71.なぜか始まる
王都までの道中を一緒に行くことになった2人。
名前をチョコパイさんとアップルパイさんという。
「兄弟なんですか?」
「いやただの学友です」
「このゲーム始める前にちょっと議論しててな。
自分たちの主張を貫くためにこうなった」
「はぁ」
良くは分からないけど漢には譲れない一線がある的な?
自分で言っててもやっぱりよく分からないけど。
ただ僕の配信を観ている人たちにはそれとなく伝わったらしい。
『どのパイが好みかか。それは戦争になっても仕方ない』
『いやいや俺はどのパイでもOKだぜ』
などなど。
ちなみに二人には僕が生配信中であることは伝えてある。
「それでラキアさんはどんなパイが好きですか?」
「えっと?」
聞かれてもそもそも僕はそんなに色んなパイを食べたことが無い。
ケーキであればビターチョコかモンブランが好きだけど。
あ、先日食べたあれはパイの一種だっけ。
「洋なしのタルトとか美味しいですよね」
「「『あぁ~』」」
二人とついでに視聴者のコメントも口をそろえてため息が出た。
え、そんなにまずかった?
「なんかすみません」
「いやいや、気にしないでください」
「そもそも健全な青少年の生配信でする話じゃないし忘れてくれ」
結局よく分からなかったけど深く追求しなくて良いというのであればそうしよう。
それよりもモンスターのご登場だ。
さっきと同じく狼型のモンスターが3体。
「モンスターが来ますよ」
「俺達が戦います」
「ラキアは手を出さないでくれ」
そう言って武器を構えるアップルパイさんとチョコパイさん。
敬語で話すアップルパイさんは杖を構えてるので魔法職、チョコパイさんは2メートルを超える槍の先端に斧が付いてる曰くハルバードと呼ばれる武器を使う近接職だ。
前衛と後衛のペアだから相性はいい気がする。
でもなんか違和感があるんだよなぁ。
などと考えている間に戦闘開始。
先制はリーチの差からこちら側だ。
「おらぁ」
チョコパイさんの振り下ろしが先頭のモンスターを襲う。
しかしギリギリのところで横に跳ばれて避けられてしまった。
ハルバードはそのまま地面に突き刺さる。
ズガッ
(おぉ~地面が抉れた。凄い破壊力)
そして地面にぶつけた反動なのか、跳ね返るように避けたモンスターに向かってその横腹を殴りつけた。
でも最初の振り下ろしほど威力はないのか致命傷にはなってないな。
それでも体勢が崩れているので追撃は余裕で、よゆ、あれ?
「ふぅ」
いや、ふぅじゃないから。まだ倒せてないし他にも2体居るんだけど!?
僕の心の声が聞こえたのかアップルパイさんの魔法が炸裂する。
やっぱり詠唱というか多少の溜めが必要っぽい。
「『ファイヤーアロー5連』」
シュボッ
5本の炎の矢がチョコパイさんに迫る2体に向けて飛んでいく。
その速度は結構なもので狙いも悪くない。というか敵の動きに追尾してるのか。
さすが魔法。便利だなぁ。
でも当たり所が悪かったから2体とも倒しきれていない。
その頃になってようやくチョコパイさんが最初の1体にとどめを刺し終え、残る2体も何とか無傷で倒しきることに成功していた。
「お疲れ様です」
「3体程度なら余裕余裕!」
ねぎらいの言葉を掛けるとチョコパイさんがハルバードを頭の上でブォンと振り回しながら答える。
その姿をみてさっきの疑問の原因が分かった。
「あの、おふたりとも武装から考えて集団戦向き、ですよね。
さっきの10体とかも頑張れば勝てたんじゃないですか?」
「え、いや」
「それは無理だろ」
そうなんだろうか。
ハルバードはその重さと長さを活かして横に振り回せば集団相手に牽制が出来るし、その隙に後ろから魔法を撃ちまくれば行ける気がする。
あ、でも待てよ。やりたくても出来ない可能性もあるのか。
「もしかしてチョコパイさんの祝福って縦振りの1撃に特化してたりします?」
「特化?いや、そんなことはない。
というか特化出来るほどまだレベル高くないから」
「俺達まだ祝福レベル5です」
たしか祝福は10を超えてから特化が進むはずだから今はまだ進路選択中って感じか。
ここで僕が「こうしたらどう?」って提案するのは良くない?
