38.こちら脱出チーム
<フォニー視点>
今回の脱出作戦で一番の肝になるのが私の初動だった。
監禁部屋の扉を開けた誘拐犯の脇をすり抜けて見張りの男が声を出す前に倒す。
そうすることで敵の増援が来るのを遅らせてスムーズに隠し通路に全員を誘導出来れば最上。
部屋の外に飛び出した私は流れるようにスティックを振るい見張りの男へと向けた。
だけどそこで私の手がぴたりと止まってしまった。
「え……」
「お前は!」
そこに立っていた男の顔が知り合いと凄く似ていたのだ。
でもその人がこの場に居るはずが無いし、居たとしてもゲームキャラの顔をリアルと同じに出来たりはしないので絶対に別人だ。
頭を納得させるまでの一瞬。
その時間は残念ながらその男に行動を起こさせるには十分だったらしい。
カランカランッ
椅子の下に隠されていたベルが鳴らされる。
慌てて殴り倒したけど手遅れだ。
今の音を聞いて敵が大挙してやってくることだろう。
そうなれば作戦は失敗。
捕虜救出どころか私達は死に戻ることになりクエストも失敗に終わるだろう。
私が躊躇わなければ。
そう気落ちしたところでラキア君に肩をポンと叩かれた。
ラキア君は私に一声掛けてそのまま全力ダッシュ。
その後ろ姿には諦めるという選択肢は存在していなかった。
なら私もここで落ち込んでる場合じゃない。
「だっすつすます」
「脱出するわよ。みんな私達に付いてきて!」
舌足らずな私の言葉をコロンちゃんが言い直してくれた。
今連れてこられた2人は状況についていけず目を白黒させていたけど説明してる時間は無い。
先を急がないと今も脱出路を確保しようとしてくれてるラキア君がやられてしまうかもしれない。
その思いはコロンちゃんも同じなのか全速力で通路を走っていく。
ってそんなに急いだら皆付いてこれないから。
そして分かれ道があったすぐ先でラキア君が敵の剣を受け止めているところだった。
本当にギリギリだったらしい。
「ラキア加勢する」
「いや、こっちは良いから予定通り脱出を優先して」
「でも」
「大丈夫大丈夫。みんなが逃げるまでの時間くらいは稼げるから」
なおも言い募ろうとするコロンちゃんに追いついて肩を叩き止める。
最初から私とコロンちゃんの2人で捕まっていた人達を先導する手筈でラキア君がしんがりを務める計画だったのだ。
本当はラキア君のボウガンで追っ手を牽制することで時間稼ぎするって話だったんだけど、追いつかれたら短剣で応戦するとも言っていた。
それがちょっと早まっただけと考えればまだ慌てる段階ではない。
まずは私達の役目を果たそう。
それに。
『これって、ここは任せて先に行けって言うのだと思います』
「あぁ。ってそれ死ぬ奴じゃない。
ラキア。ちゃんと後から追いかけて来なさいよ!」
『ご武運を』
そう声を掛けた私たちは隠し通路のある部屋へと向かい飛び込んだ。
そこで明かりを付けながら一息入れる。
というのも、ラキア君が心配で急いでしまったけど、救助対象の中には早歩きくらいがやっとという人も居る。
そんな状態の人に無理をさせてしまったのでこれ以上急ぐと脱落者が出てしまう。
「皆いる? 私達が先導するから遅れずに付いてきて。
冒険者の方々は最後尾から遅れる人が出ないように見てあげて。
歩くペースが速かったら教えてください」
「分かった」
逸る気持ちを押させつつ狭い通路を明かりを頼りに歩いていく。
道順は来た時のデータが残っているから大丈夫。
念のため脇道に何もないことも確認しつつ先に進む。
「ラキア大丈夫かな」
『敵が追いかけてこないという事は大丈夫なのでしょう』
「だね。
このまま出口まで行ければ良いけど」
コロンちゃん、それはフラグでは?
