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77.花畑を経由して帰還

 境界を越えてきた先は一面の花畑。

 そこには蝶が舞い蜂が飛び交う自然の風景。

 なのにどうしてだろう。

 僕は今、大勢の兵士に喉元に槍を突き付けられ絶体絶命のピンチです。


「どこから侵入してきた!」

「怪しい奴め」

「女王陛下の命を狙う暗殺者か」

「それとも秘宝を狙う盗賊か」


 揃いの制服に身を包み油断なく僕を睨みつける。

 どうやら出てきたのは王族の私有地とかみたいだ。

 でも王都の王宮ではなさそう。

 なぜなら今のあそこはこんなに花は咲いてなかったから。

 それにこの人たちは普通の人間ではない。背中に羽が生えてるし。


「えっと、すみません。ただの迷子なんですけど」

「そんな言い訳が通る訳無いだろっ」


 僕の言葉は一蹴されてしまった。

 でも事実だし他にどういえば良かっただろう。

 急なことで言い訳の1つも思い浮かばないのだけど。

 あ、すみません。槍がちょっと刺さってます。

 抵抗はしませんので、はい。

 ここから牢屋行きならまだ弁解の余地がありそうだけど、即死刑とか言われたら困るな。

 いやでも死んだら王都か最初の街に戻れるのか?

 その方が単純な気がするな。

 などと考えていたら奥から女性が近づいてきた。


「皆さんお待ちになって」

「近づいてはなりません。女王様。危険です」

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ」


 凄く落ち着いた大人の女性。

 年の頃で言うと40前後のおばさ……いえ、女性は誰でも永遠の20歳のレディです!

 一瞬背中を冷たいものが走った気がしたのは気のせいだろうか。

 下手なことは考えるべきではないな。

 ただそれでも思うのはこの人は素肌美人ということだ。どこぞの王妃様の厚化粧とは違う。


「って女王様?」

「ええそうよ。女神の祝福を受けし異界の冒険者さん」


 なかなか凄い呼ばれ方をしてしまった。

 でも確かに僕らの事を正確に表現しようとするとこうなるのか。


「ラキアと言います」

「私は、残念ですが次に正式にここを訪れた時に名乗りましょう。

 あなたは十分に祝福を成長させているようですし、またすぐ会えます。

 その時には私達の眷属も連れておいでなさい」

「眷属?」

「ほら、あの丸々と大きくなったあの子よ」


 丸々と……あぁフランのことか!

 実は今日はフランとは別行動なんだ。

 フランには今重大な任務を与えている。

 きっと数日以内には成果を上げて帰って来てくれるだろう。

 そしてフランの眷属という事は。


「皆さんは妖精なんですか?」

「そうね。人間からはそう呼ばれているわ」

「人間からは?」


 僕の疑問に女王様はふふっと笑うだけだった。

 これはきっと自力で裏の意味に気付きなさいって事だと思う。


「さあ、私はこれから面会の予定が入ってるの。

 あなた達は彼を出口まで送ってあげてね」

「はっ!」


 女王様を見送り僕は兵士の皆さんに囲まれながら移動を開始した。

 花畑に始まって薬草園や果樹園など、流石妖精の住む場所だと感心するほど色鮮やかな空間が広がっている。


(この景色、フォニーやコロンにも見せてあげたいな)


