40.面倒な交渉は大人におまかせ
<コロン視点>
隠し通路を抜けた先で待ち構えていた集団、正確には出入り口になっている物置小屋の前に張っていたというべきだけど、彼らはどこかのチームの人達のようだった。
その中の一人、中二病かコスプレか分からない男性が前に出てきて挨拶してきた。
「やあお嬢さん。
俺はチーム『正義』のリーダー、ジャッジメントクロスだ」
「私はコロンよ」
「コロン? もしかして鉄壁のコロンかい?」
「そう呼ばれてるみたいね」
「へぇ。話には聞いてたけど君みたいな女の子がねぇ」
じろじろと私の全身を舐め回すように見てくるジャッジメントクロス。長いからGで良いか。
彼の後ろに居るチームメンバーたちもニヤニヤと気持ち悪い視線をこちらに向けてきていた。
これだけで私の中で彼らは敵認定完了だ。
「それで私達これから街に帰るところなのだけど通してくれる?」
「おっとそれはちょっと待ってほしい。
見たところ後ろに居るのは誘拐されてここに連れてこられた人達なのだろう?
実は俺達は王国騎士団から正式に依頼を受けて誘拐された人達の救助に来たんだ。
なので彼らの身柄はこちらで預かろう」
何を言い出すのかと思えば私達の成果を寄越せということらしい。
正式だとか言ってるけど私達だってちゃんと冒険者ギルドを通してるので正式な依頼だ。
だから彼らの要求を受ける必要はどこにもない。
だというのにさも当然といった感じで要求してる辺り頭がおかしいとしか言いようがない。
こういう人たちには一言こう言えばいいだろう。
「馬鹿じゃないの?」
「なんだって!?」
「そんなハイエナ行為を受ける気はないわ」
「おまっ、正気か!」
はっきりと断ってやれば、彼は怒りでぷるぷると震えだした。
え、もしかして断られるとは微塵も思ってなかったの?
やっぱり馬鹿なのね。
まあチーム名からして『正義』だからそういう人の集まりなのかもしれない。
「俺達に盾突くってことは王国騎士団と敵対するってことなんだぞ。分かっているのか!」
「その理屈が意味不明ね。
それと貴方達はハイエナかと思ったらキツネだったのね」
『虎の威を借る狐』。
本当に狐がそんなことをしていたかは不明なので実は風評被害の可能性が高いからあまり好きではないのだけど、今の彼らを表すにはピッタリの言葉だ。
「それより私たちは急いでるの。
王国騎士団に告げ口するなり好きにしていいから道を開けなさい」
せっかくラキアが命懸けで時間を稼いでくれたのに、こんな馬鹿達のせいで追手に追いつかれて失敗したとなったら犠牲になったラキアに顔向けできない。
「ちっ。どこまでも生意気な女だな。
そんなに通りたかったら力尽くで通ってみろよ。
もっとも、戦力差は圧倒的だと思うがな!」
「くっ」
悔しいけどそこはGの言う通り。
今こちらで戦えるのは私とフォニーの2人だけ。
対する彼らは20人。
個々の能力までは分からないけど、私のレベルはまだそこまで高くないし10人を相手にするのは厳しい。
それに戦いになったら助けた人たちに流れ弾が飛んで怪我をさせてしまう危険もある。
かといってこんな奴らの言いなりになるのも嫌だ。
いっそ『電光石火』の皆に救援を要請する?
