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37.脱出開始

 イベントの進行当日。

 僕たち3人は無事に予定時間の30分前に全員ログインしていた。

 捕まっている人たちも自分の足で立って歩けるくらいには元気になってるようなので作戦の決行に支障はないだろう。


「改めてこれからの動きの確認ですが。

 まず次に誘拐犯が攫ってきた人をここに連れてきた時が決起するタイミングです。

 その時に一芝居打って油断させたところで僕たちが外の見張りも合わせてなるべく静かに殲滅します。

 そこから全員でここを出て隠し通路を通って外へ。

 その後は用意していた馬車に乗って街へと帰ります」


 僕の説明を聞いて部屋の中の人達は静かに頷いた。


「隠し通路は暗く入り組んでいるので決してはぐれない様に前を歩く人の服を掴んでおいてください。

 体力の残っている方は他の方の事も気を遣いつつ進んでください」


 こんなところかな。

 あ、そうだ。もう1つ大事なことがあった。


「もし、脱出している途中で敵と遭遇して僕たちが倒されてしまった場合。

 逃げられそうになかったら大人しく投降してください。

 皆さんはこの後行われる何かの儀式の生贄として集められたらしいので抵抗しなければその場で殺されることは無いはずです」

「い、生贄!?」

「それじゃあ投降しても結局殺されるんじゃないか」


 僕の「生贄」という言葉に反応して不安な声が広がってしまった。

 もうちょっとオブラートに包んで伝えた方が良かったかな。今更だけど。

 とにかく僕に出来るのは誠意をもって伝えるだけだろう。 


「そうですが、猶予は出来ます。

 彼らの話を盗み聞きしたのですが、儀式を行うにはまだ人数が足りないそうです。

 人数が揃うまでのその数日の猶予の間に他の冒険者が助けに来るのを祈ってください。

 その方が生き残れる可能性は高いです」


 本当は僕たちは倒されても街に戻されるだけなのでもう一度助けに来ることは出来るはずだ。

 でも一度失敗した僕らが「今度は大丈夫ですから」って言ってもきっと信用されない。

 誘拐犯達だって2度目の逃亡は許してくれないだろう。

 だからその場合は冒険者ギルドかミッチャーさんに情報を渡して救助隊を編成してもらおうと思う。


「まあ万が一はってことです。

 無事に隠し通路まで行けたら勝算はかなり高いので安心してください」

「う~む、まぁどのみちここに留まっていては殺されるだけなのだから、助かる道があるならそれに賭けるしかないか」


 一応納得してもらえた所で残りあと数分となった。

 全員でその瞬間がまだかと緊張しながら待った。

 そして。

 ガチャリと外から扉が開けられた。


「おら、お前たちはこの中で大人しくしてろ。

 先に居る奴らとも仲良くな。へっ」


 背中を押される形で部屋の中に入って来たのは男女の2人組。

 幸いにして目立った外傷は無さそうだ。

 そして誘拐犯は2人。少人数で良かった。

 僕は扉を閉められる前に声を上げた。


「あれ、その後ろの人は中に入らないんですか?」

「あん?今回連れてきたのはこの2人だけだ」

「え、でもほら。そこにもう1人」


 言いながら誘拐犯の後ろやや上を指さす。

 同時に他の人達もあたかもそこに誰かが居るといった感じに視線を向けているのを見れば、彼らも無視出来なかったようだ。


「んな背の高い奴が、ってまさかレイスか? ここにはモンスターは出ない筈だが」


 怪訝な顔をしながらも振り返る誘拐犯たち。

 よし、今だ。


(ふっ)

「なっ、おまっ」


 音もなくフォニーが誘拐犯たちの間をすり抜ける。

 驚いてこちらが意識から外れた隙に僕とコロンで彼らの後頭部を殴って気絶させる。

 後はその見張りをフォニーが倒してくれれば脱出作戦その1は成功、なんだけどそう上手くはいかない。


カランカランッ

「ぐふっ」


 通路に鳴り響くベルの音。

 部屋の外に出てみれば見張りの男がベルを持った状態で倒れていた。

 どうやら一歩遅かったようだ。


『ごめんなさい』

「ううん、大丈夫。計画は続行で。

 みんなの事はお願い」


 しゅんとしているフォニーを怒る気は無いし、慰めている時間も無い。

 僕は後のことを任せてひとり通路の先へと急ぐ。

 頑張れ僕の足。ちゃんと走ってくれよ。

 その願いが通じたのか無事に分岐のところまで誰よりも先に来ることが出来た。

 ここを右に曲がれば隠し通路のある部屋まで障害はないはず。

 ただ当然さきほどのベルの音を聞きつけた敵が正面の通路の奥、多分上の階から階段で降りてやってきていた。


「おやおや、ネズミが紛れ込んでいましたか」


 絵に描いたような怪しい風体ということなのか頭からすっぽりと黒ローブを纏った男たち。

 いや声からして先頭のは男だろうという事で他は分からない。

 まあ性別なんてどうでも良いことだ。


「悪事を働くなら人の目だけでなく虫の視線も気に掛けておくことだね」

「ネズミではなく蠅のたぐいだったか。奴らには気を付けるように伝えておこう」

「残念。蠅じゃなくて蜂だ。

 それよりここは通行止めにさせてもらう」

「ほほぉ。我々をたった1人で足止めすると?

 なかなかに凄い自信だ。

 それがこけおどしで無いことを見せて貰おうか」


 言いながら男が手を差し出すと後ろに控えていた内の2人が流れるように前に出て僕に剣を向けてきた。


ギギンッ


 両手の短剣で防いだもののかなり重い一撃だ。

 ここが狭い通路で振りが小さい分、パワーが乗ってなかったから大丈夫だったけど外だったら押し負けていたな。


「お見事。あれだけ大口叩いておいてあっさり死んだらどうしようかと思ってたよ」

「そりゃどうも」

「しかしどこまで耐えられるかな」


 どこか楽し気なのは自分たちに絶対の余裕があるからだろう。

 本気になればいつでも僕を倒して逃げる捕虜を捕まえられるってことか。

 続く剣戟も何とか受け止めるけど不味いな。

 2対1では反撃の糸口が無い。

 そこへ後ろから複数の足音と聞きなれた声が聞こえてきた。


「ラキア加勢する」

「いや、こっちは良いから予定通り脱出を優先して」

「でも」

「大丈夫大丈夫。みんなが逃げるまでの時間くらいは稼げるから」


 こちらに加勢しようとするコロンに振り返ることなく脱出を促す。

 コロンは一瞬躊躇ったようだけど、フォニーの助言もあったのか足を止めることなく通路を右に曲がっていった。


「ちゃんと後から追いかけて来なさいよ」

「了解」


 走り去る前にそう言伝を置いて行ってくれた。

 これは俄然頑張らないといけないな。

 先に死に戻ったりしたら頭叩かれそうだ。

 その後ろをバタバタと走っていく大勢の足音は捕まっていた人達のものだろう。

 これで脱出作戦その2も無事に上手くいった。

 後はコロン達がみんなを外まで誘導して、僕がそれまで敵をここに釘付けにしておけば作戦はほぼ完了だ。



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