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62.コロンからのお誘い

 2時間ほど学習ソフトで各国の挨拶を読んで書いてを繰り返した。

 後で調べてみると設定項目の奥の奥にどの言語を学ぶか、文法を学ぶか、日常会話を学ぶかなどを設定出来た。

 うーん、どうしてこういう設定項目ってこう複雑で分かりにくいんだろう。

 デフォルトでは在住の国に関係のある言語を厳選して学べるようになっていた。


(……あれで厳選されてたのか)


 ひとまず次回からは日本語と英語だけにしておいた。

 他の言語はその2つをマスターしてからにしよう。

 そうして若干疲れた頭を引き摺って究極幻想譚にログイン。


(やっぱり凄いな)


 改めて視界のクリアさに驚く。

 さっきまでもVR空間に居て視力は得ていたんだけど、見え方がまるで違う。

 例えるなら学習ソフトの方はドット画というかそう、絵だった。

 対してこっちは空間そのものが広がっている感じ。

 まぁ学習ソフトに見た目のクオリティを求めるのはお門違いか。

 それより今日から何をしようかな。

 今日は兎も角、明日からは放課後にしかログインできなくなるので活動時間はぐっと減る。

 なので長時間拘束されるクエストはあまり受けられないだろう。

 野営しながら数日掛けて旅をしてみるっていうのもありかもしれない。

 行き先の候補はフェルトさんに聞いてみれば良いし。


「あ~でも今はひとまずのんびりしよう」


 思ったよりも学習ソフトで頭を使ったらしく、ちょっと重い気がする。

 こういう時はあれだ。

 縁側でのんびりお茶を飲む。


「こんにちは、おばあさん」

「おやいらっしゃい」


 今日も今日とて縁側でのんびりしているおばあさんの所にやって来た。

 そしてどこからともなく用意されたお茶を頂きまったりする。


(くすくすくす)


 フランに「ラキアもおじいちゃんみたい」って言われてしまった。

 その声を聞いておばあさんもにっこり。


「そちらの子には飴ちゃんがいいかねぇ」

(くすくす)


 差し出された飴に飛びつく様子は芋虫というより猫っぽい。

 僕とおばあさんの間で丸まってペロペロと飴を舐めている。

 その背中をゆっくり撫でてあげれば完全脱力モードだ。

 そうしてのんびりしてると奥からおじいさんもやって来た。


「おっ、小僧来てたのか」

「お邪魔してます」

「うむ」


 特に何をするでもなくおばあさんの隣に腰掛けてお茶をすする。

 実に平和な午後のひと時だ。


「作ってやったボウガンはどうだ」

「はい、これのお陰でだいぶ助かってます」

「どれちょっと見せてみろ」


 ふと思い出したように言うおじいさんにボウガンを渡す。

 受け取った瞬間、おじいさんは職人の顔になった。

 そしてじっとボウガンを眺め、僕を見てニヤリと笑った。


「ちゃんと使い込んでいるようだな。

 おいそこの丸いの。ちょっと手を貸せ」

(くすくす?)


 丸いのってフランのことか。

 呼ばれたフランはえっしょえっしょとおじいさんの隣に歩いていき、おじいさんの「ここだ、分かるな?」という横で聞いててもさっぱりな説明に頷いて、口から糸を吐いてボウガンをぐるぐる巻きにしていった。

 いったい何をしてるんだろうとは思ったけど口出しはしない。

 おじいさんはその道のプロだし、これも何か意味があるのだろう。

 続いてかぎ針の様なものを取り出したおじいさんは糸を引っ張ったり伸ばしたりしたかと思えば。


ピカッ

「わっ」


 急にボウガン全体が光った。

 その光が収まって出てきたのは唐草模様のボウガン。


(いやさっきの加工で模様が変わる要素無かったじゃん)


 と心の中でツッコむ。まぁこういうのはゲームだからで納得するしかない。


「ほれ、今できる加工はこれくらいだ」

「ありがとうございます」


 受け取ったボウガンは模様以外は変化は無いように見える。

 試しに矢を番えて見ると……矢の後ろに糸が付いてる。この糸はフランの糸かな?

 照準器で向こうの的を狙って打てば矢に繋がった糸が伸びていく。


(これってもしかして……曲がれ!)


 僕の意識が伝わって矢の弾道が曲線を描く。

 さらにグッと力を入れれば矢は的の周りをクルクルッと回って糸が的を縛ってしまった。

 これは凄い。

 ただまっすぐ撃ち抜くだけだったボウガンに搦め手が加わることで様々な応用が出来る。

 これなら簡単に防がれることも無いだろう。

 今後はモンスターも更に強くなっていくだろうし凄く助かる。

 でも実戦テストはまた後で。

 今日の所はまったりだ。

 ずずーっとお茶を飲んで虫たちの「くすくす」っていう鳴き声を聞きながら、というかこの世界の虫はみんな「くすくす」鳴くのかな?

 流石に蜂の羽音は「くすくす」じゃなかったけど。

 のんびりとしてたらコロンから連絡がきた。


『ラキア、今日って時間ある?』

『コロン? うん、大丈夫だけど』


 どうやらクエストを手伝ってほしいらしい。

 詳しい話はギルドでということなので、おばあさん達にお礼を言ってギルドへと向かった。

 ギルドでは既にコロンが待っていて、僕の姿を見つけるとこっちだと手招きしていた。


「急に呼んで悪かったわね」

「ううん。むしろ誘ってくれてありがとう」


 挨拶をしたところでコロンの目が僕の肩へと向けられた。

 そこに居るのは飴を食べて元気いっぱいのフラン。

 芋虫を連れ歩いている人は見たことないから珍しいよね。


「それぬいぐるみじゃ、無いのよね?」

「うん。先日お友達になった芋虫のフラン。

 フラン、こちらコロンだよ」

(くすくすくす)

「あ~うん。ラキアが変なのは最初からか」


 納得してくれたのは嬉しいんだけど、何気に酷いこと言われてる?

 まぁ良いんだけど。

 少なくともフランを見て毛嫌いしてないみたいなので安心した。


「それでクエストの手伝いをして欲しいって話だったけど」

「ええ。王都南部でロックゴーレムを討伐して石材を大量に手に入れたいの」

「石材を?」


 それって前に聞いた禊クエストじゃなかったっけ?

 コロンは禊をする必要は無いはずだから、もしかしてボランティアかな。

 そう思ってしまったけど違った。


「知っての通り、元々は禊クエストとして発行されてたんだけど、どうやらある程度その禊が終わったみたいなの。

 加えてみんなこのクエストに飽きてしまったみたいで報酬額が通常通りに戻っても受ける人が少ないのが現状よ。

 人気が無いのはゴーレムは動きが単調で配信映えしないのも原因ね」


 ロックゴーレムはその名の通り岩のモンスターだし、見た目に華やかさも無ければ機敏に動いたりもしないので、攻略法は鈍器で殴って壊すか魔法で核を破壊するだけ。

 そんなのを好き好んで倒すのは討伐タイムを競うRTAの方々くらいじゃないかな。

 え、じゃあ何でコロンはそのクエストを受けようと思ったんだろう。



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