73.視聴者は観た!
今回は配信を観てた視聴者からの視点になります。
(ここ数話のダイジェストに近いです)
<***視点>
俺の名前は葛西 富士夫。
職業は普通のサラリーマン。趣味は配信サーフィンだ。
ただし知り合いからは『悪食』だと言われている。
理由は、メジャーな配信はほとんど観ずにマイナーな、それこそ視聴者数100人にも満たないような配信を好んで観ているからだ。
だけど別に面白くない配信が好きって訳じゃない。
どっちかというと配信始めたてで誰も注目していない人を発掘するのが好きって感じだ。
だから今日も配信サイトに検索を掛けてめぼしい配信を探していく。
「この人は……ダメだな。こっちの人は、あぁ炎上系か。
ごめん俺笑えないネタは受け付けない。
今日も外れは多いな。
お、なんだこの人。初配信日が今日?というかついさっき??
しかも生配信だしチャレンジャーだなぁ」
普通、初めての配信って言ったら緊張するし噛んだりミスしたりするから生配信はしないのに。
これはズブの素人さんだな?
タグも無ければ概要蘭も空っぽ。あ、いや。今書き込まれた。
あぁなるほど。身内向け配信ね。
それならプライベートタグをつけるべきなんだけど、あ、こんにちは言ってるし別に他所様お断りでは無い感じか。
てかそこどこ?
え、新人殺しの薬草園? またマイナーなところ来たなぁ……
『中に入らず手前で果物を差し出すと、代わりに薬草が貰えます』
「はぁ!?」
変な声出た。
ちょっと待て。初めて聞いたぞ!?
実演してるしマジなのか!!
攻略サイト、該当情報なし。
考察サイト、該当情報なし。
掲示板で『新人殺しの薬草園の特殊ギミックについて知ってますか?』と書き込んで反応を見る。
いや中に入ったら毒やら麻痺やら食らうのは知ってる。
モンスター投げ込んだら消滅した?いやそれも初耳だけどそれ以外。
時々笑い声が聞こえる?謎のホラー展開は求めてないって。
ってことはガチで新情報か。
あ~これ他の人に言っても良いんだろうか。
「とりあえず悪食仲間に面白い生配信してるって教えてやるか」
色々調べてる間に次の場所に向かってるみたいだし。
今日のお題は最初の街から王都までの移動シーンって感じか。
それ自体は普通だけど、さっきのがさっきのだから何かやらかすんじゃないかと目が離せない。
にしても徒歩なんだな。
馬に乗れば10分くらいで到着するのに。
あぁ、道中で薬草とか採っていく為か。
そして暇人達が続々と視聴し始めてるな。自分も人の事言えないが。
「にしてもえげつないなぁ。道中のモンスターは全部ボウガンで1発か。
明らかに適正レベル違うだろ。
それとも女神の祝福か? 急所貫通とかなら低レベルでも同じこと出来るか。
それにあの肩に乗ってるの。あんなの見たことないぞ」
だめだ。聞きたいことが多すぎる。
でも基本的に身内向け配信っぽいんだよなぁ。
そこにあれこれ質問送りつけるのはマナー違反だろう。
と思ったら向こうから質問来た。
なら無難なジャブから。
『あ、コメント書いても良い感じですか?』
『はい、ご自由にどうぞ』
おぉ普通に受け答えしてくれるらしい。
ではでは軽い世間話から話を弾ませて行きましょう。
まずは道を逸れてることを伝えるだろ。
それから色々と、
『さっきからレアな薬草多くないか?』
って馬鹿!
俺がそれとなく話題を振っていこうとした矢先に核心を突くんじゃない。
俺だって気づいてたけどずっと我慢してたのに!
あぁほら。ほかの奴らも便乗してきた。
我慢してた分、みんな歯止めが利かなくなってるし。
落ち着けおまいら。
まずいって!
【配信者によりコメント欄が閉鎖されました】
あっ。
ほらだから言ったのに~~。
これで配信が嫌になって2度と配信してくれなくなったらどうしてくれるんだ。
実際、コメント欄が炎上して怖くなって配信辞めましたって人は多いんだからな!