彼らの望まない成長をさせてしまったら後々不幸にしてしまうかも。
でもまぁどうするかは結局彼ら次第か。
「もし良かったらですけど、おふたりが出来そうな集団戦のやり方、教えるって言うと烏滸がましいのですけど、僕なりの戦い方をお見せしましょうか?」
「良いんですか!?」
「ぜひ頼む!!」
僕の提案に食い気味に頷かれてしまった。
ならちょっと頑張ろう。
「あっ、初めてやる戦法なので失敗しても笑わないでくださいね」
念のため先に断っておく。
なにせ普段はハルバードみたいな長物は扱わないから、僕にも出来て彼らにも出来る戦い方っていうとちょっと工夫が要るのだ。
まずは短剣の柄にフランの糸を結んで、っと。
「これがチョコパイさんのハルバードのイメージです」
「お、おう」
短剣から2メートルほど伸びた糸の先端を持って右手で振り回す。
重さは無いけど、その分は回転速度でカバーだ。
「アップルパイさんの魔法の代わりがボウガンです」
「はい」
魔法と違って一度に5発とか打てないけど、連射すれば大丈夫でしょう。
「じゃあモンスターを集めますね」
「え、どうやって?」
「もちろんボウガンで」
言いながらボウガンを撃ちまくる。
狙いは前方。有効射程距離外のモンスターには1ダメージ当たったかどうかだけど、攻撃が当たれば彼らはこちらを敵とみなして襲い掛かってくる。
うーん、ちょっとばらけてるから密集するように先頭のモンスターの足元に矢を撃って牽制してっと。
「良い感じに集まってきましたね。
本来ならこのタイミングで魔法による遠距離攻撃で敵の勢いを削ぎます。
今回はそれやっちゃうと全滅させられるので無しで」
「は、はい」
「で、射程に入る直前でハルバードを敵の首か鼻先を狙って大きく振り回す」
ぎゃいん、ぎゃいん、ぎゃいん
「あっ」
思ったより糸が伸びて先頭3体の首を刎ね飛ばしてしまった。
ま、まぁ結果オーライということで。
「先頭の足が止まったら、後続も当然ブレーキが掛かります。
そこへ魔法で追撃。
更にハルバードで敵集団が1か所に集まるように側面から中心に向けて追撃。
最後の魔法で掃討。
こんな感じなら出来そうじゃないですか?」
「「……」」
1分と掛からず殲滅し終えて振り返れば返事が無い。
なぜか驚いた顔で固まってるんだけどどうして?
配信コメントも反応ないし。
あ、そうだ。こういう時に言うセリフがあったっけ。
「僕何かやっちゃいました?」
『『それな!』』
声を掛けてみたらやっと反応があった。
さすが有名セリフ。困った時は慣例に倣うのがいい。
『ツッコミどころは沢山あるんだけど、ラキアさんってレベル結構高い?』
「職業レベルは40超えてます。
なので楽勝に見えるのはレベルの影響が大きいからですね。
あとモンスターの相性。
ロックゴーレム相手だったらこうは行かないです」
凄いように見えたのかもしれないけど、所詮格下狩りなのでむしろここのモンスターに手こずるようでは問題がある。
本命はアップルパイさん達が同じことが出来ることなのだし。
「じゃあ今度はアップルパイさん達がやってみましょうか」
「分かりました」
「ダメだったらフォロー頼んます」
「はい。ではまずは5体から」
「「えっ」」
『聞きました奥さん。まずは、ですってよ』
『やっぱりこういう人ってぶっ飛んでて面白いですわぁ』
何か悪口言われているようだけど気にしない。
それよりさぁ構えた構えた。