4.小さな出会い
冒険者ギルドで依頼を受けた僕は早速街の外へと向かった。
依頼品の癒し草というのは街の外ならどこにでも生えているものらしい。
報酬も安かったし初めてのお試しクエストみたいな位置づけなのかも。
そんなことを考えながら門を抜けた先に広がっていたのは、まばらに木が生えてる草原で、少し離れた所には林になっていたりずっと向こうには雪を冠した山脈も見える。
「うん。良く見える」
街中のそれとはまた趣が違って自然の景色をこうして自分の目で見れるのは感慨深いものがあるなぁ。
それと草原にはテコテコと走る生き物の姿とそれを追いかけるプレイヤーの姿がいくつもあった。
ということはあの生き物がモンスターってことかな。
全長30センチほどで黄色くて頭の上に耳が付いてる。
毛がもこもこしててちょっと可愛いかなって思うけどみんな気にせず攻撃してる。
まぁ可愛くてもモンスターは敵ってことか。
あっちでは逆にモンスターに蹴り飛ばされてる人も居るし。
フェルトさんからも街の外にはモンスターが出るから注意してくださいねって言われてたし僕は近づかないでおこう。
「それより僕の目当ての癒し草は、点々としてるなぁ」
パッと見渡しただけでも5本くらいは見つけたけど、問題はすぐ近くに他のプレイヤーやモンスターが居ることだ。
このまま採りに行けばその人達の邪魔をしてしまったりモンスターに襲われそうだ。
初めてのクエストなのだから落ち着いて進めたいんだけど。
「どこか誰も居ないところは……あった」
少し遠くまで見渡してみれば、ぽっかりと人も魔物も居ない場所があった。
しかも癒し草が結構たくさん生えてそうだ。
まるでこのクエストの為に用意されているような場所だな。
行き先は決まった。
じゃあ後は折角の草原なんだし走ってみよう!
片足を大きく前に出して、後ろ足で、蹴る! で、前足が地面に着いたら後ろ足を前に出す。
走るっていうのはこれの繰り返しのはずだ。
「よっほっはっ」
多分他の人から見たら相当不格好な走り方なんだと思うけど気にしない。
なにせ普段歩くのより全然スピード出ててそれどころではないのだ。
というか止まるのってどうするんだ!?
「のわっ」
足を小石か何かに引っ掛けた僕は盛大に頭から地面にダイブした。ズシャーッと1メートルくらい。
地面が草原じゃなかったら、そしてゲームの中じゃなかったら大怪我してるところだ。
これもこの先練習が必要だな。
(くすくすくす)
「?」
近くから笑い声が聞こえてきた。
僕が転んだ姿が可笑しかったんだろうなってのは分かるんだけど、一体誰だろう。
走る前に確認した時はこの近くには誰も居なかったはずだけど。
顔を上げて周囲を確認してみてもやっぱり誰も居ない。
もしかして幽霊?
モンスターの中には幽霊だったり手足の付いた岩みたいなリアルではまず有り得ない存在が居るらしい。
まぁ魔法もあるしファンタジーな世界だからね。
ただモンスターなら攻撃されちゃうかなって思ったけど、そんな事もないようだ。
なら気にしなくて良いかもしれない。
「じゃあ他の人が来ない内に癒し草の採集を……」
「?」
手を伸ばした先にある癒し草にはなんと先客がいた。
この見た目。これはそう、芋虫さんだ。
全長3センチほどで体色は癒し草の葉っぱに似た薄緑色。
今その芋虫さんとばっちり目が合ってます。
「えっと、こんにちは」
「……?」
声を掛けてみると芋虫さんはちょこっと首を傾げた。ちょっと可愛いかもしれない。
ただそこに居られると癒し草が採取出来ない。
なら他の癒し草をと目を向けてみればそっちにも同じ芋虫さんが居た。
どうやらこの一帯は芋虫さん達の縄張りのようだ。
芋虫は植物の葉っぱを食べて生活してるって聞いたことがあるし、無理に奪っていくのは可哀そうだ。
あ、ならこういうのはどうだろう。
「君たちはリンゴって食べる?」
訊きながらアイテムボックスから街で買ったリンゴを見せてみた。
すると。
ぴょんぴょんと他の癒し草の上に居た芋虫さん達も集まってきて僕の手元を見ていた。
どうやら興味津々らしい。なら。
「ここにある癒し草を10本分けて貰えたらこのリンゴをあげるよ」
(くすくすくすくす)
またあの笑い声、じゃないな。これこの芋虫さん達の話し声だ。
僕の提案を聞いてどうしようか相談中みたい。
お、決まったのかな。
芋虫さん達の何匹かが地面に飛び降りるとひょこひょこと移動していき、癒し草の根元に嚙みつくとあっさりと刈り取ってしまった。
あんな小さい身体なのに顎の力はすごいらしい。
刈り取られた癒し草はそのまま消えて……僕のアイテムボックスの中に納まっていた。
癒し草が5本、10本、15本って多い多い。
何か他の草も混じってるし。
「もう十分だよ。ありがとう。リンゴはここに置いておけばいいかな?」
(くすくすくす)
お礼を伝えつつ最初に摘もうとした癒し草の近くにリンゴを置けば我先にと芋虫さん達が飛び込んできてサクサクと齧っていく。
その齧り跡が何となく文字っぽく見えるけど今の僕にはまだ何て書いてあるのか読めないな。
実は字でも何でもないって可能性もあるけど。
「じゃあまたね」
無事に癒し草も手に入った僕は意気揚々と街に戻るのだった。