75.王都の周り
薔薇園の調査を行った翌日。
僕は王都の西門へとやって来ていた。
「門の外は東側と大差ないのか」
街道以外は見渡す限りの畑。
守衛さんに聞いたら城のある北側以外は同じように畑が広がっているらしい。
王都民数十万人に新鮮な野菜を提供しようと思ったらそれくらいの広さの畑が必要ってことか。
具体的に何人住んでるかは知らないけど。
そして今日は先日に引き続き配信もしていこうと思う。
手順は2回目となれば慣れたものだ。
「設定よし。配信開始のカウントダウンスタート。
3、2、……こんにちは、ラキアです。
今回も前回同様、僕の活動風景を流すだけの配信になります。
特別面白いネタとかは無いので別のチャンネルに移ることをおすすめします」
どうだろう。
前回よりかはスムーズに挨拶出来たんじゃないかな。
って嘘でしょ。早速視聴者が1人増えたんだけど!?
「えっとご視聴ありがとうございます?
概要欄にも書いてますけど、特別面白いことをしたりはしないのですが大丈夫ですか?」
『こんにちは。
前回の配信も楽しく見させて頂いたので大丈夫です』
おぉ、まさかの常連さん(2回目で常連って言っていいのかはあれだけど)だ。
え、前回の配信そんなに面白かった?
あの後、お姉ちゃんには『撮影したよ』って伝えて『晃らしいな』って返事が返って来てたんだけど。
まあいずれにしても喜んでくれたのならいっか。
「今日は王都の周りをぐるっと歩いてみる予定です」
『了解!』
話しながら移動を開始する。
まずは出てすぐ広がっている畑を見ながらのんびりと。
畑では農家の人達がせっせと耕したり、綿棒を持って花の受粉を促したりしてる。
他にも牛や鶏といった家畜も放牧されていて実にのどかだ。
しかしそこから一歩外に出ればモンスターが闊歩する危険地帯となる。
「王都西側のモンスターのレベルは25~35だそうですね」
適正レベルの幅が広いのはプレイヤーの職種を考慮してのものだろう。
戦闘系の祝福を授かってる人なら25でも余裕で、そうでない人でも35もあれば何とかなるという。
なので40超えてる僕はまだまだ余裕があるという事だ。
やっぱり最初の街でレベル上げすぎ?
でも街からそれなりに離れたらモンスターのレベルも高かったし仕方ないと思う。
ただ街の近くにクマハチ並みのモンスターが闊歩してるのって普通に考えたら恐怖だよね。
ま、モンスターについては今回はおまけで、散歩の目的は別にある。
「ニットさんの情報によると王都近郊に薬草園は無いらしいんですよ」
最初の街の近くと気候もそんなに変わらないのにどうしてって思ったら、聞くも涙の物語がありました。
なんでも5年前に王都で疫病が発生したらしく、その治療のために近くの薬草は根こそぎ採り尽くされてしまったという。
その結果、次の年の春になっても薬草が生えてくることはなく。
ならば近隣の街から薬草の苗を貰ってきて植えてみたらどうかと試してみても育たず。
今では諦めて必要な分の薬草は行商から買ったものが出回っているらしい。
なので王都生まれの新人冒険者は最初の街に行って薬草採取の依頼を受けて経験を積むらしい。
そんな話をぽつりぽつりと語りながら歩いていく。
実際歩いてみてもこれでもかっていう程、薬草が生えてない。
いやこれ大丈夫?
