68.巨大ゴーレムの倒し方
僕とコロンとフォニーの3人によるロックゴーレム狩りは苛烈を極めていた。
「ラキア、追加をもっと早く」
「ラキア君、まだまだいけますよ」
「腰の回転を足に伝えるのよ」
「矢の装填はフランちゃんに任せちゃってください」
(ひぃ~~~)
フォニーが加わっただけでモンスターの殲滅速度が倍増していた。
それというのもコロンのカウンターで生き残ったモンスターを全部フォニーが処理しているから。
まるで餅つきのようにコロンが「ぺっ!」と弾き飛ばしてフォニーが「たん!」と粉砕する。
実際の衝撃音はそんな可愛いものじゃないんだけど。
僕と2人の時とは違ってコロンも無理に必殺を狙う必要が無い分、流れるように連続カウンターを決めている。
その結果、釣り役の僕の手が間に合わない事態に陥っているのだ。
(くすくすくす)
「フランもサポートありがとう」
猫の手ならぬフランの糸のお陰でボウガンの矢が半自動装填になったから何とかなっているものの。
やっぱり僕の足さばきが素人なので360度カバーするのはちょっと厳しい。
もういっそ後ろとか振り返らずに撃ってみる?
核を狙う必要もないし体のどこかに当たれば良いだけだから適当でも良いかもしれない。
(おぉ意外とよく当たる)
試しに音と振動を頼りに撃ってみたけどちゃんと当たった。
でも足さばきも練習したいので今まで通り時計回りに体を回しながら、なおかつ前後左右全方位のモンスター目掛けて矢を撃ちまくる。
そうして数百どころか1000を超えてゴーレムを倒したんじゃないかというくらいでそれは現れた。
「大型のクレーン車?」
「いえ、アームが2本あるクレーン車は聞いたことが無いです」
トラックを横に2台並べたような足の上に胴体を挟んで伸びる2本のアーム。
若干カマキリっぽい?
腕には鎌の代わりに鉄球とショベルがくっ付いてるけど。
これまでのゴーレムもアームっぽいのが1本生えてたけどここまで攻撃的ではなかった。
その巨大モンスター(ボスかな)を見てコロンがにぃっと笑った。
「やっと出て来たわね」
おっ。ということは元々この巨大モンスターが目当てで来てたのか。
確かにこの巨大さといい、盾で殴り壊すのはなかなかにやり応えがありそうだ。
もしかしたらコロンの祝福に関連したクエストなのかも。
「ラキア、フォニー。悪いけどサポートお願い」
「了解」
「はい」
「まずは足を止めるわ」
気合を入れて盾を構えつつ突撃するコロン。
ってまさかあの巨体に対しても今までと同じようにカウンターを決めるつもり!?
「『シールドカウン』きゃああっ!」
「あぁもう」
衝突した瞬間、逆に吹き飛ばされるコロン。
慌てて落下地点に走りこんでキャッチ出来たから良かったものの、一歩間違えばこれだけでコロンは死に戻ってたかもしれない。
「無茶し過ぎ」
「ごめんなさい。でも見て。ちゃんと止めたわよ」
視線の先では巨大ボスがコロンと衝突した位置で停止していた。
あの質量が一瞬で止まったのだからものすごいエネルギーが発生したのにコロンもボスも目に見える傷が無いんだから凄い。
僕だったら壁のシミになる未来しかない。
「これからどうやって、って、考えてる暇はないか」
「右の鉄球は任せて」
「じゃあ私は左を担当します」
ボスが2本のアームを振り回して攻撃してくるのをコロンは盾で受け、フォニーは2メートル超のスティックで弾き返している。
残った僕はどうしよう。
ボウガンを撃っても当然かすり傷しか付かないし、短剣を刺しても「蚊でも居たかな」とか言われそう。
他に出来そうなことは……って、背中からミサイル!?
土魔法による攻撃なんだろうけど、見た目はミサイルだ。
あんなのが正面からアームの攻撃を受け止めてるコロン達に側面から当たると危険だ。
「飛行物ならボウガンでも撃ち落せるかも」
速度はそれ程でもないので落ち着いて狙えば、よし当たった!
