41.救出クエストは無事に完了
ボヤンさん達をつれて無事に最初の街へと帰る僕達。
移動には借りてきた馬車を使い、御者は『巌』の1人が名乗りを上げてくれたのでその人にお任せして僕らは荷台でゆっくりさせてもらっていた。
僕達とは逆方向に向かう人達が結構居たけど彼らはきっと今日からイベントに参加する人達なのだろう。
「皆さんの他にも攫われた人っていたと思いますか?」
「多分ですが居ないと思います。
というのも、あの部屋に最初に連れてこられた人も結構前だったそうですし、脱出する時に連れてこられた人も同じ部屋だった訳ですから」
「じゃあ居たとしても無事かどうかは怪しいところですね」
「無事であることを祈ろう」
あの部屋に居た人でさえ自力で歩けるかどうかという衰弱具合だった。
なら別の部屋にもっと前から監禁された人が居たら……いやでも生贄にする為には死なれたら困るのだから最低限の食事とかは与えてる筈か。
ともかくもし居るのなら他のプレイヤーなり冒険者が救助してくれることを祈ろう。
それに僕が対峙した奴らがあの後どうなったのかは分からないし、夏イベントがお盆期間中なのだとしたらこれからが本番という可能性もある。
「ありゃあ何でしょう」
「「ん?」」
御者台から声がしたので全員で前を見た。
馬車は最初の街の門が見えるところまで来ていたのだけど、そこには今まで見たことのない入門待ちの行列が出来ていた。
門の所には立派な甲冑を着た騎士と思われる人が数人居るのが見える。
「検問、でしょうか。僕たちが街を出た時にはそんなの無かったですけど」
今までも門の所には槍を持った衛兵が2人立っていたけど、基本出入りはフリーだ。
だけど今は重武装の4人掛かりで一人一人チェックを行っていた。
僕達もその列に並びながら周囲の人の声を集めてみる。
「いったい何が起きてるって言うんだ?」
「なんでも犯罪組織が街に潜り込んでいたらしいぞ」
「恐ろしい話ねぇ」
「行商は樽の中まで確認されるみたいだ」
ふむ、恐らくだけど誘拐事件の事がだいぶ明るみになってきて国が重い腰を上げて取り調べに乗り出したって事らしい。
僕達が救出した人数から考えてかなり手遅れな気がしなくもないけど。
でもこれで今後は活動しづらくなるだろうな。
「次!」
「はいっ」
っと僕たちの番が回ってきた。
意外と早かったな。
「それぞれ所属と名前を。
あと右手の甲を見せるように」
「こうですか?」
「ぷっ」
あ、いや。別に駄洒落とかじゃないから。
単純に言葉が被っただけなので気にしないで。
ともかく、僕たちは異界の旅人であることを告げながら右手の甲を順番に見せていく。
「問題ないな。通ってよし」
検問は凄くあっさりと通されてしまった。
荷物検査とかしなくて良いんだろうか。って、アイテムボックスがあるから無理なのか。
僕たちの馬車には隠せるような場所や箱も無いし。
「それで右手はいったい何だったんでしょう」
「恐らくですが、犯罪組織特有の入れ墨があるとかですかね」
「なるほど。そういうのがあったら敵味方の判別が容易ですね」
納得しつつ僕たちはまっすぐ工房へと向かう。
まずはボヤンさん達の無事を報せたいから。
そして工房の入口が見えたところでボヤンさんが馬車から飛び出して行ってしまった。
「親方~ご無事ですか~!」
「おぉボヤン! お前の方こそよく無事だったな」
「へい。あちらの冒険者の方々に助けて頂きました」
迎えてくれたおじいさんの息子さんも変わらず元気そうだ。
続いて出てきたおじいさん方も到着した僕らを見て嬉しそうにしてくれている。
「それでトンズの奴は?」
「あいつなら予想通り誘拐組織の仲間だったらしくてな。
昨夜他の仲間と一緒に一斉検挙されたところだ」
「騎士団や冒険者が総出で中々派手な捕り物をしておったよ」
へぇ、それはちょっと見てみたかったかも。
この明るい感じからして民間人に被害とかは出てなさそうだし、街中の事件はこれでひと段落かな。
検問も強化されてたし、この先また誘拐事件が起きることは無さそう。
(でもそうなるとますます廃都の奴らがどう動くか分からないな。
生贄になる人が集まらないことになるから、当初の計画は中止する?