いやだめか。みっちゃんからの誘いを断った時点で今回はチームとは別行動。迷惑は掛けられない。
他に何か手はないだろうか。
悩む私の後ろから落ち着いた声が聞こえてきた。
「やあやあお二人さん、そんな熱くならずに。敵同士ではないんだから」
私達の話に割って入って来たのはボヤンさんの護衛をしていた冒険者の1人。
40歳手前位の渋いオジサンだ。
名前はえっと……
「誰だ!」
「『巌』って冒険者パーティーのリーダーをしてるカッコウだ。
えっとジャッジメントクロスさんだっけ。
その歳で騎士団からの信任が篤いとは恐れ入るよ」
「まあそれほどでもあるかな」
カッコウさんのおべっかにGは相好を崩した。
なるほど、こうして話が出来る状態を作るのか。参考になる。
「騎士団からの依頼ならきっちり成果を出さないといけないのでしょうな。
ですがこちらとしても冒険者ギルドから依頼を受けている手前、手ぶらで帰ると言う訳にはいきません。
そこでどうでしょう。
救助したうちの数人だけ私たちが保護し、残りはそちらが責任を持って彼らを故郷に送り届けるというのは」
「ちょっ、それじゃあ私たちの」
「まあまあ」
突然の提案に驚く私を、カッコウさんは宥めつつ何かメモを渡してきた。
そこにはラキアからのメッセージが書かれていた。
『交渉は彼に任せてbyラキア』
ちらりと後ろを見ればフォニーがにこにこと小さく手を振っていた。
続くようにフォニーからメッセージが飛んでくる。
『ラキア君は無事です。
それでラキア君からこう言われました。
私達が受けたのはボヤンさんの救出だけで他の人はおまけ。
むしろその人達を各街に送り届ける面倒を押し付けてしまおう。
それでも彼らの態度が気に入らない分は僕がお灸を据えるからって』
確かに救助した人たちを最初の街で保護した後は王都や鉱山の街に送り届けることになるだろう。
それらすべてを含めて100点満点と考えると、現時点で既に80点は超えている。
なにせ一番大事だったのは敵のアジトに潜入して捕まっている人たちをそこから逃がすことだから。
多少なりとも彼らに成果を奪われるのは癪だけど、手間賃をあげると考えればまぁ。
それにラキアも何か考えてくれてるみたいだし、私も今のやり取りは全部撮影していた。
対人関連の交渉で一番重要なのは事実の記録だ。
言った言わないもそうだけど、どういう態度で交渉に臨んだかというのも配信で流せば良い武器になる。
などと考えている間にカッコウさんとGの交渉は終わったようだ。
笑顔で握手してるところを見るとお互いに納得のいくところで落ち着いたのだろう。
これが年の功というものか。
今度その話し方のコツとか教えて貰えないだろうか。
「交渉ありがとうございます。それでどうなりました?」
「ええ。ボヤンさんと護衛の私達だけがおふたりに付いていくことになりました。
残りの人達は身元を確認した後、彼らに引き渡します。
これでもし後日1人でも無事が確認出来なかったら彼らに責任を取ってもらいましょう。
それと隠し通路の事と『もしかしたら他にも捕まってる人が居たかもしれない』と伝えておきました。
実際、私達も全員を把握している訳ではないので嘘ではないでしょう」
「なるほどそれで彼らはチームを2つに分けてるんですね」
どうやら半数は保護した人を送り届け、残りで隠し通路に突入する作戦らしい。
とにかく私達は交渉の通りにボヤンさん達以外を彼らに託し、先日テントを張ったところでラキアの帰りを待つことにした。
そのラキアが戻ってきたのは約1時間後。
「ただいま」
『おかえりなさい。無事で良かったです』
怪我もなく、というのはゲームだからだけど、元気な顔を見るとほっとする。
「それで、あいつらはどうなったの?」
「うん。今頃隠し通路の中を彷徨ってると思う。
明かりの魔道具をボウガンで全部破壊しておいたから」
「それはまた」
隠し通路の中は完全なる暗闇。明かりが無ければ自分の手も見えない。
ラキアだけはその制約を受けないので暗がりから狙撃したらしい。
彼らからしたら突然魔道具が破壊されたので、そういう罠が仕掛けられてたと勘違いしただろう。
そして暗闇の中、脇道も多かったので絶対に迷子になるし生きて出てこれるかは怪しい。
ま、別動隊に救助を求めればきっと助かるでしょう。
彼らの泣き叫ぶ様子が撮影出来ないのだけが残念かな。