ボウガンの矢が当たったミサイルはあっさりと爆散するので威力も十分。
多分本来なら目標に衝突したところで爆発する仕組みだったのだろう。
これで無事にボスの攻撃をすべて防ぐことに成功した。
けどこちらからボスに攻撃を与える手段が足りない。
昨日の3人組が居たら手伝って貰えそうだけど、そう都合よく居るはずもない。
悩む僕に力強くコロンが言ってきた。
「大丈夫よラキア。勝ち目ならあるから」
「え、どうするの?」
「こうするの、よ!」
ふんっ!
叩くというより押す感じでコロンがボスの鉄球を吹き飛ばした。
鉄球は振り子運動によって弧を描きボスの胴体に叩きつけられる。
ゴスッ
(おぉ痛そう~)
ゴーレムに痛覚があるのかは横に置いといて、ぶつかった場所はしっかりと凹んでるしダメージは入ってそうだ。
でも流石に自分の武器でやられるボスっていうのはあまりいないと思う。
出来たとしても何度もやる必要があるだろう。
「『跳躍』」
ボスが一瞬ひるんだ隙を逃さずフォニーが棒高跳びの要領で大ジャンプをしていた。
それを迎え撃つようにボスの左アームが迫るが。
「『爆散』。できたっ!」
「おぉ」
フォニーの大上段からの1撃がボスの左アームを文字通り爆散させていた。
それはこれまでの音を伴う打撃とは一線を画す破壊力だった。
もしかして音声を攻撃に転用したのかな。
今までそうしているところを見たことが無かったので、もしかしたら新技かも。
ちょっと見ない間にフォニーも成長しているらしい。
なら僕らも負けていられない。
「フラン、あれでコロンを飛ばせないかな」
(くすくす?)
「ほらあの崖で僕を助けてくれた奴」
(!!)
僕の言葉を理解したフランがコロンの肩に飛び乗った。
そして腰と肩を結ぶように糸を巻き付けた後、ボスの右アームの支柱にも糸を飛ばした。
「ちょっなになに!? ラキア説明!」
「さっきの鉄球の代わりにコロンが突撃する感じ。
狙う先はボウガンで示すから」
「そういうことは一言相談しなさ~~ぃぃぃ」
糸にひかれてぎゅいぃんと飛び上がっていくコロンを見送って僕は意識を集中する。
狙うはボスの核。それも極力装甲の薄い場所を狙わないと。
「…………そこだ。フォニー!」
「うん」
ピィィーーーッ
僕の放った矢に合わせてフォニーもホイッスルで追撃を加える。
よし、少しだけど装甲が剥がれた。
あとはそこにコロンが突撃すれば。
「『シールドストライク』」
高速回転する空中ブランコのように空を飛ぶコロン。
それはもう盾というより巨大な槍となってボスの体内深くまで突き刺さっていた。
貫通までに至らなかったのはボスの巨体故であろう。
「『シールドバッシュ』『シールドパンチ』『シールドショック』」
穴の中から何度も衝突音が響き渡った。
「あぁもう、覚えておきなさいよラキア!」
ボロボロと崩れ出すボスから抜け出しながらコロンが悪態をつく。
でもそんなことを言いながら無傷なのだから凄い。
対するボスは今のが決め手になったらしくそのまま光になって消えていった。
「おつかれ~」
「無事に勝てましたね」
「それは良いけど、ラキアは女性の扱いをもっと学ぶべきね」
「ごめんごめん」
集合して健闘をたたえ合うもコロンはご不満のようだ。
でも今回の場合、他に選択肢が無かったんだから仕方ないと思う。
コロンの代わりに僕が行っても致命打には至らなかっただろうし。
じゃあフォニーならってなると結局女の子なので一緒。
それに今回の主役はコロンなので他に男性が居たとしてもコロン以外ありえなかったと思う。
ともかく結果良ければすべてよし。
犠牲も出ずにボスに勝てたんだから良かったでしょう。
余談ですが2本腕のクレーン車は存在するそうです。




