66.こちらの方がワルだったらしい
対する彼らは、鑑定眼を妨害した僕の方に興味を抱いたらしい。
いや男に興味を持たれても嬉しくないけど。
「そっちの彼は何者だ?
うちのアイデンのスキルを、レジストするならともかく妨害するとは普通じゃないだろう」
「え、いや。そんなあからさまな視線を向けられたら誰だって分かるでしょ」
僕から見たらまさに熱視線をコロンの主に胸のあたりに照射しようとしてたので丸わかりだった。
リアルだったらセクハラで訴えられるレベルだ。
(その視線は私も気づいてた)
コロンもボソッと頷く。
女性はそういう視線に敏感だって言うし分かるよね。
あ、だから最初から交渉する気が無かったのかも。
「ともかく僕らはそちらと手を組む気はない」
「そうか。じゃあ勝負をしないか?」
「「勝負?」」
また変な方向に話が移ったな。
でも話も聞かずに断ったらしつこく食い下がってきそうだ。
なので仕方なく続きを聞くことにした。
「俺達も王都のクエストを受けてここに来たんだ。
はっきり言って俺達のスキルとここのモンスターは相性が良いからな。
だけどただ討伐してたのでは詰まらないだろう。
そこでどちらのパーティーがより早く納品素材を集められるかを勝負しようという話だ」
なるほど、悪くない話だ。
退屈な宿題を楽しく終わらせるには誰かと競争すればいい。
賭けの内容さえ納得いくものなら受けても良いかもしれない。
それに。
(コロン、これ)
(……あぁ。ラキアも悪い事考えるわね)
僕の見せた数字を見てコロンは頷いた。
「勝負ってことは何か賭けるのかしら」
「そうだな。勝った方が負けた方の納品素材をもらい受けるってのでどうだ」
「……良いわ。その勝負受けましょう。
ただモンスターを奪い合っても仕方ないしお互いに少し離れて行動しましょう」
「よし。じゃあ俺達はあっちの方で狩りをするとしよう」
そう言って3人組は離れていった。
その後ろ姿を見送り、100メートルくらい離れた所でこっちに手を振って来たので振り返す。
今から勝負スタートってことだろう。
「そんなに悪い人たちじゃなかったのかもね」
「そうかもしれないわね」
ただちょっと男の欲望に忠実で礼儀が欠けていただけで。
いやそれだけ欠点があれば十分?
でもそれを言ったら僕だって完全な善人って訳じゃない。
「さて、納品分の素材。もう十分手元にあるんだけどどうしよう」
そう。実は既にギルドから依頼されてた量は集め終わっているんだ。
気にせず狩りを継続してたのはコロンの修業の為であって今すぐ「納品物集まったので僕たちの勝ち」って言っても良かったりする。
もし彼らが僕らを騙そうとしてたのなら実行しようと思ってたけど、今のところは真面目に戦っているからこれは無しかな。
などと悪だくみを封印しつつ彼らの戦いをもうちょっと観察してみた。
「有効射程は5メートルってところかな」
「破壊魔法と重力魔法? 睨みつけただけでモンスターを叩き伏せて爆散させられるのは凄いわね」
「あれ自分たちは眩しくないのかな」
「眩しい?」
「いやほら、目からビーム放ってる訳だし」
「え?」
「ん?」
僕とコロンで話がかみ合ってないのを見て、どうやらまた見えているものに差がある事に気付いた。
僕にはさっきの鑑定眼もそうだけど目からビームを飛ばしているように見えていた。
対してコロンにはそのビームが見えていないらしい。
「彼らの放つビームが見えてたのは分かったけど、それって手で払い除けられるものなの?」
「うん、出来てたよ?」
多分見えているものは触れたり出来るんだと思う。
でもさっきのあれが鑑定眼じゃなくてモンスターを爆散させてる奴だったら僕の手が爆散してたのか?
