54.意外な繋がり
まずはふもとの村に行ってみようという事で出発した僕達。
僕とフォニーは馬に乗っての移動だけど、イールさんは自前の翼で僕らの目線と同じくらいの高さで飛んで移動している。
ただその飛ぶ姿が何というか違和感だ。
「飛んでる最中って羽ばたかなくて良いの?」
「おう。普通に移動する程度の速度で飛ぶだけなら翼を広げてるだけでホバリング出来るぞ。
後は足を縦にすれば止まって水平に持ち上げれば前に進む。
便利だろ?」
「便利だけど重力を無視しすぎだと思う」
イールさん1人だけ無重力空間を漂ってるんじゃないかと錯覚してしまう。
僕は時々空を飛んでる夢を見ることがあるけど、そんな感じの無重力感。まぁ夢の場合は目覚めが近づくと浮力を失って飛べなくなるんだけど。
まあそれはいいや。
「でも羽ばたく必要が無いなら背中にくっつけるでも良かったんじゃない?」
「いや流石に加速する時とか高く飛ぶ時には羽ばたく必要がある。
それに翼は俺の剣であり槍でもあるからな。
論より証拠。ちょっと見ててくれ」
言うが早いかイールさんは翼を大きく羽ばたかせて5メートルくらい飛び上がると前方に居たモンスター目掛けて突撃していった。
ただ正面からぶつかるのではなく横を通り過ぎる感じ?
あれだと翼の先が掠りもしないと思うんだけど。
そんな心配は杞憂だとイールさんは加速していく。
シュパッ!
すれ違い様の一瞬、翼から風の刃が伸びて先頭のモンスターの首を切り飛ばした。
続く2体目はガードされて致命傷には至らず。
怒ったモンスターはしきりにイールさんに反撃をしようとするけど周囲を飛び回るイールさんにまるで追い付いていない。
「はっ」
バサッ
モンスターの背中を捉えたところで翼を翻すと今度は風が槍になってモンスターの胸を貫いた。
まさに一方的な戦い。
この辺りのモンスターはレベル40くらいありそうなのに。
ゆったりと流れるように飛んで戻ってくるイールさんを僕らは拍手で迎えた。
「イールさん強いんですね。凄く格好良かったです」
「ははは、もっと褒めてくれていいぞ。
自由に飛べる空があれば俺は無敵なのだ」
自慢げに語るイールさん。
だけどあれ?
「もしかして、屋内戦とか苦手ですか?」
「ははは……まぁな」
「じゃあ先日のイベントもあまり出番が無かったり?」
「そうなんだ……」
若干バトルハイになってたのに正気に戻ってしまった。
見たところ風の刃も槍も、飛んで速度が出てるからこその威力っぽかったし、地上に降りた状態では威力半減で相手と切り結ぶことも出来ないだろう。
「いやでもちゃんと仕事はしたんだぜ。
廃都周辺を飛んで誘拐犯の馬車が街の北にある小屋に向かうのを突き止めて騎士団に報告したりとかな。
まぁ現場組が到着した時には別のプレイヤーが既に発見、捕虜も救助してたって話だけど」
あれ、それどこかで聞いたことがあるような?
(ラキア君。それたぶん、わたしたちです)
(え、あぁ!)
フォニー達が誘拐された人達を連れて隠し通路を出た時に遭遇した奴ら。
確か王国から要請を受けて来たとか言ってたっけ。
てっきりその場ででっち上げた嘘じゃないかと思ってたけど本当だったのか。
「そのプレイヤーって多分僕達です」
「おぉそれは凄い偶然だな」
「もしかしてそれでイールさんの評価が下がったりしてた?」
「そこは大丈夫だ。
むしろちゃんと正しい情報を掴んでたことを認められたよ」
それを聞いてちょっと安心した。
ゲームなんだし早い者勝ちなのはそうなんだけど、頑張った人は相応に評価されるべきだからね。
「ちなみにラキア達はどうやってあの場所を見つけたんだ?
街道からも離れてたし、普通はあんなところまで捜索には行かないだろう」
「僕の場合は虫を使いました」
「むし?」
「えっと、僕は女神の祝福で他の人には視えない虫が視えるんです。
そして視えた相手とはある程度意思の疎通が出来るので、彼らに廃都周辺で怪しい人を見かけなかったかと訊ねた結果、あの小屋に辿り着きました」
僕の説明を聞いてイールさんはなるほどと感心していた。
虫たちは自然があるところならどこにでも居るし、他人から見つけられても警戒される心配はない。
だから最高の監視役なのだ。
『アリの子1匹通さないぜ!』
みたいなところでも実際にそうなっているところは少ないだろう。
「ラキアの祝福は虫使いってことかぁ」
「あ、いえ。それはただの副産物で、別に虫を使役してる訳でも無ければ命令も出来ません。
あくまでも友達、もしくは協力者って関係です。ね?」
(くすくす)
今も僕の肩でまったりしている芋虫くんに視線を向ければ、うんうんと頷いてくれる。
うーん、これが猫とかなら背中を撫でてあげると喜びそうだけど、芋虫くんの場合は?
あ、撫でられると気持ちいいんだ。
ならばと撫でてみれば意外にもひんやりツルツルしていた。
これはこれで良いものだ。
撫でられた芋虫くんも気持ちとろんとしてる。
っと脱線してしまった。一人芝居をしてる僕を見てイールさんが首を傾げてる。
「僕の祝福は『視力』です」
「それってあれか。見たものの能力が分かる鑑定能力とか、相手を石化させる魔眼って奴か!」
「どこの厨二病ですか。残念ながらただ視えるだけです」
そういえば中学の頃に居たなぁ。
目が見えない僕を見て「おぉ同志よ!」とか言い出した人が。
悪い人じゃなかったんだけど、うん。
彼は今頃どうしてるだろう。
「実際に鑑定能力を祝福として貰ってる人もいるのかな」
「おう、居るぞ。というか、それなりに多いらしい。
『異世界と言ったら鑑定スキルで無双だろう』って言ってな。
同じように『回復スキルで~』とか『ポーションで~』みたいなのも居るな。
このゲームが元々自分専用の究極スキルで楽しもうってコンセプトだから間違ってはいないんだろう。
ただ、実際にはまだまだ無双は出来てないらしい」
「ふむふむ」
配信で紹介されている鑑定スキルは、相手のステータスが具体的な数値まで分かるもの(普通はスキル名とレベルだけ)とか、アイテムの真贋や素材の鮮度が確認出来るものらしい。
ただし未知のアイテムを見つけてもアイテム名しか分からず、何に使えるのかを調べて初めて説明文も表示されるのだとか。
なるほど、知識があって初めて役に立つものって感じか。
魔眼についても格下にしか効かなかったり『右足首だけ10秒間固定』みたいな微妙な効果らしい。
そんな話をしている間にふもとの村が見えてきた。
「こんにちは~」
「おや、こんな辺鄙な村に珍しい。
よく来なすったな。何もない所だけどゆっくりしていきなされ」
村に入って道行く住人に挨拶をする。
現実世界だと知らない人から挨拶されると警戒してしまうけど、ゲームだし田舎だからむしろ挨拶して友好的な姿を見せた方が受け入れて貰える。
そうしてまずは村の中をぐるっと見て回っているとフォニーがぽつりと言った。
「お年寄りしか居ないみたいですね」
「まあ田舎なら良くある話だろ」
「そうなの?」
ふたりのやりとりに首を傾げる。
田舎はこれが普通なのか……