5.奇跡の生還だったらしい
帰り道はまた転ばないように普通に歩きながら、他の人たちの活動を観察してみることにした。
街の外に出てモンスターと戦っているということは皆戦闘をメインにしている『戦士』ってことなんだろうけど、やっぱり凄い。
躍動感にあふれているというかあんなに速く走って転ばないんだなぁ。
武器は剣だったりハンマーだったり弓だったりと様々。
僕が同じことをしようとすれば、多分重くて持てなかったり矢は明後日の方向に飛んでいく未来が想像できる。
火の玉や石礫を飛ばしてる人も居るけどあれが魔法かな。
そういえば魔法ってどうやって使うんだろう。
(戻ったらフェルトさんに聞いてみようかな)
無事にモンスターに襲われることもなく街に帰り着いた僕はそのまま冒険者ギルドへ。
するとどこかそわそわしたフェルトさんが居た。
……お手洗いに行くのを我慢してるのかな?
さすがに失礼だから聞いたりはしないけど。
「ただいま戻りました。フェルトさん」
「あっラキア様。ご無事のようで安心しました」
「はぁ」
ふひぃ~と肩を撫で下ろすフェルトさん。
ってもしかして僕のことが心配でそわそわしてたのかな?
まるで小さい子供の初めてのお使いの帰りを待つお母さんだ。
僕もそこまで子供じゃないし街の外って言ってもモンスターは全然襲ってこなかったから平気なのに。心配性なんだなぁ。
「それより癒し草の採取してきましたよ」
「あ、はい。癒し草10個確認しました」
アイテムボックスから癒し草を取り出して渡す。
報酬のお金は直接僕の所持金に振り込まれるので便利だ。
「それと癒し草以外にもいろいろ手に入ったので見て貰えますか?」
「はい、構いませんよ。
これは……こんなに沢山、凄いですね。調合次第で色々な薬が作れますよ」
解毒薬に使える草、逆に毒薬になる草など様々だった。
合計10種類ほど。どれも街の近くに生えているものだけどあまり見つからないものらしい。
なお、毒薬って聞くと悪いことに使うイメージがあるけど、モンスターを討伐する際にも使えるので要は使う人次第ってことらしい。
「この短時間で良くこれだけ採取しましたね」
「幸い薬草の群生地みたいなところを見つけられたんです」
僕の言葉を聞いた瞬間「あっ」って感じで口元を抑えたフェルトさん。
何か心当たりがあるみたいだけど。
ちょっと声を潜めて内緒話みたいに聞いてきた。
「……それってもしかして、新人殺しの薬草園じゃないですか?」
「何ですかその物騒なの」
「実は」
この街の近くに、踏み込んだだけでダメージを負ったり毒や麻痺の状態異常に罹ってしまう危険な場所があるらしい。
ベテランの冒険者なら問題ないけど新人の装備が貧弱な冒険者が間違って行ってしまうと最悪そのままお亡くなりになってしまうのだとか。
ここは僕たちプレイヤーが最初に来る街なので、彼らが初期装備(普通の布っぽい服)で向かって行って犠牲になって以来、ある程度のレベルまで立ち入り禁止になっているらしい。
「本来なら新規登録した方には見つけても近寄らないようにと注意喚起をしているのですが。
申し訳ございません。ラキア様にお伝えし忘れておりました」
なるほど、僕を見送った後で伝え忘れたことに気づいたから、ああしてそわそわと僕の帰りを待っていたのか。
「ま、まぁ僕は異界の旅人なので大丈夫だと思いますよ。
というか死ぬ……ような状況に陥った異界の旅人ってどうなるんですか?」
「女神様の加護により街の噴水広場に転送されるそうです。
ただその場合、半日は倦怠感に襲われ、お金や所持品も落としてきてしまう可能性があるそうです」
「それは大変ですね」
所持品についてはまだ始めたてなので大したものは入ってないから良いけど、倦怠感は度合い次第かな。
インフルエンザみたいな症状に襲われるんだったら流石にその日はもうゲームを休むしかないと思う。
でも言い換えれば本当に死ぬわけではないのでそこまで深刻な話でもない。
それはともかく新人殺しの薬草園かぁ。
「その薬草園って見て分かるものなんですか?」
「はい。特徴が大きく2つありますので。
1つはその名の通り薬草が群生していること。
そしてもう1つはモンスターが寄り付かないことです」
思い返してみれば、うんばっちりその条件に該当する。
でも僕はダメージも状態異常も受けてない。
ってそうか。
「僕は今回その薬草園の中までは入ってなかったから大丈夫だったんだと思います」
「なるほど、それは僥倖でした」
踏み入る手前で転んだからね。
それが無かったら危なかったのかもしれない。
でもそういう事なら次行く時は芋虫さん達に色々聞いてみることにしよう。
あそこに住んでいるんだからきっと毒への対処法とかも知ってるはずだ。
「じゃあそれについては僕も無事だったのでここまでにして。
他に僕向きのクエストってありますか?」
「ありがとうございます。
えっと、ラキア様は今後とも街の外に出る機会がありますよね。
でしたら簡単な討伐依頼を、と言いたいところですがその前にご自身に合った武器の選定と戦闘訓練を積むのはいかがでしょう。
ギルド裏手に訓練場がありますので、その中でしたら基本的な武器の貸し出しなども行っていますよ」
「なるほど、それは良いですね」
僕が剣やハンマーを持ってモンスターに飛びかかる姿はイメージできないけど、もしかしたら使える武器の1つもあるかもしれない。
流石に手ぶらでモンスターの蔓延る場所を歩き回るのは危険すぎるからね。