こうなったら俺達に出来るのは祈るだけなので配信画面の前でじっと正座待機。
【配信者によりコメント欄の閉鎖が解除されました】
ほっ。
よし皆分かってるな?せ~の。
『『ごめんなさい』』
許してもらえた?
大丈夫?
よし。これで一安心。
みんなも頭冷えただろう。
俺達は配信者を応援し見守るのが役目。
それを忘れちゃいけない。
こういう人は普通に配信してるだけで面白い(変な?)ことをしてくれるんだから。
などと言ってる所にモンスターの集団に追いかけられてる人達発見。
あれはボスモンスターと取り巻きか。
この辺りでレベル上げしてるプレイヤーだとちょっと厳しいだろうなぁ。
配信者の彼は、迷うことなくヘルプに入るのか。
まぁここまで観てきた感じそうするだろうなとは思った。
10体以上居た取り巻きの雑魚モンスターはボウガンで一掃。
やっぱりボウガンにあるまじき連射力と殺傷力だな。
そしてボスをどうするのかと言えば。
「短剣も使えるのか」
しかも軸足動かさずに腰の捻りだけでボスの攻撃をいなしてる、だと。
『この短剣さばきも通常スキルなのか?』
思わずと言った感じで誰かが書き込んでるけど、俺も同じ気持ちだ。
短剣使いで有名なプレイヤーって言ったら『疾風』のミッチャーだけど、あの人は高速移動からのなで斬り主体だから彼とは流派が違う。
彼はいわば守りの短剣術。
しかしカウンターがズバズバ決まるなぁ。まるで敵の挙動の1手先が視えてるかのようだ。
「いやそれどこの達人?」
そして苦戦することなくボスも撃破。
この辺りのボスって討伐推奨レベル幾つだっけ。
……5人パーティーで20。ソロだと戦闘職で30以上、それ以外だと35は欲しい、か。
ほぼ無傷で圧勝したところを見ると40くらい行ってるのかもしれないな。
っと、助けた2人も一緒に行くのか。
ちょっと心配になるが。
あ~、パイね。うん。好みはそれぞれ。否定すると戦争になるぞ~。
話題からしてこの2人は大学生かな。
プレイヤースキルは、お世辞にも良くは無いな。
なぜ魔法で遠距離から先制しないのか。
なぜ動きの速いモンスターに威力重視の縦振りをするのか。しかも外してるし。
見かねた配信者さんから指導が入るのは当然。
『修業パート始まりました』
『王都に向かいながらジャンジャン釣っていくスタイル』
『モンスターさん。生まれた瞬間に届く地獄への招待状』
『いやマジで発生と着弾がほぼ同時に見えるんだけどw』
コマ送り再生で確認したらマジでモンスター発生前にボウガンを放ってる時がある。
どうなってるんだこれ。
マジでチートを疑いたくなるレベルなんだけど、この人がわざわざ生配信中にチートするのかって考えたら絶対しないだろうって結論になる。
だから俺達が知らないだけで女神の祝福やら何やらを駆使すれば出来るのだろう。
このゲームはこういうぶっ飛んだ人が居るから面白い。
そして修業も終えて無事に王都に到着、と。
ここで2人とはお別れだな。
続いて冒険者ギルドへ。
王都のギルドは比較的まとも、というかギルドのお約束イベントは最初の街で行われるのが一般的なのでこっちは平和だ。
受付担当はニットさんか。
受付嬢は各ギルドに複数人居るんだけど、誰が担当になるかはプレイヤーの性格や活動方針によって変わると言われている。
フェルト/ニットの通称『生地娘』は世話好きで知られている。
彼女らから無茶な依頼を渡されることは早々無いって話だけど、さて。
「はぁっ!?」
くっそ。今日何度目の変な声だよ。
妖精獣ってなんだ、妖精獣って。
妖精すらこのゲームでは初耳だっていうのに。
薬草園に行けば会えるのか?
いやその特定の条件をもっと詳しくプリーズ!!
「はぁ、はぁ。あー配信終わってしまった」
薔薇園の調査は次回以降か。
ひとまずブックマーク付けてっと。
次はいつ配信してくれるかなぁ。
王宮の中とか配信禁止エリアか? だとするとしばらく先になるか。
ならせめてその薔薇園のクエストについて調べてみるか。