と思ったけど口にしない。
代わりに道の先がぼんやり明るくなってきた。
出口まではまだ距離があるし出口は閉まってる筈だから明かりは漏れてこない。
つまり誰か来たってことだ。
今いる場所は直線の通路で脇道も無し。
光は突き当りを左に曲がった方から届いているのだろう。
「誰かいるの?」
コロンちゃんが通路の奥に声を掛けると向こうも角を曲がって姿を現しながら返事を返してきた。
「俺たちは冒険者だ。ギルドの依頼で廃都の調査に来たんだ」
男性が3人。捕虜のような人の姿は無し。
言っていることに矛盾は無いし、なら本当にそうなのだろう。
笑顔を浮かべながら落ち着いた様子でこちらへと近付いてくる。
「なら私達と同じですね。
私達はこの先の部屋に閉じ込められていた人を見つけたのでこうして救助している最中です」
「へぇ、お嬢さん達が。それは凄い」
「もし良かったら出口まで先導して頂けないでしょうか」
「OKOK。ところで冒険者は君たち2人だけで後ろの人達は全員誘拐されてきた民間人ってことで良いのかな?」
「はいそうです」
「なるほど、よく分かった。じゃあ死ねっ!」
にこやかな笑顔から一変。
急に殺意むき出しでナイフを突き出してくる男たち。
そんな突然の襲撃に、私たちは余裕でガードが間に合っていた。
「ちっ。なんだバレてたのか」
「作り笑顔を見分けるのは得意だから。ふんっ!」
「ぬおっ」
コロンちゃんが大楯で押し返せば男たちは思わずと言った感じに後ろにのけ反った。
そしてその隙を私は見逃さない。
「はあっ!!」
ズドンッ
裂ぱくの気合と共にスティックで中空を叩けばその衝撃波が男たちを吹き飛ばす。
それを追いかけるようにコロンちゃんの大楯が飛んで行って鳩尾に叩き込まれた。
「よし。撃退完了」
『なかなかに良い連携でしたね』
ふたりでハイタッチを交わした後、倒した男たちを縛り上げて近くの脇道の奥へと放り込む。
「さあ先を急ぎましょう」
「は、はぁ」
戦いが終わるまで待機していた人達に声を掛ければなぜかぎこちない返事が返ってきた。
何か気になることでもあったのかな。
「あの、なぜ先ほどの人達が敵の一味だと分かったんですか?」
「さっき言った通り作り笑顔で近づいてきたからって言うのもあるけど、注意してればちゃんと見分けられるポイントは沢山あったんです」
「そうなんですか……」
そもそもの話、この状況で笑顔だったのも違和感だったし、先導してほしいって伝えた後も変わらずこっちに近づいてきてたのも怪しかった。
そして何よりも、今回の脱出中に出会った相手はプレイヤー以外は全員敵だと思えとラキア君から言われていた。
だから仮に怪しい所が何も無くても殴り飛ばして拘束する予定だった。
誘拐された人が一緒だったら?
その場合は誘拐された人ごと殴り飛ばすことになる。
『え、そんな酷いことをして良いんですか?』
『うん。そうしないと敵はその人を人質にしてくるよ?
そうされない為にも自分たちは一切躊躇しないって姿勢を貫く必要がある。
殴り飛ばしてしまった人には脱出した後で謝ろう』
確かに人質を取られたら私達は戦えなくなってしまう。
その人には殺されるよりはマシってことで納得してもらうしかないだろう。
グチグチ言うようなら敵と一緒に捨てていくと脅すことも視野に入れていた。
ともかく私たちは無事に出口へとたどり着いた。
随分と長く感じたけどそれは要救助者を連れていて緊張していたからだと思う。
隠し通路の出入り口となっている物置小屋に抜けた私たちは、全員居ることを確認してから小屋の外へと出た。
しかしそこには20人を超える武装した人が私達を待ち構えていたのだった。