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72.王都に到着しました

 アップルパイさん達の修業は12体でストップした。

 いつから修業になったんだっけ。まぁいっか。

 でも、ということはやっぱり最初の時も頑張れば勝てたんじゃないだろうか。


「俺、この時間だけでレベルが3も上がったんだけど」

「俺も」


 肩で息をする2人。

 ゲームの世界なので肉体的な疲労というよりは精神的な物だろう。

 ただちょっと反省。

 やっぱりゲームって言うのは楽しむものであって辛い思いをしてまで頑張るものではないから。

 次はもっと楽しく、例えばそう先日のロックゴーレム1000本ノックの時みたいにぺったんぺったんとリズムに乗って戦うようにしたら良いかもしれない。

 でもたった3レベルかぁ。

 僕がフォニーに連れられて冒険した時は一気に10くらい上がってたからそれに比べたらまだまだだな。

 ちなみに今回僕の職業レベルは上がっていない。

 ずっと釣りをしてただけだし、暇を見て薬草を採取してたからそっちの経験値は入ってるだろうけど微々たるものだ。

 そして。


「王都が見えてきましたね」

「おぉ」

「やっとか」


 最初の街を出てから2時間。

 ついに王都を囲む外壁と、その外側に広がる畑が見えてきた。

 畑の中には見るからに農家の人って感じの人と一緒にプレイヤーと思われる人達が農作業に勤しんでいた。

 いわゆるファーマーと呼ばれる職種なのかな。

 モンスターが畑の中には入っていかないところを見るに魔物除けの結界が張られてるって感じか。

 僕たちは街道を逸れることなくまっすぐ王都の入口に向かい、特に検問などもなく中へと入った。


「これが王都か」

「さすがに綺麗な街並みですね」

「あっちにあるのが城だよな」


 お上りさん全開で周囲をきょろきょろする僕達。

 最初の街は小さな村を増築して発展していった感じで結構道が入り組んでいたけど、対する王都は最初から計画して道を走らせてる気がする。

 例えるなら京都とか札幌みたいに道が碁盤の目なのだ。

 もちろん王城周辺は防衛上の観点から入り組んでいるけど市街地は迷う心配はなさそうだ。


「さて。僕はこれから冒険者ギルドに行ってみようと思いますけどおふたりはどうしますか?」

「あー俺達は今日はもうログアウトしようと思います」

「だな。明日は1限からだし課題も終わらせておかないと」


 1限から? あ、そうか。

 確か大学って1時間目の授業が無い場合もあるんだっけ。

 逆に2時間目が無い時って何してるんだろう。

 ちょっと謎だ。

 宿屋に向かう2人と別れて冒険者ギルドへ。

 ギルドは広さこそ違えど内装は最初の街のと一緒。

 この分だとどこの街でも同じなのだろう。

 そして依頼等を受ける方法は3つ。

 受付に行くか、掲示板に張られている依頼書を見るか、メニュー画面を開いて操作するか。

 これも同じだ。

 以前の僕だと文字が読めなかったので受付一択だったけど、今なら8割、いや5割くらいは読めるので掲示板でも大丈夫。

 でもやっぱり受付かな。

 その方が僕に合った依頼が見つかりやすい気がする。

 というか『綺麗な景色が見れます』なんて条件が依頼書に書かれてはいないと思う。


「こんにちは~」

「ようこそ王都冒険者ギルドへ」

「って、フェルトさん!?」


 受付に居たのはなんと、最初の街のギルドにいたフェルトさんだった。

 もしかして僕がのんびり歩いてる間に先回りしてきたの?

 と思ったら違った。


「どうやら妹がお世話になったようですね。

 私はフェルトの姉のニットと申します。以後よろしくお願い致します」

「お姉さんだったんだ。

 ラキアです。フェルトさんには大変お世話になりました。

 こちらこそよろしくお願いします」


 お互いにきっちり頭を下げ合う。

 うーん、日本人。

 そして挨拶が終わればここからは仕事の時間だ。


「それでは僕に合った依頼を紹介して、という前に。

 王都近郊にも『新人殺しの薬草園』みたいな場所ってありますか?」

「それについてなのですが、1つお伝えしておかなければならないことがあります」

「え」


 何やら深刻な表情を浮かべるニットさん。

 まさか新人殺しに腹を立てたプレイヤーが薬草園に火を放ったとか?

