46.影の支配者っていいよね
部屋の見取り図はフォントによってズレると思いますが、何となくそう言う事が言いたいんだろうなとお察しください。
冒険者ギルドの前で合流した僕たちは中に入ってフェルトさんへと話しかけた。
今回の夏イベントは僕らプレイヤーだけじゃなく街の人やギルドも結構影響を受けてるから情報共有はしておいた方が良いだろう。
「フェルトさん、今時間ありますか? 出来れば奥で話したいんですけど」
「はい。ではこちらへ」
前回と同じ部屋へと案内されて席に着いたところで、どうやって伝えるか考えてなかった。
やっぱり一度見て貰うのが早いかな。
となると配信動画を壁に映して、ってやり方が分からない。
「コロン。【電光石火】が生配信した映像を壁に映したいんだけどどうすればいいかな」
「それはたしか、ここをこうして、こうでこう。
早送りとか一時停止とかはこっちのボタン」
「なるほど、ありがとう」
流石、自身も【電光石火】の一員であるコロンはそういった配信操作についても詳しいようだ。
教えて貰った手順でさっきアジトで見ていた動画を再生した。
そこでふと疑問に思ったのだけど。
「フェルトさんってこれ、見えてます?」
「あ、はい。異界の方々が使う記録魔法ですよね。見えてますよ」
なるほど、システム的なあれこれはプレイヤー限定=異界で開発された魔法という位置づけなのか。
ともかく問題の戦闘シーンを通しで見て貰った。
「皆にもやっぱり対戦相手はモンスターに見えてる?」
「え、違うんですか?」
「実はこれ、幻覚によって他の冒険者がモンスターに見えるようになってるんだ」
「じゃあ今も現地では冒険者が同士討ちをし続けてるんですね」
「はい。同士討ちの対策については電光石火の皆さんが考えてくれてます」
「では私たちはその対策が出来るまで待機ですか?」
確かに無策で突撃すれば犠牲者が増えるだけだ。
だけど僕には策というか視えているものがある。
「みんなここを見て欲しいんだけど」
『壁?』
「じぃ~~~。何か、柱? いや煙突が立ってるわ」
「あぁ本当ですね! 言われるまで全然気づきませんでした。
そして気が付けばもうどうして気付けなかったのか分からない位の違和感です」
部屋の隅に立っている高さ1メートル足らずの柱。
色や模様が壁と同じなので分かりにくいけど、あると分かってれば気付けるレベル。
コロンが煙突と表現した通り、その先からは例の赤い霧が煙のようにモクモクと出てきている。
多分これを破壊すれば赤い霧は消えるんじゃないかな。
そうしたら幻覚も解消できると思う。
「じゃあこれを破壊するように各チームに伝達すれば問題解決?」
「だと良いんだけど、自力で見つけられるかな」
「難しいかも」
今はこうして会議室でのんびりと映像を観ているから気付く余裕があるけど、実際には目の前にモンスターの格好をしたプレイヤーが居て、それを警戒しながら部屋の隅にあるこの煙突を見つけて破壊するのは難易度が高いと思う。
『じゃあこういうのはどうですか?』
フォニーがスケッチブックを取り出して、大きな四角を書き込みその中に〇を幾つかと×印を書いていく。
これは多分部屋の見取り図かな。〇が人で×が煙突だと思う。
ーーーーーーーーーー
|↓←←←〇 |
|× |
| |
| × |
| 〇→→→ ↑ |
ーーーーーーーーーー
『冒険者の方には部屋に入ったら敵に近付かず、こう壁に沿って移動して煙突を探してもらうんです。
これなら相手と距離がありますし、背中を襲われる心配がありません。
もし部屋の中央を突っ切って攻撃して来たら、それは本当にモンスターだったということで撃退してもらえばいいと思います』
なるほど、理にかなってる気がする。
幾つかの配信を確認したところ、この煙突は壁際にしか設置されていないようなので、フォニーの言う通りに動いて近くまで行けば見つけられるだろうし、最悪手探りでもいけそうだ。
「じゃあそれを【電光石火】チームから他のチームに伝達してもらおう」
「『……』」
僕の言葉になぜかフォニーとコロンがジト目。いや呆れてるのかな?
何かそんなに間違ったことを言ってしまっただろうか。
『ラキア君は欲が無さすぎでちょっと心配になります』
「捕虜救出の時もそうだったけど、こういう攻略に関わる情報はかなり貴重なの。
なのに他チームに手柄を譲るようなことをしてたらラキアは損してるだけ」
なるほど、今回だと伝達元の【電光石火】チームが評価されて僕達には誰も感謝の一言も送らないどころか存在を気付かれることすらないかもしれない。
でも別に何かを失う訳でもないし、奪われたらカチンと来るけどこちらから譲渡する分には気にならない。
それに彼らにお願いするのも理由がある。
「今回の事を僕らが発信したら聞き入れてくれる人ってどれくらいいるだろう」
「それは……あまり居ないでしょうね」
「だよね。僕たちの知名度は高くないから。
その点【電光石火】ならトップ攻略チームの1つとして有名だし影響力があると思う」
正しい情報を発信しても信じて貰えなければ意味が無い。
この解決策も全員が実行しないと効果は半減だ。
だからより有名な人に協力してもらう必要があるのだ。
「それに僕たちにとっても彼らに恩を売るのは価値があると思う。
彼らなら恩を仇で返す様なことはしないと思うし。
あとはあれ。
表舞台に出てこない影の支配者って、ちょっと格好良くない?」
『あ~うん、そうですね。ラキア君も男の子ですね』
「まぁ、ちょっと安心したわ」
え、だめ? 影の支配者とか良くない?
流石に厨二病までは行かないけど、個人的にはそういうノリって好きなんだけど。
ともかく反対はされなかったので、これについてはコロンに【電光石火】への連絡をお願いした。
「じゃあ次」
「まだ何かあるんですか?」
「うん。この床。光ってるの分かる?」
「言われてみれば他よりも明るくなってますね」
『左右の扉を繋ぐような弧と奥の壁に向かう直線?』
配信映像の中では誰も気にしてないようだけど床が発光して模様のようなものが描かれている。
これもきっと何か意味があると思うんだ。
じっと映像を観ていて、コロンが分かったのかハッとしてフェルトさんに廃都の地図を出す様に求めた。
それを机の上に広げながら指差していく。
「【電光石火】がどういうルートを歩いたかは途中がダンジョン化してたから分からないけど、仮に廃都北側から中央に向かっていたと考えると、最初の部屋は南向きで東西に扉。
更に扉を抜けて通路の先の部屋にも奥に扉があったし、床の線も同じようにあった。
仮にこの床の線が全部繋がっていて、弧を描いてる線が巨大な円の一部だとしたらどうかしら」
「教会の地下からもここに辿り着けるみたいだし、もしかしたら廃都の南や東からも地下で繋がっていると考えれば有り得なくはないかな」
『街の地下に描かれた巨大な円。それってもしかして魔法陣じゃないですか?
それも昔この街を廃都に変えたっていう』
確かこの街は昔の領主が禁忌魔法に手を出して一夜にして街の住民を死なせたんだっけ。
それもモンスターが召喚されて皆殺しにされた、ではなく、住民が死んだ結果、モンスターの湧く廃都になっている。
つまり魔法陣の発動には人の生命力が必要?
それってまるで生贄だよね。
今回の事件は誘拐した人を悪魔召喚の生贄にするってところから始まってるし、そのまま生贄繋がりで話が進んでるとしたら、つまりそう言う事か。