47.色々考えた結果
議論とは巡り巡って何も進展しないことが多い・・・
「敵の狙いが分かったかもしれない」
僕がそう言うと全員が一斉にこちらを見た。
「奴ら、本気で魔神を召喚しようとしてるのかも」
「え、でも一般人数十人程度の生贄だと全然足りないんじゃないかって話でしょ?
その生贄も開放したし」
「うん。でも例えばその一般人を誘拐したのが呼び水だとしたら?」
『呼び水……』
最初の事件、そして今起きている問題。
これらが繋がっているのだとしたらどうだろう。
「ボヤンさん達が攫われた時のことを思い出してほしいんだけど。
あの時、誘拐犯の仲間のトンズはどうして街に戻って来てみんなが誘拐されたことを伝えたんだろう。
単純に魔物に襲われて死んだことにすれば自分が捕まることも無かったよね」
「言われてみれば確かに。わざわざ誘拐されたことを伝えるメリットはないわ」
『救助させたかった?
もしくは救助要員である冒険者を廃都に呼び込みたかった?』
「うん。廃都で事件が起きていると触れ回って冒険者を廃都に集めたかったんだと思う」
「そして地下で冒険者に同士討ちをさせる。
失われた生命は魔法陣に吸われて生贄の代わりに使われる。
一般人より冒険者の方がレベルも高いから良い生贄になるので効率的と。
これを考えた人は悪魔ね」
全くだ。
でも今ならまだ阻止できるかもしれない。
魔法陣の中心。
そこに行けば術師が居るか、居なくても魔法陣を破壊してしまえば召喚魔法は失敗に終わるだろう。
と思ったのだけど問題はそんなに簡単では無かったらしい。
「これレイドボスかも」
そうコロンが呟いた。
「レイド?」
『複数チーム合同で戦う大規模戦の事です』
「だとすると儀式を阻止したり妨害すると他の人から顰蹙を買うかもしれない」
え、どういうこと?
ボス戦が無くなるとそれを楽しみにゲームをしてる人達が残念がるのは分かるけど、妨害もしてはいけないの?
「フェルトさんにも分かるように言うと、仮に今回の問題を解決したら女神様からご褒美が頂けるとして、敵が強大であればあるほどそのご褒美が豪華になるんじゃないかと異界の住人は考える。
そして敵の強さが生贄の量で決まるとしたら?
異界の住人は死ぬような傷を受けても街に送り返されるだけ。
これ幸いにと戦闘を繰り返して報酬を吊り上げようと考えるかもしれない」
「え……でもそれボスに勝てること前提だよね。
強くし過ぎて勝てませんでしたってなると不味いんじゃない?」
「馬鹿は自分たちが負ける未来なんて考えない」
「そうかもしれないけど」
もし仮に今のプレイヤーでは太刀打ち出来ない程の強力なボスが現れた場合、この国が亡びるんじゃないだろうか。
その場合はこのゲーム自体もバッドエンドでサービス終了ないし初期化ってことになるかもしれない。
希望的観測をするならこの国の軍隊や勇者様が倒してくれるのかもしれないけど、プレイヤーに対する評価は大暴落すること確実だろう。
そうならないようにする為にもまだ誰も気づいていない今のうちに出来る限りの妨害をすべきではないだろうか。
しかしそれこそ希望的観測だった。
『掲示板を確認したら私達以外にも同じ推察に至った人がいるようです。
既にその人発信で廃都地下でPvP祭を開催して報酬を吊り上げようぜって盛り上がってます』
「ほらね」
「それに賛同してる人も結構多いの?」
『ざっと見た感じ今は30人くらいです。
ただその人達がそれぞれチームで動くことを考えると5倍以上の人が参加すると思います』
つまり150人以上。既に死に戻った人達の分も考えると200、いや300人分くらいになるのかな。
しかもこれは現時点でっていう話で、この後さらに増えることだって考えられる。
そうなると本当に手の付けられない天災級の魔神が誕生してしまうかもしれない。
もしもの時にこの国の人達で防衛が出来るかどうか。
「フェルトさん。この国で一番強い冒険者ってレベル幾つくらいですか?」
「たしかレベル374の勇者コギト様です」
『あっ、それなら魔神もそう恐れることないかもです』
「フォニーそうなの?」
『私達プレイヤーの最大レベルは現在80ですから』
「この世界ではまだ中堅クラスが良い所。
それなら多少多めに生贄になっても国が滅びる程の魔神は召喚出来ない。……多分」
レベル80のプレイヤー10人とレベル374の勇者1人が戦ったらどちらが勝つかを考えると、80x10=800だからプレイヤーの勝ち、とはならない。逆に勇者の方が怪我1つすることなく圧勝する可能性の方が大いにあるだろう。
その勇者以外にもレベル3桁の冒険者とか普通に何人も居そうだ。
そう考えればフォニー達の言う通りそこまで絶望的な状況じゃないのかも。
「焦る必要はないかもしれないって言うのは分かった。
でも放置は出来ないよね」
「そうだけど、この流れは私達はもちろん【電光石火】チームでも止められないわ」
『じゃあまたこっそり潜入して儀式を妨害する?』
「それも難しいと思う。一般の道は他プレイヤーで溢れてるだろうし、誰も知らない隠し通路がそう何度も発見できるとは思えない」
つまり打つ手なしか。
この世界は残念ながら僕らを中心に回っている訳ではない。
大多数の人がこっちに行きたいと言っているのを止めることは出来ないしその権利もない。
出来るとしたら被害を最小限に抑えることくらいか。
「フェルトさん。ひとまず異界の旅人以外で現地入りしてる冒険者が居たら撤収してもらうように伝えてもらう事って出来ますか?」
「ええはい。それは可能です。
というより、誘拐事件が終息した現在、残りの調査は異界の冒険者の皆さんに委託して残りは撤収しています」
「それは良かった」
これで少なくともこの世界の人達が現地で巻き込まれることは無くなった。
あとは廃都の中で事件を終わらせられたら良いのだけど。
「仮に強力な魔神が現れたとして、どうにか廃都の中に抑え込む方法は無いでしょうか。
もしくは万一の時にその勇者様を呼ぶことは出来ますか?」
僕の質問にフェルトさんはじっと考え込み、そして「大丈夫だと思います」と頷いた。
「廃都の外壁はこれまでもモンスターを中に封じていた実績がありますし多少は時間稼ぎが出来るでしょう。
それに勇者さまは有事に備えて転移石をお持ちですし連絡も取れます」
「それなら本当に何も心配なさそうですね」
無関係な街の人が傷つく心配が無いなら僕たちがここであれこれ悩んでた事自体それ程価値は無かったのかも。
問題が起きてプレイヤーの評価が下がるのは自業自得だし。
後は今もPvP祭をしている人たちに任せて僕たちは終了かな。
あー。
「僕はもう出来ることもなさそうだし今回の件から手を引こうと思うんだけど、フォニーとコロンはどうする?
最後のレイドボス戦に参加した方がイベント報酬は良くなる可能性があるけど」
『捕虜救出とか頑張りましたし私ももう満足です』
「阿呆やってる人達の同類と思われたくないから私もパスね」
満場一致で僕たちの夏の大規模イベントは終了する運びとなった。
事の顛末とかはミッチャーさんに後で聞こう。
2025/6/25追記
えっ。何か通知が来てると思ったら「ランクインしました」とか言われたんですけど(超困惑)
これはもうちょっと気合を入れて執筆せねば!