 いやでも向こうを出てくる時はまだ平和そのものだったよな。


「実はこの度、その場所の危険度の上昇が確認されました。

 報告によると状態異常耐性を付けた熟練の冒険者が薬草の乱獲を行おうとしたところ、全身を切り刻まれて瀕死の重傷を負ったそうです。

 幸い死には至りませんでしたが同様の事例が数件。

 恐らくは鎌イタチのようなモンスターが住み着いたのではないかと思われますが詳細は不明です。

 もし危険なモンスターの根城になっているのであれば討伐隊の編成するべきとの声もあります」

「はぁ」


 それ、めちゃくちゃ心当たりがある。

 思わず肩に乗っているフランに視線を送るとうんうんと頷いてるし間違いないだろう。

 そして討伐隊なんて送られては困る。

 彼らはあの場所で平和に暮らしたいだけなのだから。

 僕はそっとフランを肩からカウンターの上に移動させた。


「ニットさん。この子なのですが」

「あら可愛い。妖精獣ですね。ラキア様の従魔として登録しておきますね」


 妖精獣?登録?

 いやそうではなくて。


「妖精獣については後で教えて欲しいのですが、先にその薬草園の件についてです。

 実は薬草園にはこの子の家族が暮らしているんです。

 彼らが薬草園を荒らしに来た不届き者を実力行使で排除した結果が先ほどの話なのではないかと」

「なるほど。妖精は小さな子供や特定の条件を満たした人でないと見ることは出来ないそうですからね」

「(特定の条件?)はい。なので危険なモンスターなどではありません」


 僕の説明を聞いたニットさんはフランをじっと見つめ(心なしプルプル震えてる?虫が苦手なのかな)こほんと1つ咳払い。


「情報提供ありがとうございます。

 ただどうして急に変化したのかは調査が必要です」

「あーそれも多分僕のせいです。詳しくはまた後で」


 頻繁に果物とかをお裾分けした結果、大きく成長したみたいなんです。

 ただそれは声を大にして言わない方が良い気がする。

 今はほら、生配信してる訳だし、これをきっかけに薬草園に果物が山積みされても困ると思うんだ。


「確認ですがラキア様は妖精がお見えになる?」

「妖精というのは今初めて知りましたが、見えると思います」

「でしたらこちらの依頼を受けては頂けないでしょうか」


 そう言って差し出された依頼書には【王宮の薔薇バラ園の調査】と書いてあった。


「えっと、すみません。漢字がちょっと。王宮のなんですか?」

「バラ園、です」

「あぁバラか」


 難しい漢字だとは聞いたことあったけど、これは確かに読めないし書けない。

 何を考えてこんな難しい漢字を作ったのか。

 依頼内容としてはここ最近、薔薇の生育が良くなく、その原因の究明をお願いしたいというもの。

 王宮なら専属の庭師とか居るだろうけどその人でも無理なのか。


「必要要件に『高度な植物知識系スキルを持っていること』ってありますけど、僕の薬草学スキルは多分高度という程では無いですよ」

「そこは心配無用です。

 実は今までにも何名かにこの依頼をお願いしていたのですが、誰も問題の解決には至っていません。

 皆さんかなり高レベルのスキルを持っていたのですが。

 そこでもしかしたら植物知識だけでは足りないのではないかと話し合っていた所なのです」

「僕なら何か視えるかもしれない、と」

「はい」

「分かりました。ただ、現時点では解決できる保証が何もないので解決出来なかった場合のペナルティとかは無しになったりしませんか?」

「そちらは大丈夫です。元々本職でも分からない難問をお願いする訳ですからペナルティはありません。

 ただ王宮に出入りする関係上、解決の見込み無しと判断された場合は依頼は終了となります」


 王宮と言うからにはセキュリティとか厳しいのだろう。

 ばったり王族に出会って無礼討ちとかにならなければ良いけど。


「それでその、こちらの妖精獣なのですが」

「はい、名前はフランと言います」

「フランちゃんですか。さ、触らせて頂いても良いでしょうか」

「あーえっと、はい。背中とか撫でてあげると喜びますよ」

「やったっ」


 僕が許可を出すと恐る恐る手を伸ばしてフランを撫で始めるニットさん。

 その表情はすぐに幸せそうなものに変わって、って。

 他の職員さん達も集まって来て撫でたそうにしてる。

 ええっと、フランが嫌がらないようにしてあげてくださいね。



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