49.アンケートでひと休憩
運営からの告知もあり、無事に夏イベントは終わった。
結果は予想通りというか、僕としては廃都の外に被害が出なくてよかったと胸を撫でおろしている。
他の人達は魔神を討伐出来なくて悔しがってたり、そもそもこれは負けイベントで魔神城の為に用意されたものだったんだと開き直ったりと忙しそうだ。
そして僕は今日どこにいるかというと、どこまでも草原が広がる大地に立っていた。
(懐かしいな)
まだそれほど日数が経っている訳じゃないのに久しぶりに来たと思うのは、それだけこのゲームを始めてから充実した日々を送れていた証拠。
そう、ここはゲーム開始時に最初に降り立った場所だ。
「えっと、ガンマさん?」
「はい。急にお呼び立てしてしまい申し訳ございません」
「いえ、全然大丈夫です」
呼びかければ横で静かに待ってくれていたナビゲーターのガンマさんがこちらに頭を下げた。
あれ、ガンマさんだよね? 本人もそう応えてるし。
「あの、ガンマさん。仮面忘れてませんか?」
ガンマさんと言えば顔の造形が分からないようになっていたはず。
何でもこのゲームを始めた人に先入観を与えない為なんだとか。
だけど今は普通にキリッと真面目さがにじみ出た、それでいて親しみやすい笑顔を浮かべているのが見えている。
僕の指摘にガンマさんは「はて」と顔に手を当てて考えた。
「私は特に以前から変わっておりません。
もし視えているというのであれば、それはラキア様の能力かと思われます」
「『視力』の祝福ってそんなところまで影響するんですね」
僕が女神様から頂いた祝福は『視力』。
元々はVR空間に降り立った瞬間から目が見えるようになっていたのだけど、更にパワーアップしてもらっている状態だ。
それが効力を発揮しているという事は、じつはここは実際にゲーム内に存在する場所なのかもしれない。
時間があったら探してみるのも面白いかも。
「それで今日はなぜここに呼ばれたんですか?」
「はい。実はアンケートに答えて頂きたいのです」
「はぁ」
説明を聞くと女神様基準で一定以上の評価をされたプレイヤーに対して、報酬として欲しいものは何かであったり、困りごとや改善点などはないかと聞いているそうだ。
欲しいもの、欲しいものかぁ。
特にこれって言うものは思い浮かばない。
こういう時って「何でもいいです」とか「別に要らないです」みたいな答えが一番困るんだろうな。
だけど逆に適当に答えて今後他の人にも使わないゴミアイテムが報酬として配られたら可哀そうだ。
じゃあそうだな。
「お金で買えないもの、とかどうでしょうか」
「具体的には?」
「現地の方々からの好感度とか」
一瞬お金で買えない=『愛』って単語が頭を過ったけど、それは色んな意味で良くないので言い換えた。
好感度なら例えばお店の商品が安く買えるようになるとかイベントが発生しやすくなるとか誰にとっても良いことがあるだろう。
と思ったのだけどガンマさんは考え込んでしまった。
ダメだったかな?
「あまり大きな声では言えませんが、ラキア様の現在交流のある方々からの好感度は軒並み高く、恐らくこのままの調子で王都などの新天地に向かったとしても、同様に好感度は上げられるかと思います。
よってこちらからの報酬として好感度を上げる、もしくは上がりやすくする何かを行っても効果が得られないかもしれません」
「それは嬉しい悲鳴ですね」
僕のこれまでの行動が評価されていたというのだからありがたい話だ。
というか、それ聞いても良かったんだろうか。
いやそもそもこのアンケートに呼ばれてる時点で評価されてるのは分かってたから良いのか。
さてでは別方向から攻めてみよう。
「例えばですけど『鎖国してるから外国人はそもそもお断り』とか『人間自体お断り』みたいなケースもありますよね?
そういった場合でも門前払いされないような紹介状、みたいなものはどうですか?」
「なるほどそれは良さそうですね」
よしっ。これで行ける場所の選択肢が増える。(まだそういう場所があるかも分からないけど)
ただ今すぐどうぞとはならないらしく、女神様(運営?)と相談してからという事になった。
まあ印籠みたくそれを出せばどこでもフリーパスってなったらゲームバランス崩れるもんね。
それで次は困りごとか。
「僕はまだ何とかなってるのですが、友人に上手く喋れない人とか人見知りの人が居るのですが、そういった人でも問題なく意思の疎通が出来るようになったら良いなって思います。
例えばギルド職員が手話を扱えるようになったり、話しかけやすい気さくな女性騎士を配置したりですね。
あとは現地の方ともメールやパーティーチャットが使えると便利かもしれません」
「分かりました。参考にさせて頂きます」
よし、こんなところかな。
と、そうだ、折角また会えたのだからもう一つ。
「ところで、またガンマさんに会ってお話したいなって思ったらどうすればよいでしょう」
「私にですか? 理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「単純な話、折角こうして知り合えた友人と今度はお茶でも飲みながらゆっくり話したいなと思ったんです」
「友人、ですか……」
あれ。流石に友人は烏滸がましかったかな?
名前も知っててこうして会話もしてるんだから、また会いたいなと思うのは変じゃない筈。
でもガンマさんは僕以外にも大勢のプレイヤーに今みたいなアンケートを取らないといけないのだから忙しいか。
「あ、ご迷惑だったらいいですよ。
またここに呼ばれるように頑張れば良いだけの話ですし」
「いえ。まさか友人と呼ばれるとは思わなくて驚いただけです。
……なるほど、ラキア様が現地の住民から好感度が高い理由が少し分かった気がします。
それで私にコンタクトを取る方法ですが、現地に私の像がありますので探して祈りを捧げて頂ければ大丈夫です」
「なるほど、戻ったら探してみます」
「はい。ただし簡単に見つかるものではありませんのでのんびりとお探しください」
像になってて祈りを捧げてってことは女神様みたいに教会とかに祀られているって事なんだろう。
それもかなりマイナーな教会に。
これでまたやりたい事が増えたな。
「それでは本日はお時間を頂きありがとうございました」
「はい。ではまた」
そうして僕は最初の街の宿で目を覚ました。
念のため街の教会に向かいシスターに祀られている像について確認したけど、王国内の教会ではどこも女神様の像しか存在しないと言われてしまった。
更に言うと隣接する他国でも同じで、それ以外の像となると魔神や邪神の像とかちょっと物騒な話が出てきた。
ガンマさんは間違いなく女神様寄りの存在なので魔神とかではないはず。
う~ん、やっぱりそう簡単には見つからないか。
アンケートは1/3くらいで終わらせて次の冒険話を進める予定が1話丸々使ってしまった・・・