もう少し警戒した方が良かったな。
「……まぁラキアだし良いけど。それより私達も討伐を再開しましょう」
「オッケー。彼らがフェアプレイをする限りはこっちも普通に頑張ろう」
とはいっても向こうは3人こっちは2人。
しかも向こうは釣り役が居ないのかと思えば例の鑑定眼がその代わりを果たしているらしい。
射程にして30メートルくらい?
なので僕のボウガンの方が有利なんだけど、結局1体の討伐速度は向こうの方が上だ。
このままだと勝負に負ける未来が待っているので何か対策を練らないと。
一番早いのは僕のボウガンでそのまま倒せたら良いんだけど、表面の岩が貫通出来ないのでその奥にある核まで攻撃が届かないんだよな。
核を砕くだけならボウガンでも十分だと思うんだけど。
などと考えながら矢を放って短剣に持ち替えて攻撃してと目まぐるしく立ち回る。
「ラキア、あれ」
「え?」
何かに気付いたコロンがこっちに走ってくるモンスターを指差した。
そのモンスターにはなぜか僕が放った矢が深々と刺さっていたのだ。
一体なぜ?
もしかしたらレベルが上がって新しいスキルでも覚えたのかと思ったけど、そうでは無かった。
じゃあ当たった場所や角度の問題?
表面に対して垂直に当たることで威力を最大限伝えられたのかとか関節部に当たったのかとも考えたけどどちらも違った。
むしろ凄く斜めに刺さってるし関節でも何でもない。
(いや斜め過ぎでは?)
いくらダメージ度外視の釣りとは言っても僕はしっかりと狙って撃っている。
あれではまるで狙ったのとは別のモンスターに偶然当たってしまったような感じだ。
でも周囲のモンスターの位置は全て把握してるのでそんなことが起きるはずがない。
……と言いたい所だけど実際に起きてるし。
(何か見落としが……あっ)
「コロン。モンスターってどうやって現れるんだろう」
「え、さぁ」
僕たちは既に数十体のモンスターを倒している。
にも拘らず付近のモンスターは全然減っていない。
だけど別に遠くからこっちに集まってきているって訳でもない。
じゃあどこからどうやって現れるのか。
正解は何もない所に魔力の靄っぽいのが集束して核が出来てモンスターになる、だ。
そのタイミングでその場に矢があったらどうなる?
「コロン、ちょっと試したいことがあるからここは任せていい?」
「大丈夫よ」
集めたモンスターの討伐をコロンに任せつつ、僕は意識を集中させる。
靄が集まってからモンスターが現れるまで僅か数秒。
フィールド全体を見続けるのは大変だから当たりを付けよう。
モンスターが現れるとしたら多分それなりに空いている場所だと思う。
連続して同じ場所に出てくるとも思えないし……
「……そこっ」
パシッ
よし、予想通り。
僕が放った矢はモンスターの体の中に埋まった。
やっぱりモンスター発生のタイミングで埋まるように攻撃すると装甲の堅さとか関係なく刺さる。
じゃあ次だ。
「ここ。あ、行き過ぎた。やっぱりタイミングシビアだな」
結構チートな攻撃方法かなとは思うけど、体内に矢を埋め込んだだけじゃモンスターは倒せない。
倒せるとしたら心臓部の核に矢を重ねないといけないんだけど、1秒に満たない受付時間で拳大の核に数十メートル離れた位置から時速100キロを超えるボウガンの矢を当てろって、どんな曲芸だろう。
せめて目標の場所で矢が止まってくれたら……あ。
シュッ、パリンッ
「よしっ、出来た!」
おじいさんの改良によってフランの糸が付いた矢は見事目的の場所で止まってくれて、発生したモンスターを即座に討伐してみせた。
これ絶対後で修正入るよなぁとは思うけど今は出来るのだからやらせてもらおう。
それに成功率はそんなに高くない。
良くて1割。
ただ外したとしても核から外れただけで矢そのものはモンスターの体に埋まった状態。
「『シールドバンカー』」
そこにコロンの盾が叩き込まれると大ダメージになって討伐に繋がる。
これでかなり討伐速度も上げられただろう。