そんな諦めが良いとも思えないけど)
奴らの狙いももしかしたら捕まえた人達から情報が手に入ってるかもしれないし、確認するなら冒険者ギルドが良いだろう。
「僕らはこの後冒険者ギルドに行って報告など済ませてきます」
「分かった。今回は本当にありがとう」
「落ち着いたらまたお茶を飲みに来なさい。
その時にはお前たちに合う装備の1つでも作ってやろう」
「はい!」
おじいさん達に見送られて僕たちは冒険者ギルドへと向かった。
その冒険者ギルドはと言えば、まるで蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。
プレイヤーと思われる人達はチームごとに集まっては喧々諤々と声を荒げ、今日来ていないメンバーには急いでメールを送っているようだ。
ギルド職員も何やら分厚い資料を凄いスピードで確認している。
うーん、声を掛けづらいけど僕達もせめて報告くらいはしておきたい。
「あ、フェルトさんだ。
お忙しいところすみません。クエストの達成報告がしたいのですが」
「申し訳ございません。見ての通り今は手が離せない状態で……って、今達成報告と仰いました?」
「はい。誘拐されたボヤンさん達を無事救出したのでその報告がしたかったのですが、やっぱり出直した方が良さそうですね」
あのフェルトさんでさえ忙しすぎて日常業務を後回しにしなければならない状態だというのなら諦めよう。
今何が起きているのかはその辺で騒いでる冒険者の話を聞けば大体分かるだろうし。
そう思って踵を返した僕の肩がガシッと掴まれた。
掴んだのはもちろんフェルトさんだ。
「ラキア様。どうぞ詳しいお話を聞きたいのでこちらへ。
フォニー様とコロン様もどうぞ」
「は、はい」
有無を言わさず奥の部屋へと強制連行される僕達。
そこで廃都に向かってからの事をかいつまんで報告すると、フェルトさんは大きく息を吐いた。
「捕虜救出ありがとうございました。
お陰で敵の計画を大分遅れさせることが出来たと思います」
「それは良かった。で、その計画って何か分かったのですか?」
「はい。昨夜捕らえた誘拐犯を尋問した結果、奴らは魔神を復活させようとしているみたいなのです」
「魔神、ですか?」
フェルトさんの言葉に首をかしげてしまった。
その理由は規模の大きさの違和感だ。
「あの、魔神って結構凄い存在ですよね?」
「もちろんです。本当に復活したら恐らく国1つが滅ぼされるのではないかという程の脅威度です」
「それにしては儀式に使おうとしてた生贄が少ない気がします。
僕たちが助けたのが30人程で、追加があったとしても合計50人くらいです。
しかも高レベルの冒険者を50人とかではなく、適当にかき集めた感じでした。
たったそれだけの生贄で魔神を復活させられるものなのでしょうか」
「……言われてみれば確かに。
私も詳しくは無いですがこれでは精々上級悪魔を召喚出来るかどうかですね」
「誘拐犯は組織の末端だと思うので間違った情報を植え付けられてる可能性も高いでしょうし」
「そうですね。これについてはギルドマスターに報告してみます」
奴らの真の目的は、残念ながら現時点では見当もつかない。
一番阿呆なものとしては上級悪魔を魔神と勘違いして呼び出そうとしているというもの。
それであれば今廃都に向かっている冒険者たちだけでも討伐出来てめでたしめでたしとなりそうだ。
僕たちは会議室を出た後、周囲の人に聞こえないようにメールでやり取りを行った。
『でもそんな簡単に終わると思う?』
『終わったらクレームもの』
『悪魔は前座で本当の狙いは別にあるのかもしれません』
まだ夏イベントは終わらない。
その認識は一致した。ならまだまだ油断は出来ない。
とはいえ今日くらいは無事にクエストも達成出来たのだからちょっとしたお祝いをしても良いだろう。
ということでフォニーお勧めの喫茶店で美味しいスイーツで乾杯することにした。