 ここって僕しか入れない場所なんだろうか。

 さっきの会話から考えて、ここは本来女神の祝福に関連したイベントで来る場所っぽい。

 フォニーやコロンも自分の祝福イベントを今頑張ってるって話だし関係者しか参加できない可能性は十分にある。

 って、あれは。


「こんにちは~」

「あらこんにちは」


 向こう側からやって来たプレイヤーと思われる人と挨拶を交わす。

 しかし立ち止まることなくすれ違った。

 あの人が女王様が言ってた面会客かな。

 民族衣装っぽい服を着た人(妖精?)が先導してた。

 対して僕は槍を持った兵士に囲まれながらの移動だ。

 なかなかの待遇の差と言えるだろう。

 まあお客様と不法侵入者の差か。

 それと肩の所に蝶のような羽の生えた小人が座っていた。

 あれはきっと従魔もしくは使い魔みたいな関係なのだろう。

 僕で言うフランみたいなものだ。


「着いたぞ。ここが出口だ」


 言われて前を向けば扉の枠だけが立っていた。

 ただし本来なら扉本体がある場所は空間がゆらいでいるのが分かる。

 そしてその向こうに広がる空はこちら側の空とは若干色が違う。


「これって向こうから入ってくることは出来るんですか?」

「資格無き者はこの地に足を踏み入れることは出来ぬ」


 なるほど。資格があれば来れるってことか。


「この度はご迷惑をお掛けしました。

 女王様にもよろしくお伝えください」

「うむ」


 兵士の皆さんに見送られて僕は空間のゆらぎを通り抜けた。

 途端に変わる空気の匂い。

 今度こそいつもの場所に戻って来れたようだ。


「ここは、王都の近くか」


 遠くに見えるのは王都の外壁と畑。

 足元には雑草ばかりで薬草も花も咲いていない。

 てっきりもっと自然豊かな場所に扉があるのだと思ってたけどそうでもないらしい。

 後ろを振り返れば今通ってきた空間のゆらぎが、ない。

 どうやらまた向こうに行きたい場合は改めて入口を探せってことなんだろう。

 まあ今急いで行く必要もない。

 用事を済ませた後で改めて探すことにしよう。


「ってそうだ、配信!」


 闘技場の穴に落ちてからもう1時間以上経ってしまっている。

 あのタイミングで強制的に配信が止まってしまったから観てくれていた人達は怒っているかもしれない。

 急いで謝らないと。


「3、2、1。

 ラキアです。皆さん急に配信切れてしまってすみません」


 生配信を開始して第一声で謝りつつ少し待つ。

 流石に突然再開した配信を観てくれる人なんてまずいない。

 せめて誰か1人でも来てくれたらその人に改めて謝ろうと思う。

 って考えてたら視聴者数が一気に5人に増えた!


『よかった。配信再開したんですね!』

「はい。ご心配をお掛けしました」

『このゲームだとちょいちょいある事だから気に病む必要はないよ』

『やっぱあれですか。イベントフラグ踏み抜いた的な』

「はい、そんな感じです。

 ただすみません。何が起きたのかは口止めされてるので言えないです」

『それも個別イベントだと良くある話だから大丈夫』


 ほっ。良かった。

 皆さん怒ってはいないみたいだ。

 でもその好意に甘えすぎるのも良くないよね。

 こういう時は誠意をもって謝るべきなんだけど、その誠意の示し方とは?


「質問なんですけど、こういう所謂やらかした時のお詫びってどうするものなんでしょうか」

『今回に限らずってことかな』

『まじめか!』

『ありがちなのは恥ずかしい暴露話1つとか?』

『他には視聴者からの無茶振りチャレンジをやるとか』


 なるほど。恥ずかしい話か。

 クラスメイトに話したらドン引きされた話とかはあるけど。

 あ、あれとかいいかな。


「じゃあ5年前に起きた困った時の話で。

 その日は学校帰りに久しぶりにいつもとは違う道を通ってみようと思い立ったんです。

 それでちょっと遠回りをするだけのつもりだったんですけど、歩いてたらなぜか四方を囲まれた謎空間に捕らわれてしまいました。

 幸い通りすがりの人に助けて貰ったんですけど、助けられるまで2時間ほど立ち往生してました。

 以来、その道は絶対に通らない道に指定しました」

『は?』

『え、なにそれ』

『怪談話的な何かか』

「いえ普通にリアルにある話で、後で調べてみたら同じような場所は結構あるみたいです。

 まあ何気ない施設が人によってはちょっと危険な場所になるって話です」

『うーん、それは分からなくもないが』

『ちなみにその施設が何だったか聞いても大丈夫?』

「はい。その時は駐輪場の入口でした」

『はい?』

『イミフ度が天元突破しました』

「あはは、すみません」


 ちなみにどういうことかと言うと、その駐輪場の入口は4本のポールがちょうど人1人が中に入れる間隔で立っていたんだ。

 で、当時まだスマートデバイスが発達してなかった時だから白杖頼りで歩いてた僕は、その中に入ってしまい、結果、白杖をどっちに動かしてもポールにぶつかるので右に障害物、左に障害物、戻ろうとしても障害物という、恐ろしい檻に閉じ込められた状態になってしまったんだ。

 今だからこそネタに出来るけど、あの時は本気で閉じ込められたと思ってパニックになってたなぁ。



最後の小話は実際にあった話です(私は助けた側)

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