60.村の真相
無事にリザードマンの討伐を終え、見たかった景色も見れて大満足の僕達。
いやぁ朝日できらめく沢は本当に綺麗でした。
ここまで来て頑張った甲斐があったってものだね。
イールさんが間に合わなかったのは残念だったけど。
また討伐報酬としてこの山で取れる薬草ももらえたのでギルドからの依頼も無事に達成だ。
さて。あとは帰るだけなんだけど、その前に。
「あの村長さん。
もし良かったらなんですけど、彼女の居ない独身男性にこの村を紹介しませんかと冒険者ギルドへ提案してみましょうか?」
「それは、はい。ありがたいのですけど。
……え、もしかして私達の正体に気付いておられるのですか?」
「正体というか、女性だけの種族なんだろうなってのは見てて思いました」
どういうことかというと、こことふもとの村はどちらも男性は人間、女性は手足に鱗があって尻尾も生えてる亜人だったのだ。
子供たちが全員女性だったことから考えて亜人の女性からは亜人の女の子しか生まれてこないのだろう。
じゃあ男性はどこからやって来たのか。
その答えが冒険者だ。
恐らく薬草などを求めてこの地にやって来た男性冒険者を誘惑して村に引き留めてるのだろう。
仲間の冒険者が街のギルドに戻った際に「あいつはモンスターにやられた」と報告すれば騒ぎになることもない。
唯一気がかりだったのは男性が強引にここに捕らわれているのではないかという事だったけど、みんな幸せそうな顔をしてるし大丈夫だろう。
「ちなみに正体ってことはどうにかして隠してたって事ですよね。
フォニーにはどう見えてるのかな」
「私の目には人と変わらない姿に見えてます。
ただ多少違和感はありましたね。
男性は靴を履いてるのに女性は履いてなかったりしますし」
言われてれば確かに。
ここの地面は石はゴロゴロしてるし決して柔らかくないから裸足だと痛いと思うのだけど女性は気にせず歩いている。
それは足首から下が鱗で覆われているからなんだけど、人の足に見えてたとするならそれは違和感を覚える。
村長が女性であることから男尊女卑ってことはないだろうし。
そういう細かな服装の違いに気付けるのは女性ならではって話かもだけど。
「イールさんはどこで気付いたんですか?」
「俺は初対面の時の相手の反応だな。
普通腕の代わりに翼が生えてる人間を見たら驚くだろ?
でも当たり前のように応対されたから、これは何かあるなと思ってた」
なるほど。
イールさんの姿はレアなケースだろうけど、だからこそリアクションを取らないと違和感になるのか。
村長さんもそれを聞いて「参考になります」と頷いていた。
よし、これでこの村での用事は全部終わりだな。
「じゃあ皆さん、お元気で」
「お世話になりました」
「「お兄ちゃん、大人になったらまた来てね~」」
みんなに見送られながら僕らは山を下りた。
ついでなのでふもとの村にも立ち寄ることにしたんだけど、何か忘れてるような?
「あ、カッタギさんを置き去りにしてきちゃった?」
「そのことなら大丈夫です。
あの人は昨夜かなり夜更かししていたそうで、お昼にならないと起きてこないだろうって言ってました」
「ま、頻繁にここと向こうを行き来してるみたいだし心配はいらないだろ」
ふもとの村と山の村は親子みたいな関係で、歳を取って山での生活が難しくなった人がふもとに降りて野菜を育てつつやって来た男性冒険者に山を紹介しているらしい。
「昔は私も色んな冒険者を虜にしてたのよ」
とは食堂の女将さんの言葉だ。
若い頃はさぞ美人だったのだろう。
今は貫禄のある姿だけど。
ふもとの村を出れば後は街に帰るだけ。
クエストの期限も決まっていないし適当に寄り道しながら帰るのも良いかもしれない。
などと考えていたらイールさんが一歩前に出た。
「さてと。じゃあ俺は王都に報告に戻らないといけないんでこの辺で失礼するぜ」
「分かりました。今回は一緒に冒険が出来て良かったです」
「おう、俺も中々に楽しめたぜ。
来週からは仕事もあるしIN率は下がると思うが時間が合えばまた一緒にやろう」
「はい。僕らも夏休みが終わるので似たような感じです」
「夏休みかぁ。懐かしい響きだな」
「あはは」
イールさんが何歳かは分からないけど、社会人になると夏休みというかお盆休みは1週間あるかどうかって話だし、学生みたく1か月近く休みを貰えることなんてほぼ無いのだろう。
その貴重な夏休みを今年はほぼゲームにつぎ込んでしまった訳だけど、後悔はしていない。
むしろこのゲームが無かったら家でのんびり過ごすだけだったと思うから今の方が充実してたと言える。
「うし。じゃあな!」
イールさんはバッと羽ばたいて飛び上がるとそのまま西の空に飛んで行ってしまった。
やっぱり馬とは比べ物にならないくらい速い。
「馬でのんびり走るのも良いけど、ああやって凄い速度で空を飛んで移動出来るのも良いよね」
「そうですねぇ」
かっぽかっぽと馬の足音を聞きながらのんびりとした移動。
しばらく進んだ所で思い出したようにフォニーが聞いてきた。
「ちょっと思ったんですけど」
「うん」
「村の女性は亜人、それも鱗とか尻尾とかがあったんですよね。
もしかして私達が撃退したリザードマンと近い種族だったんじゃないでしょうか」
「あぁそれ。うん、そうだったのかもしれない」
それは僕もリザードマンの姿を見た時に思った。
もしかしたらその昔、リザードマンの男女で喧嘩して袂を分かった女性側が作ったのがあの村だったのかもしれない。
だから僕たちは彼らの民族紛争に巻き込まれた可能性がある。
でもそれでも良いと思う。
「もしかしたらリザードマン達と話をしたら仲良くなれた可能性はあるけど、その場合はあの村の人達とは敵対することになるだろうし。
わざわざ今良好な関係を築けてる人達と敵対してまでリザードマン達と対話をする必要はないかなって思ったんだ」
仮にもし村の男性が奴隷のような扱いをされていたり、僕らへの対応が邪険なものだったら別の結論に至っていたかもしれないけどね。
それとリザードマン達と仲良くなったら今は無い素材や技術を得られるかもしれないけど、全部もしも話でしかない。
もしかしたら僕らのせいで今後人間とリザードマンとの関係が悪化して全面戦争が起きるかもしれないし、逆に僕らが撃退したお陰でリザードマンの勢力が拡大せずに戦争が起きないかもしれない。
「僕らは神様ではないし今良かれと思ったことをするしかないよ」
「まぁそうですね」
世の中なるようになれ、だ。
そして僕らが最初の街に戻ってフェルトさんにあれこれ報告した結果、あの村へ向かう男性冒険者が増えてしまったのだけど、それがこの世界にとって良いことだったのかどうかも分からない。
もしかしたら来年の今頃はあそこは村じゃなく立派な街になってるかも。




