53.変身願望
墜落現場に行くと、そこには上半身は鳥、頭と下半身は人間という獣人?バードマン?が居た。
手の代わりに翼で頭に出来た大きなたんこぶをさする姿はコミカルでもある。
あの頭はフォニーの攻撃によるものか、それとも落下した時に地面に打ち付けたからか。
まぁひとまず生きてるみたいで良かった。
「あの、大丈夫ですか?」
「まぁなんとか、な。
あっ。俺は人間だから討伐しないでくれよ」
「はい、むしろ鳥と間違えて攻撃してしまってごめんなさい」
「ははは、そこは慣れてるから大丈夫さ」
ふぃ~と息を吐きながらアイテムボックスからポーションを取り出して飲めば頭のたんこぶも消えた。
って、アイテムボックスって事はプレイヤーなのか?
「改めて僕はラキアです」
「フォニー、です」
「イールだ。よろしく」
お互いに挨拶を交わして握手をすればフレンドリストに追加された。
ならやっぱりプレイヤーか。
初期設定で異種族にする項目は無かったと思うんだけど何か裏道があったのかな。
でも初対面であれこれ尋ねるのもマナー違反か。
と思ってたら向こうから質問してきた。
「ところで俺を攻撃してきたあれは何だったんだ?
俺は弓矢や魔法の接近を察知出来るスキルを持ってるんだが、さっきはスキルが反応して振り返っても何も無くて、汽笛のような音が聞こえたと思ったら殴り飛ばされてたんだが」
「すみません。わたしが、これで音を飛ばしました」
イールさんの質問にフォニーがホイッスルを見せながら謝る。
その形状ですぐに何かは分かったらしい。
「なるほど、超音波攻撃みたいなものか。
そりゃ見える訳無いな」
納得してはっはっはと笑うイールさん。
その際にも腕の羽がひらひらと動いている。
ええい、気になるから聞いてしまおう。
「あの、イールさんのその翼は、僕らとは違う種族になってるんですか?」
「ははは、やっぱ気になるよな。
これはなぁ、最初に女神様にもらう祝福で『空を飛べる翼が欲しい』って願ったらこうなった。
身体の一部が他の生き物になると『亜人』って呼ばれるらしいな」
そういうのもありなんだ。女神様凄いな。
でも翼が生えるっていうとこう、もっと違う形なのでは?
「翼って天使みたいに背中に生えるイメージですが違うんですね」
「おう。それ俺も最初思ったよ。
でもナビの人に『背中に生えた翼を動かすことは出来ますか』って聞かれてな。
お試しで付けて貰ったらピクリともしねぇでやんの。
で、代替案として腕を丸ごと翼に変えて貰ったんだ」
言われて自分でもちょっと想像してみたけど、確かに肩甲骨を回すのとは違いそうだし、翼にも神経や筋肉が付いてると考えればそれを脳や脊椎のニューロンに刻み込まないといけないだろう。
それに2本の手を動かしながら1対の翼を羽ばたかせ続けるって、相当忙しい。
たしか以前お姉ちゃんに聞いたダンスは、手が6拍子で足が8拍子とかそんな感じで慣れないうちはタコ踊りになると言って笑ってた。
「ちなみに俺以外にも同じことを考えた奴は居るらしいぞ。
その人は『人魚になりたい』って願った結果、水中にいる間だけ下半身が魚になるらしい」
「あ、流石に常時人魚じゃないんですね」
「そうじゃないと日常生活に支障が出るからな。
海はかなり遠いし、水路や川しか移動出来ないんじゃやってられないだろう」
女神様も色々考えてくれているらしい。
なお、イールさん含めそういう人たちの配信は結構評判が良いそうだ。
「俺の『〇〇の上を飛んでみた』っていうのも人気あるんだぜ」
「へぇ。例えばどこを飛んだんですか?」
「王城の上空とかだ!」
「え……」
良いのかそれ。街の上空くらいなら許されると思うけど、お城の上とか不審者として撃ち落されるんじゃないだろうか。
その僕の心配は残念ながら当たっていた。
「ま、流石にあの時はマッハで撃ち落されて説教されたけどな!
むしろ配信タイトルも『城の上空を何分飛んでいられるか』って落とされる前提だったし」
「実はイールさんって迷惑系配信者?」
「いやいやいや。確かにちょっと法に抵触することはする時もあるけど、誰かを不快にさせたり嫌がらせをして楽しむ趣味は無い。
その時だって説教された後で『もし飛行系のモンスターの襲撃を受けたら』って観点で防衛の弱点を指摘することでお咎めなしになったんだ。
更になんと警備隊の特別顧問に就任したんだ。凄いだろ」
それは確かに凄い。
転んでもただでは起きないところもだけど、女神様の祝福で自分にしか出来ないことをやってのけたという点も、このゲームでは特に評価できるところだろう。
でも犯罪行為を肯定するのも違うよなぁ。
「あれ、じゃあもしかして今もその国防のための調査の一環で飛んでたんですか?」
「いいや。元々空をのんびり飛ぶのが好きだから、適当に散歩してただけだ。
国からの依頼で飛ぶこともあるけどな。
そういうお前さん方は、何かのクエストの最中か?」
「はい。この先に沢が流れる綺麗な景色が見られる場所があるそうで、そこで手に入る珍しい薬草を探しに行くところです」
僕の返事にイールさんは「あれ?」と首を傾げた。
「俺の知る限り、この先にはちょっと険しい山と、そのふもとに小さな村があるだけだ。
川くらいは流れてるだろうけど……。
お前さんの言う、綺麗な景色があったようには思えないな」
「でも過去に現地に行った冒険者が居たそうなのであるのは間違いないと思います」
「あ~じゃああれだな。
遠くからだと認識できないように魔法が掛けられてる秘境タイプの場所だ」
この世界にはイールさんみたいに翼を持つ人も居れば、凄い脚力で高くジャンプする人とか、魔法で浮遊する人なんかも居ると思う。
そういう人対策でフィールドの内側に入るまでは中の様子が分からない場所が世界中に幾つもあるらしい。
「それ聞くと僕は飛べなくて良かったって思っちゃいますね。
折角の景色を見落とすことになるので」
「そうなんだよなぁ。
警備隊の特別顧問としても見落としがあるのは余りよろしくない。
そういう場所に限って凶悪なモンスターが生息してるから注意が必要なんだが」
おぉ、ちゃんとお仕事してるみたい。
って言ったら失礼か。
でもそう言う事なら。
「えっと……いい?」
「うん」
ちらっと隣にいるフォニーに目配せ。
それで僕の言いたいことを察してくれたらしく頷きが返ってきた。
「あのイールさん。
地上からならその場所を認識できると思うし、良かったら僕らと一緒に行きますか?」
「お、いいのか?」
僕の提案に驚いたイールさんはおもむろに僕に近付いて囁いた。
(彼女とふたりでデートだったんじゃないのか?)
「違いますよ。彼女もきっとそんな気は全くありません」
「?」
気を遣ってくれたのは嬉しいが、残念ながらそういった事実は全くない。
「ここで出会ったのも何かの縁ですし」
「分かった。そういうことなら頼むわ。それと敬語も無しで良いぞ」
「はい」
こうして僕らは仲間が1人増えて3人で冒険を続けることになった。