51.街の外は危険がいっぱい
だいぶ道草を食ってる気がしますが、次話くらいからちゃんと前進するはずですので、のんびりとお付き合いください。
買い物を終えてメールを確認すればフォニーの用事ももう少し掛かるという事なので僕は一足先に街の外へと向かった。
行き先はいつもの薬草園だ。
あそこで芋虫さん達と話をしてればあっという間に時間は経つだろう。
向かう途中で初心者向けモンスターのフォビットを発見。
あれと戦うのも最初は苦労したよなぁと思いつつ、今ならどうかと攻撃してみた。
「ふっ」
スパッ!
3mあった距離を鋭い踏み込みで詰めてからの一閃で見事討伐に成功。
始めたての頃なら踏み出した足に躓いて転んでただろうから目覚ましい進歩だ。
よしよしと我ながら今のは良かったと小さくガッツポーズしてると遠目に僕を見ていた他のプレイヤーに笑われた。
「うわ、あいつフォビット1匹倒して喜んでるぜ」
「あんなの俺らレベル1から楽勝だったよな」
「服装は初心者って訳でもないのに。寄生プレイヤーって奴かな」
「おいちょっとPvP申し込んで来いよ。
あいつ相手なら白星取れそうじゃねえか?」
ん?なんか雲行きが怪しくなってきたな。
別に笑われるくらいどうでも良いんだけど、PvPってつまりプレイヤー同士の決闘だよね。
そんなことをして楽しいのだろうか。
仮にこのゲームが全員同じ装備やスキル構成に出来るというのならお互いの技量を競い合うという意味でまぁ分からなくもない。
だけど実際には装備もプレイヤーメイドはピンキリだし僕の持っているボウガンとか特殊な職人が作ったもの等もある。
スキルに至っては女神の祝福が唯一無二のものなので他人と比べてもあまり意味が無い。
単純な腕相撲とかならともかく戦闘となると、どうしても正面から戦う方向に特化させた人が強い。
などと考えている間にこっちに近付いてきたな。
走って逃げることも考えたけど、僕の目的地はすぐそこだ。
歩く僕の背中にその人は声を掛けてきた。
「なああんた。今時間あるなら俺とPvPしようぜ」
あ、なんだそれで良いのか。
なら返事はこれで良いだろう。
「そんな時間は無いから他を当たってください」
ちらっと視線を送りつつ足は止めずにすげなく断った。
これで諦めてくれたらいいなぁ。無理だろうなぁ。
うん、分かってる。
僕の予想通り、声を掛けてきた人は「いやいやいや」と追いすがってきた。
「その装備ってことはずぶの初心者って訳じゃないんだろう?
それなのにこんな初心者エリアを歩いてるってことは暇な証拠だ」
「残念だけどその予想は完全に外れてますから」
「なんだこいつ。ビビッて逃げてんぞ」
もう一度断って立ち去ろうとする僕の背中に、別の人が声を掛けてきた。
どうやら最初は離れて様子を見ていた彼の仲間が、逃げ腰な僕を見て集まってきたらしい。
でも僕には関係ない。
「おいこら、無視してんじゃねぇぞ」
いや最初の人にはちゃんと受け答えしてたし、さっきのあなたの言葉は会話になってなかったと思うよ?
口に出しても何も良いことはないので心の中で留めておく。
そしてこうなるとこの先の話は大体読めてしまう。
「もう面倒だからこのままやっちまうか」
「そうだな。攻撃されたら流石に無視は出来ないだろ」
「禊クエストで溜まった鬱憤を晴らさせてもらおうぜ」
「いいなそれ」
(はぁ)
人ってどうして群れると自分たちが偉くなったと錯覚するんだろう。
内心ため息をつきながら僕は運営に問い合わせメールを送った。
この世界において正当防衛ってどこから適用されるのか。
殺害予告をされた時?
武器を向けられた時?
それとも攻撃されてダメージを受けた時?
