69.のんびり配信スタート
ロックゴーレム狩りから数日。
今日は僕一人だ。
というのもフォニーもコロンもログインはしているのだけどそれぞれイベントを攻略中で手が離せないらしい。
何でも女神の祝福に関連したものなのだとか。
手が必要だったら呼んでねとは伝えてあるので呼ばれるまでは僕も自分の冒険をしていようと思う。
「ラキア様。王都観光に興味はありますか?」
いつものように冒険者ギルドでフェルトさんに相談したところそう質問された。
「王都ですか。そういえばまだ行ったことないですね」
「最近は国家事業として闘技場を建築していたり人の出入りは多くなっています。
人が集まれば珍しいものも見つかるかもしれません。
それに今後活動範囲を広げていくのであれば王都に足を踏み入れる必要は出てくるでしょう」
「確かに」
このゲームには1度行ったことのある街であれば高速で移動するファストトラベル機能が存在する。
利用にはそれなりのお金が必要なので使うのは急ぎの用事のある人とお偉いさん、そしてプレイヤーくらいらしい。
今後西側に行く際にいちいち馬を走らせるよりもその機能で王都に飛ぶ方が時短になる。
それに伝統ある街の侘び寂びを見て回るのも楽しそうだ。
ただその前に確認は大事。
「王都に行くのに何か条件みたいなものはあるんですか?」
「条件、ですか?」
「冒険者としてレベル幾つ以上にならないとだめとか、道中に強力なモンスターが待ち構えているとか」
「いえ、そういったことはありません」
無いのか。
ゲームによっては次のマップに進むためにはエリアボスを倒さなければいけなかったりするけど、このゲームはそうじゃないらしい。
「ちなみに他の冒険者の人ってレベル幾つくらいで王都に向かうんですか?」
「そうですね。レベル3で王都に向かったという方もいらっしゃいましたが、大体は15を過ぎた辺りから王都に行かれる方が増える傾向にあります。
王都近郊のモンスターの強さもそれくらいですから」
レベル3って。それ多分1度外で動きを確認しただけだよね。
それですぐに王都に向かうって凄いな。
ちなみに僕の今の職業レベルは41だからかなりのんびりしてる方と言えるだろう。
まぁ誰かと競っている訳ではないのでマイペースで問題ない。
「じゃあ今からちょっと王都に行ってきますね」
「はい、お気を付けて」
フェルトさんに見送られながら冒険者ギルドを後にする。
王都かぁ。やっぱり大きいんだろうなぁ
多分見て回るだけでも相当時間が掛かるから今週1週間は滞在することを見込んでおこう。
戻ってこようと思えば一瞬で戻って来れるとは言ってもいちおう忘れ物は無いようにしないと。
お世話になった人達にも一言挨拶して。
やり残したこととかも……あ、そうだ。
「配信。すっかり忘れてた」
以前お姉ちゃんから活動風景を配信してほしいって頼まれて準備は進めてたのに忘れてた。
何で忘れたんだっけ。ってそうか。
ミッチャーさんにアドバイス貰った後、【電光石火】のアジトに連れていかれてそれっきりだった。
だいぶ遅くなってしまったけど、始めるには丁度いいタイミング。
記念すべき第1回生配信は王都への移動風景にしよう。
その為にはまず開始場面を考えねば。
突然街の中からスタートじゃ納まりが悪いもんね。
という事でやってきました薬草園。
僕の活動拠点って言ったらやっぱりここでしょう。
幸いここに近付く人ってまず居ないし落ち着いて操作が出来る。
「ここをこうして、これで10秒後に配信スタート、と」
僕の視界の端にカウントダウンが表示される。
カメラアングルはオート。基本的には僕の後ろやや上空から僕の視線に合わせて周囲を映してくれる。
なので僕は何も意識する必要は無い。
強いて言えば独り言とかが拾われてしまうので変なことを言わないようにしないと。
あ、最初は挨拶するから薬草園を背景に僕の顔が映るようにして、と。
3、2、1……
「えっと、ラキアです。って、あれ?
冒頭のあいさつって何を言えばいいんだっけ。
みなさんこんにちは、と言っても観る人殆ど居ないだろうし」
しまった。いざ配信しようと思ったら全然頭が回らない。
ミッチャーさんとかどうしてたっけ。
あ、カンペが表示された。『まずはどのような配信なのかの説明をすると良いです』か。
なるほどなるほど。
「この配信では僕の活動風景をそのまま流していきます。
主な目的は家族に僕が楽しんでる姿を伝えることなので、多分一般の方は観てても面白い事は無いと思います。
攻略配信とかスーパープレイを期待してる方は別の配信に移動してください」
よし、これで観た人から「期待外れだった」って言われることは無いだろう。
現在の視聴者数はもちろん0だけど。
お姉ちゃんも今は仕事中だろうし、視聴者数が増えることは無いと思う。
あ、そうだ。
今言ったことを配信の概要蘭にも転記しておこう。
続いて『今日の予定を伝えましょう』だって。
「今日はこれから王都に向かいます。
実はこのゲームを始めて1月以上経ってるんですけど未だに王都に行ったことが無くて。
ここは最初の街の近くにある薬草園です」
言いながらカメラを薬草園の方に向ける。
するとカメラに映ってるのが分かるのか芋虫さん達が頭を振ったり飛び跳ねたりしてる。
と、ここでまさかの視聴者数が1に増えた。
「あ、初視聴者さんだ。こんにちは。
この配信は僕の活動風景を流してるだけなので、面白いことはないかもなのでご注意ください」
『……』
「ただ折角来てくれたので小ネタを1つ紹介しますね。
ここ最初の街の近くにある通称『新人殺しの薬草園』ですが、中に入らず手前で果物を差し出すと、代わりに薬草が貰えます」
言いながら実演してみせる。
僕が果物盛合せを右手で差し出すと左手の上に薬草の束がドン。
芋虫さん達がせっせと置いてくれたんだけど、僕以外の人には突然薬草が出てきたように見えただろう。
視聴者さんからの反応は、なし。
まぁコメントが欲しかった訳じゃないから別に気にしない。
「じゃあ行ってきます」
(くすくすくす)
芋虫さん達に挨拶して出発。
っと、しまった。観てる人には何のことだか分からないか。
でも視えない人に芋虫さん達の事を話すのも良くないよな。
「僕はちょいちょい独り言を言うので気にしないでください」
という事にしよう。
王都までの道のりは、早々問題が起きることはないので平和なものだ。
あの視聴者さんはすぐに飽きて居なくなるかなと思ったけどそうでもなかった。
暇なのか、それとも環境音として流してる人なのか。
道中は適当に近くのモンスターをボウガンで狩りながら移動してるんだけどレベル差があるお陰か近づかれる前に倒しきれている。
「って、えっ!?」
見たことのないキノコがあったので採取して顔を上げたら視聴者数が12人に増えてた。
世の中奇特な人もいるものだ。と言ったら失礼かな。
でも今のところ特に面白いこともやってないし、派手なスキルも使ってないから見応え無いと思うんだけど。




