを確認してみることにした。
『
名前:ラキア
職業:探索者(2)
祝福:視力(2)
技能:短剣(1)ボウガン(1)薬草学(1)
』
ってそうだった。
今の僕で読めるのは自分の名前と『薬草』ってところ、後これは『ボウガン』かな。
残りの漢字はまだ読めない。
()で囲まれた数字が恐らくレベルだろう。
ということは2文字でレベルが2のこれが『視力』かな。
よしよし、これでまた読める漢字が増えてきた。
ってそれは街に戻って落ち着いてからでいいとして。
祝福のレベルが上がったらどう変わるのかが分からないな。
「試しにもう一度モンスターを狙ってみるか」
レベルアップは狙っている最中に発生した。
ならこうしてボウガンの照準器を覗き込むだけで経験値が入っているのかもしれない。
それでモンスターは……居た。
相変わらず毛がふさふさしている。触ったら気持ちよさそうだ。
ゲームなのにここまで毛の質感を出してるのって凄いよねって感心しつつ、さっきまでとの違いを考える。
えっと、毛の生え際までしっかり見えるようになった?
あとはどっちを向いてるのかとか筋肉の張り具合が分かる気がする。
今後ろ足に力を込めたからもうすぐジャンプするかな? あ、やっぱり。
ということは、このタイミングかな。
ズンッ
「よし、1撃」
モンスターがジャンプした先に目掛けて矢を放てばカウンター気味に眉間に突き刺さり倒すことが出来た。
先読みのカウンター。
これが常に出来るようになれば僕でも戦っていけるかもしれない。
なんて思っていた時期が僕にもありました。
「い、一度に3匹は無理~」
他よりも強そうなモンスターが居るなぁって見てたら目が合っちゃって。
そしたらなんと仲間を呼び寄せて襲い掛かって来た。
慌ててボウガンを放ったんだけど狙いを定めてなかった矢は彼らの足元に刺さり牽制にもならなかった。
なので今は必死に逃げてる最中。
なんだけど、僕が急いで走れば当然コケる。
ズシャーーッ
「……痛い」
なんて言ってる場合じゃない。
すぐ近くまで迫ってきているモンスター達に振り返ってナイフを構える。
ナイフ1本じゃあ同時に飛び掛かられたら対応出来なくて食べられてしまうんだろうな。
そんな未来を想像しながら対峙してるんだけど、なかなか攻撃してこない。
どうしたんだろうと思ってたら後ろから笑い声が聞こえてきた。
(くすくすくす)
あ、この声ってあの芋虫さん達のだ。
ということは例の新人殺しの薬草園に来ていたらしい。
だからモンスターたちは僕に飛び掛かってくるのを躊躇しているのか。
なら薬草園の中に逃げ込む?
いや。前回とは別の場所っぽいし土足で踏み込めば僕もただでは済まないだろう。
やっぱり自力でモンスターを退けるしかない。
僕は改めてナイフを持つ手に力を込めながらモンスターを睨みつける。
「グルゥ」
あれ、若干及び腰になった?
と言ってもその隙に攻めるにも逃げるにも僕の足では無理だ。
どうしよう。
じっと見つめ合って1分くらいしてるんだけど状況は変わらない。
そこへ助け船が飛んできた。
「そこの君。そのモンスター倒さないなら貰っても良いかな」
その女の人はまるで散歩するかのように近づいてきた。
その姿を見たモンスター達は僕の時とは別の意味でビクッと硬直している。
もしかして綺麗な見た目に反して熊みたいに強いってことかな。
「はい、むしろお願いします」
「おっけ~。よっ」
その人は軽い感じで頷いたかと思えば次の瞬間。
突風のごとく駆け抜けてモンスター達を討伐してしまった。
多分モンスター達は自分の身に何が起きたのかすら分からなかっただろう。
ちなみに使っていた武器は僕のよりちょっと長いくらいのナイフ。
ということはもしかしたら僕も上達したら同じことが出来るようになるだろうか。
……いや、あの移動速度は無理だな。
そう思ってたらその人が戻ってきて僕を見てニカッと笑った。
「やあ君凄いね!」
「僕が、ですか?」
「そうそう。見た感じ初心者でしょ?
なのにあの状況で諦めずに相手を睨みつけるのは中々の胆力だよ」
「あ、ありがとうございます」
褒められてしまった。
僕としては逃げ道もなかったし他に出来ることが無かっただけなんだけど。
「それでお姉さんはどうしてここに?
かなり強いみたいですし、普段はもっと先に進んでるんじゃないんですか?」
「まあね。
今日は知り合いのクエストの手伝いで来たのさ。
ただ……」
言葉を濁しながら僕の後ろに広がっている薬草園を見ていた。
「麻痺に効く薬草がなかなか見つからなくてね。
いつもなら適当に歩いてれば見つかるのに。
仕方なく新人殺しの薬草園に目を付けたんだけど、あたし状態異常耐性無いんだよね。
こんなことならアクセサリ用意してこれば良かった」
高レベルっぽいから死ぬことは無いと思うんだけど、それでも毒と麻痺のコンボは嫌な物だろう。
ここに突撃していくのを躊躇っている様子。
でも待てよ。
それなら僕でも役に立てるかもしれない。
助けてもらったお礼もしたいし。
僕はアイテムボックスからリンゴを取り出しつつ薬草園の方に声を掛けた。
「こんにちは~誰かいますか~」
「……えっ、どうしたんだい??」
後ろでお姉さんが驚いてる。
多分僕が急に独り言を言い出したと思ってるんだろう。
やっぱりここの芋虫はあまり知られていないみたいだ。
(くすくすくすくす)
僕の呼びかけに応えて芋虫さん達が例の笑い声と共に姿を現した。
相変わらず薬草が保護色になっていて知らないと気付かなそうだ。
「麻痺に効く薬草が欲しいんだけど、このリンゴと交換してもらえないかな」
(くすくすくす)
リンゴを地面に置くと上から溶けていくようにリンゴが消え、僕のアイテムボックスの中に3種類の薬草が放り込まれた。
「ありがと~。
で、お姉さん。この中に目当ての薬草はありますか?」
「え、あ、あぁ。これだね。貰っていいのかい?」
「はい。先ほどモンスターから助けてもらったお礼です」
「そういう事なら遠慮なく」
僕の差し出した薬草を受け取りながらお姉さんはじっと僕のことを見ていた。
どこか変?
少なくとも顔はゲームだから特別不細工ってことは無いんだけど。
なんて考えたけどお姉さんの気にしてるのは別の所だった。
「しっかし、君も珍しい祝福を貰ったらしいね。
薬草に語り掛けて目当てのものを取得するなんて。
ドルイド系の魔法か草魔法? 薬学って線もあるのか……」
「いえ今のは」
「ああ、すまない!
他人の祝福を詮索するのはマナー違反ってもんだ。忘れとくれ」
「はぁ」
僕の祝福は別に秘密にする程のものでもないんだけど、マナーなら仕方ない。
僕も聞かないようにしよう。
その代わりに僕は右手を差し出した。
「僕はラキアって言います。先ほどは魔物から助けて頂きありがとうございました」
「ほぅ。あたしは『疾風』のミッチャー。こちらこそ薬草助かったよ」
どこか感心したようなミッチャーさんは僕の手を取り。それと同時にシステム通知が届いた。
<フレンドが追加されました>
どうやらこのゲーム、お互いに名乗って握手をするだけで友達と認識されるらしい。
手間が省けて便利だね。