流石に仲間が1人倒されてからって事は無いよね。
などと考えてる間に彼らは武器を抜いて僕に襲い掛かって来た。
「おら、これで無視できないだろう」
「はぁ~」
大きくため息をつきながら右に一歩。
それだけで僕の左側を大剣が通り過ぎて行った。
いやそれ、頭に当たったら普通は死ぬよね。
これなら絶対に正当防衛になるだろう。
僕は諦めて彼らに振り返りつつ短剣を抜いた。
「一応確認だけど、止める気はない?
今ならまだ不慮の事故でしたで済ませられると思うけど」
「何だ今度は命乞いか? どこまで行ってもダサい奴だな」
忠告のつもりで言ってみたけど命乞いに聞こえてしまうのか。
まあこっちの言葉を聞くわけないとは思ってた。
じゃあ後はこの場をどうやって切り抜けようか。
人数だけで考えれば3対1でこちらが不利。
持ってる武器は大剣、槍、杖とそれなりに良物っぽく見える。
レベルまでは分からないけど、さっきの1撃を見るにそこまで高くは無さそう。
「じゃあ今度こそ死ねや!」
ぶおんっ!
袈裟懸けに振り下ろされた剣を後ろに軽く跳んで避ける。
うーん。最初の1撃とそんなに速さが変わってない?
もしかして最初から全力だった?
「ちっ。短剣使いはこっちの攻撃を避けるから面倒なんだよなっ」
「面倒くせぇ。一気に畳みかけるぞ」
「おうっ」
3人掛かりでの連続攻撃。
だけどやっぱり1人1人の動きが遅いので避けるのに苦労しない。
それと連携らしい連携も取れてないな。
大剣で僕の避ける方向を誘導したところに槍を刺すとかすればいいのに。
ただまぁ流石に1撃の威力は高そうだから当たると危ない。
特にスキルっぽいのを使われると地面が抉れるほどだから見た目よりも大きく避ける必要がある。
これはそろそろマズいかなと思った時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
(くすくすくすくす)
慌てて振り返れば、いつもの薬草園がすぐ近くにあった。
どうやら彼らの攻撃を避けてる間に移動してきてしまったらしい。
これ以上後ろに退がったら薬草園に被害が出てしまうかも。
「よそ見してんじゃねぇ!」
大きく振りかぶってくる大剣使いに対し、覚悟を決めて短剣を向けた時。
視界の端を白い糸のようなものが何本も飛んで行った。
(くすくすくす)
スパッ
「へっ?」
突如すっぽ抜けたようにたたらを踏んだ彼は、何が起きたのかと自分の手を見た。いや見ようとした。
残念ながらそこには手首から先が消え去った腕しか残ってなかったけど。
ゲームじゃなかったら血が噴き出ていただろう。
「俺の、手、あ、え?」
スパッ
無情にもすべてを理解する前に彼の首に白い糸が巻き付き、全身が光となって消えていった。
どうやら死に戻ったらしい。
それを理解した残りの2人が怒って俺に攻撃を仕掛けてくるが。
(くすくすくす)
スパスパッ
最初の1人同様に糸が巻き付いたと思った次の瞬間には消えていた。
まあどんなにレベルが高くても首を切り落とされたら死ぬのは仕方ない。
僕は短剣を仕舞いつつ後ろを振り返ると薬草園の中でドヤッている芋虫さん達を発見した。
やはり糸を飛ばしたのは彼らか。
僕が襲われてると見て助けてくれたんだろう。
「助けてくれてありがとう」
(くすくすくすくす)
「いつものお裾分け。今日は多めに置いていくね」
街で買ってきた果物盛合せを数個出すと、1つにはいつもと同じサイズの芋虫さん達がせっせと群がり、残りのには大きく成長した芋虫さん達が1人1個と言った感じで果物を丸呑みにしていた。
というか、え?
大きい子は僕の腕くらいの太さなんだけど。
芋虫って普通、ある程度成長したら蛹になって蝶とかになるんじゃないの?
この世界ではずっと芋虫のままなんだろうか。