自然の動物だって多分薬草が無いと困ることがあると思うんだけど。
あ、でもそれなりに街から離れた所になら生えてるっぽいから良いのか。
なら別に他の街から取り寄せなくても……と思ったけどそう言う訳にも行かない。
街から離れれば強いモンスターが多くなるし往復の為の移動時間も増える。
結果的にただの薬草なら買った方が安く済むんだろう。
そこまで考えたところで僕は胸騒ぎがして王都に目を向けた。
「……もしかしてこれ、後々不味いことになるんじゃないかな?」
『おっ、なにか気付いた系?』
僕の呟きにコメントが書き込まれた。
しかも同時視聴者数が200人超えてるし。
何が面白くて観てるんだろう。
いや配信してる僕が言う言葉じゃないかもだけど。
って、それは今は良くて。
「ただの憶測の話なんですけど。
王都を中心に薬草が生えない件って、もしかしたら薬草の育成に必要な何かが失われている状態なのかなって思ったんです。
その何かってかなり重要な物な気がするんですよ」
『ふむふむ』
『その何かに心当たりは?』
「いやまださっぱりです。
今のところ畑の野菜は普通に育ってるみたいですし。
あ、王宮の薔薇園で花が枯れるって問題が起きてますが、そことの関係も不明ですね」
薔薇は薬草ではないので関係ないと思う。多分。
まあまだ何がどう繋がっていくかは分からないけど。
『その薔薇園のクエストについて調べた情報があるけど聞きます?』
「え、もしかしてわざわざ調べてくれたんですか?」
『まあ暇だったし。ただクリア者ゼロなんで役に立つか分からない小ネタばっかりですけど』
「それでも助かります」
まさか前回の配信の最後に薔薇園のクエストを受注してたのを見て調べてくれてる人がいるとは思わなかった。
それに完全なネタバレはちょっと困るけど小ネタくらいなら聞いても問題ないだろう。
『えっとじゃあ、1つ目はあの庭園って日中は庭師の人は常時居るけどそれ以外にも結構頻繁に色んな人が出入りしてるそうです』
「それ僕も見ました。昨日は王妃様と王女様が来てました」
『他にもメイドも複数来るらしく、その人達からヒントが貰えそう。
ただしただ話しかけてもそっけなく追い返されるので何か献上するのが良いんじゃないか。だって』
なるほど。
でも王妃様とかに何を献上しろと?
僕たちが手に入れられるものなんて王妃様なら余裕で買えるだろうし。
はっ。まさかドラゴンの鱗とかか。
『他、庭師に質問して有効そうだった回答は、症状が出始めたのは3か月くらい前かららしい』
「じゃあ廃都の件は関係してなさそうですね」
『薔薇以外の植物についても同じ現象が起きたそうだけど、そっちは数が少なかったし1回限りだったから大した問題ではなかったらしい』
何故薔薇なのか。
そこに攻略のカギが隠されている気もするけど、う~ん。
薔薇について調べてみたら何か分かるかも。ってもう他の人があれこれ調べてるよね。
今聞いた情報は攻略サイトとかに載ってる情報だから先に調査始めた人なら知ってるか。
「まだまだ謎だらけですね」
『ラキアさんでもお手上げですか』
「いや僕そんなに謎解きとか得意じゃないですから」
あまり期待されても困る。
そんな話をしながら西からぐるっと南側を通って北東側までやって来た。
現れたのは大規模工事現場。
「これが例の闘技場ですか」
例の禊クエストで集めた資材で建築しているというあれだ。
サイズは、多分東京ドームと同じくらい? 知らないけど。
遠目で観ても大勢の人が働いてるのが分かる。
折角だから近くで見学させてもらおうかな。
そう思って工事現場のすぐ近くへ。
「えっと?」
これどこまで行っていいんだろう。
特に仕切りがしてある訳でも無く、監視っぽい人も居ない。
なら中の様子も見てみようかな。
怒られたらごめんなさいして出てこれば良いんだし。
などと言いつつ出来るだけこっそりと。
「こういう潜入はわくわくしますよね」
『分かる分かる』
『男の子だな』
中は至る所に資材が積み上げられているので隠れる場所には困らない。
このまま最奥にある秘宝を目指そう。
もちろんそんなものはないけど。
お、さっそく地下に続く入口を発見。
どんっ
「おっとごめんよ!」
後ろから誰かがぶつかってきた。
その反動で地下の階段に落ちて、落ちて……あれ?
階段は?